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『異世界で「ツボ」を突いたら神と呼ばれた件 〜指一本で魔王も聖女も救い出す、世界唯一の最強聖鍼術〜  作者: 鍼灸師いのぴー
【第三章:異界の病根と共鳴する銀鍼】

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202/275

第202話:泥の右腕、因果を穿つ双鍼の共鳴

3月29日、08:00。日曜日、最初の更新をお読みいただきありがとうございます。


翡翠の塵となった右腕。

その断面に、むくろが自身の寿命を削って繋ぎ止めた、不浄にして神聖な『泥の経絡』。


「……枢、……その腕は長くは持たない。……お前の『生』が泥に飲み込まれる前に、……あの仮面の心臓を、……引き抜いてこい!!」


骸の咆哮を背に、くるるは一歩、ゼノヴィアへと踏み出します。


「……ゼノヴィア。……あなたは、……世界を治そうとして、……世界を『殺して』いる。……私が今から、……その歪んだ執刀を、……一本の鍼で止めてみせます」


聖鍼師と死鍼師、二人の魂が一本の銀鍼に宿る時。

因果の鎖を断ち切る、究極の刺鍼が王都の空を貫きます。

 翡翠の王座の間は、もはや現世のことわりから切り離された異界となっていた。

 天井の隙間から差し込む月光さえも、ゼノヴィアが放つ「静止の圧力」によって歪められ、薄緑色の檻のような影を床に落としている。


 くるるの右肩から先。

 そこにあるのは、肉でも骨でもない。

 漆黒の泥のような瘴気と、枢自身の翡翠色の気が激しく螺旋を描き、猛々しく波打つ「概念としての腕」だった。

 一歩踏み出すごとに、その泥の腕からはバリバリと空間を削り取るような放電現象が起こり、枢の全身を苛烈な痛みが突き抜ける。


「……ぐ、……あぁ……ッ!!」

 枢の左手が、自身の胸元にある**『中府ちゅうふ』**を強く圧した。

 むくろから流れ込む死の気は、毒であると同時に、枢の壊れかけた経絡を強引に繋ぎ止める「かすがい」となっていた。


「……無意味な足掻きを。……枢、……その腕が動くたびに、……あなたの『命の灯火』は泥に汚染され、……二度と元には戻らぬ漆黒の闇へと堕ちていくというのに」

 ゼノヴィアが、白銀の仮面の下で冷酷に嘲笑った。

 彼の手元にある「因果の核」が脈動し、空間そのものが結晶化して、無数の「宝石の刃」となって枢へと降り注ぐ。


「……カザン殿!! ……サロメさん!!」

 枢が叫ぶ。


「……言われなくても分かってらぁ!! ……お前の背中は、……この槍が、……死んでも守り抜く!!」

 カザンが咆哮し、槍の穂先から紅蓮の闘気を立ち昇らせた。

 降り注ぐ宝石の刃を、一振りで粉々に打ち砕き、炎の旋風を巻き起こす。


「……氷の聖域よ、……我が意志に従い、……因果の鎖を凍てつかせなさい!!」

 サロメが扇子を翻し、絶対零度の冷気を放射した。

 結晶の増殖を物理的に停止させ、枢の周囲に一瞬だけの「空白」を作り出す。


 その隙間を、枢は逃さなかった。

 泥の右腕が、往診鞄から弾き飛ばされた一本の銀鍼を、磁石のように吸い寄せた。

 それは、父から受け継いだ形見でもなく、伝説の無垢鍼でもない。

 万博の時に枢が自ら鍛え、数多の平民の腰痛や肩こりを癒してきた、ただの「使い古された銀鍼」だった。


「……ゼノヴィア。……あなたは、……不変こそが救済だと言いました。……ですが、……鍼灸師が診るものは、……常に『変化』です。……昨日より今日、……今日より明日……、……少しでも楽になりたいと願う、……その微かな気の揺らぎこそが、……生命の証なのです!!」


 枢は、泥の右腕に全霊の気を集束させた。

 翡翠の光と漆黒の泥が混ざり合い、銀鍼の先端に、この世のものとは思えないほど鋭利な「白黒の光芒」が宿る。


「……骸!! ……今の私には、……あなたの『目』が必要です!!」


「……あぁ、……分かってるとも!! ……死にゆく因果の……一番脆い『ひび割れ』……。……そこを突け、枢!!」

 枢の背後で、血塗れの骸が自身の両眼を指先で圧した。

 骸の視覚が、枢の翡翠眼と完全に同調する。

 

