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『異世界で「ツボ」を突いたら神と呼ばれた件 〜指一本で魔王も聖女も救い出す、世界唯一の最強聖鍼術〜  作者: 鍼灸師いのぴー
【第三章:異界の病根と共鳴する銀鍼】

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203/271

第203話:失われた右腕、残された黒銀の約束

3月29日、10:00。休日2回目の更新をお読みいただきありがとうございます。


翡翠の悪夢が去り、王都に本当の春が訪れました。

しかし、目覚めたくるるの右肩には、もはや指先の感覚も、鍼を握る熱も残っていません。


「……先生、……おはようございます。……お粥、……持ってきましたよ」


献身的に支えるミナの声。

枢は、包帯に巻かれた右肩を見つめ、自身の「鍼灸師」としての命が終わったことを悟ります。


「……枢、……泣くんじゃねえぞ。……お前の右腕は、……俺が『預かった』だけだ」


むくろが遺した手紙に記された、驚愕の真実。

失われた右腕は、終わりではなく、新たな「因果の治療」への招待状でした。


聖鍼師・枢、第二章の幕開けです。

 窓の外から、子供たちの笑い声が聞こえてくる。

 かつて翡翠の彫像となって静止していた王都の街並みは、今、春の陽光を浴びて、力強い再生の音を奏でていた。

 

 王都の臨時診療所。そのベッドの上で、くるるはゆっくりと目を開けた。

 数日間に及ぶ深い眠りの後。意識ははっきりとしていたが、右肩から先が、まるでもうこの世界に存在しないかのように「軽い」ことに、彼はすぐに気づいた。


「……あ、……あぁ……。……本当、……だったんですね」


 枢は、自身の左手で、包帯が厚く巻かれた右肩の断面をなぞった。

 指先に触れるのは、硬いガーゼと、むくろが施した「焼灼」の跡。

 かつて数万人の患者の脈を診て、繊細な銀鍼を操り、命を繋ぎ止めてきた彼の誇り――そのすべてが、翡翠の塵となって消え去っていた。


「……先生!! ……目が、……覚めたんですね!!」

 扉が勢いよく開き、ミナが駆け寄ってきた。

 彼女の目には涙が浮かんでおり、手にしたお盆の上では、温かなお粥が湯気を立てている。


「……ミナさん。……おはよう、……ございます。……随分、……長く寝てしまったようですね」

 枢は、無理に微笑もうとしたが、顔の筋肉が強張って、歪な形になった。


「……三日間です。……エドワード国王陛下も、……ガウェイン様も、……何度も見舞いに来てくださいましたよ。……都の人たちはみんな、……先生のことを『救国の聖鍼師』だって……」


「……救国、……ですか。……私はただ、……目の前の患者さんを、……診ただけなのですが……」


 枢は、ベッドの横に置かれた、自身の「往診鞄」に目をやった。

 鞄はボロボロになり、中の銀鍼もその多くが砕け散っている。

 右腕を失った今、この鞄を開けても、彼にできることは何もない。

 診察はできても、治療の「すべ」を、彼は永遠に失ってしまったのだ。


「……あの、……先生。……これを」

 ミナが、枕元に置かれていた一通の封筒を枢に差し出した。

 煤で汚れ、あちこちに血の跡がこびりついた、無骨な封筒。


「……骸さんは、……先生が眠っている間に、……王都を去りました。……『あいつが起きたら渡してくれ』って、……これだけを残して……」

 枢は、震える左手で封筒を開いた。

 中から現れたのは、骸らしい、乱暴で歪な文字。


枢へ


勝手に寝てんじゃねえよ。おかげで、俺の寿命が半分以上削られたままだ。


お前の右腕は、俺が『泥の経絡』として引き受けた。

今の俺の右腕の中には、お前の『聖鍼師の気』が、不愉快なほど脈動してやがる。


いいか、枢。鍼灸師に、腕が一本なきゃいけねえなんて、誰が決めた?

お前には、まだ『眼』がある。俺には、お前から奪った『腕』がある。


俺は、この腕を使って、世界の裏側に蔓延る『編纂者たちの残党』を根こそぎ診てくる。

お前は、その一本の腕で、新しい『鍼』の形を探せ。


次に会う時までに、左手一本で俺を黙らせるくらいの術を見つけておけ。

あばよ、相棒。


追伸:この鍼は、俺からの『担保』だ。


封筒の底から、一本の鍼が滑り落ちた。

 それは、骸が使っていた漆黒の鍼でもなく、枢の銀鍼でもない。

 深い黒の芯に、銀色の光が螺旋のように絡みついた、見たこともない**『黒銀の双鍼』**。


「……骸、……あなたという人は……」

 枢は、その黒銀の鍼を左手で握りしめた。

 瞬間、失われたはずの右腕の先から、微かな「共鳴」が響いたような気がした。

 

 骸の寿命。骸の腕。

 二人の因果は、あの一戦を通じて、もはや切り離せないほどに深く結びついていた。

 骸が世界の裏側を診るなら、自分はこの世界の表側を、再び歩き出すしかない。


「……ミナさん。……少しだけ、……肩を貸してくれますか」


「……えっ!? ……まだ寝ていないとダメですよ!!」

「……いいえ。……外の、……新しい『気』を、……診に行きたいんです」


 枢は、ミナに支えられながら、ふらつく足取りでベッドから立ち上がった。

 診療所の窓を開けると、王都の再建を急ぐ人々の、活気に満ちた「生きた気」が、心地よい風となって流れ込んできた。

 

 右腕はない。

 だが、彼の胸の奥にある**『膻中だんちゅう』**の熱は、以前よりも強く、静かに燃えていた。

 

 数分後。

 診療所の門を叩く音が響いた。

 

「……枢先生!! ……大変です!! ……瓦礫の撤去作業をしていた人たちが、……急に原因不明の『呼吸困難』に……!!」


 助けを求める市民の声。

 枢は、迷うことなく、ボロボロになった往診鞄を左肩にかけた。


「……行きましょう、ミナさん。……往診の時間です」


 第203話。

 右腕を失った聖鍼師。

 左手一本、そして相棒から託された黒銀の鍼を携え、枢の「第二の人生」が、ここから静かに、そして熱く始動する。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


3月29日(日)、10:00の更新をお届けいたしました。

王都奪還編の激闘が終わり、物語は「喪失と再起」のフェーズへと移りました。

右腕を失うという大きな代償を払ったくるるですが、むくろとの間に生まれた新たな「黒銀の絆」が、彼に再び立ち上がる理由を与えました。


今回登場した術理、『膻中だんちゅう』。

これまでも何度も登場しましたが、今回は「魂の灯火を絶やさない場所」としての役割を強調しました。

腕がなくなっても、中心コアが死んでいなければ、鍼灸師としての生は終わらない。枢の強い意志の象徴です。


次回、第204話は本日**【12:00】**に更新予定です!


右腕を失った状態で挑む、最初の治療。

瓦礫の中から現れたのは、単なる負傷ではない、編纂者たちが遺した「因果の毒素」による新たな症例。

枢は、左手一本でどうやって鍼を打ち、患者を救うのか。


休日の全6回更新、お昼の回も目が離せません。

引き続き、応援の評価やブックマークをよろしくお願いいたします!

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