 見えた。

 ゼノヴィアの全身を覆う、何重にも重なり合った因果の防壁。

 その防壁が、心臓部の「核」へとエネルギーを送る、万分の一秒の瞬き。

 そこだけが、唯一、この世界の理に従う「生の脈動」を刻んでいる。


「……そこだッ!!」


 枢が跳躍した。

 泥の右腕が、空間を切り裂き、因果の防壁を「素手」でこじ開ける。

 ゼノヴィアが驚愕に目を見開いた。


「……何だと……!? ……物理的な接触が不可能なはずの因果を、……泥が、……腐食させているというのか!?」


「……鍼灸最終奥義、……『双龍そうりゅう・因果のくさび』!!」


 枢は、泥の右腕をゼノヴィアの心臓部、因果の核が剥き出しになった瞬間――**『神封しんぽう』**へと突き立てた。

 

 ――ズドォォォォォォォォォォォォンッ!!!

 

 翡翠の光と漆黒の泥が、ゼノヴィアの体内へと一気に逆流した。

 それは、静止していた彼の因果に対し、「強制的な流転」を命じる、鍼灸師としての最終宣告。

 

「……ぐ、……がはぁッ……!! ……何だ、……この……奔流は……!! ……私の演算が、……不変の数式が、……崩れていく……!!」

「……あなたは、……世界を数式で計ろうとしました。……ですが、……人の気は、……絶望の淵でも、……常に明日を夢見て、……不規則に、……美しく乱れるものなのです!!」


 枢が銀鍼をさらに深く押し込む。

 泥の右腕が、ゼノヴィアの体内の邪気を吸い出し、浄化された気が再び王都へと還っていく。

 

 バキッ、パリンッ……!!

 

 ゼノヴィアの白銀の仮面が、真っ二つに割れた。

 その下から現れたのは、かつて医療の道を志し、絶望の中でその志を折った、一人の老いた男の、後悔に満ちた素顔だった。


「……あ、……あぁ……。……暖かい……。……この鍼の熱は、……かつて、……私が師から教わった……」

 ゼノヴィアの身体から、翡翠の結晶が砂となって剥がれ落ちていく。

 彼の手の中にあった「因果の核」は、柔らかな光の粒子となって霧散し、王都の地下へと還り、大地の経絡を正常な状態へと修復し始めた。


 戦いは、終わった。

 

 王座の間を覆っていた異界の霧が晴れ、本当の朝陽が、崩れた天井から差し込んでくる。

 

「……はぁ、……はぁ、……はぁ……」

 枢は、その場に膝を突き、激しく喘いだ。

 泥の右腕は、目的を果たしたかのように、静かに形を失い、枢の肩口から消えていった。

 断面は、骸の泥鍼によって焼灼しょうしゃくされ、出血は止まっていたが、枢の顔色は死人のように青白い。


「……枢……、……おい、……返事をしろ、……枢!!」

 骸が這い寄り、枢の身体を揺さぶる。


「……あ、……はは……。……骸、……終わりましたね……。……おじいさんの顔、……最後は、……とても穏やかでした……」


 枢は、そう言い残すと、糸の切れた人形のように骸の胸の中へと倒れ込んだ。

 

 王都に、朝の鐘が響き渡る。

 それは因果の編纂者たちが鳴らした死の鐘ではなく、新しき一日の始まりを告げる、清らかな希望の音色だった。


 だが、聖鍼師・枢の右腕は、戻ることはない。

 そして、骸から分け与えられた「死の気」が、彼のこれからの運命をどう変えていくのか。

 

 第202話。

 王都奪還編、完結。

 物語は、右腕を失った鍼灸師の「再起」と、世界を巡るさらなる往診の旅へと続いていく。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


3月29日(日)、本日の第1回目更新、過去最大のボリュームでお届けいたしました!

因果の編纂者の首領ゼノヴィアを、泥の右腕と銀鍼で「解脱」させたくるる

物理的な勝利ではなく、彼の歪んだ信念(病理)を治療し切ったという結末は、まさにこの物語の真骨頂です。


今回登場した術理、『神封しんぽう』。

胸骨の脇、第2肋間に位置するこの穴は、文字通り「神(魂)を封じる場所」とされています。ゼノヴィアが自身の魂を因果の数式に封じ込めていた場所を、枢が鍼で解放するという比喩的な意味を込めました。


次回、第203話は本日**【10:00】**に更新予定です!


戦いの後の王都。

右腕を失い、数日間の眠りから覚めた枢の前に現れたのは、王都の再建を誓うエドワード国王と、そして……骸からの「最後の手紙」でした。


日曜日の全6回更新、次は2時間後。

枢の新たな一歩を、絶対に見届けてください!

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