第20話:聖鍼師の休日と、王女様の隠し味
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魔王城から生還した枢を待っていたのは、王女様の猛烈な説教と……手作りのお菓子!?
殺気立った空気から一転、今回は甘い「休日」のエピソードをお届けします。
聖鍼師、ついに胃袋を掴まれる……?
魔王城から無事(?)に帰還した枢を待っていたのは、王宮を揺るがすような盛大な歓迎……ではなく、膨れっ面をした一人の王女だった。
「枢様! 無茶が過ぎますわ! あんな恐ろしい場所へ一人で行って、もし何かあったら……!」
セレスティアラ王女は、枢の無事を確認するなり、その胸板をポカポカと叩いた。だが、その瞳にはうっすらと涙が浮かんでいる。
「……王女様、叩く場所が『中府』です。肺の経絡を刺激されると咳が出ますよ」
「そんなことはどうでもよろしいのです! ……もう、本当にお疲れ様でした。今日はもう、治療院はお休みです。わたくしが、枢様を『癒やす』番ですから!」
そう言って彼女に連れ出されたのは、王都の喧騒から少し離れた、緑豊かな王宮の庭園だった。
白いテーブルの上には、王女が自ら用意したという色鮮やかな茶菓子が並んでいる。
「さあ、召し上がれ。枢様に教わった『健康に良い茶葉』を特別にブレンドしたのですわ」
王女は甲斐甲斐しく茶を淹れる。その手つきは少しぎこちないが、枢を見つめる瞳には、隠しきれない敬愛の情が溢れていた。
「……ふむ。香りは悪くない。ですが王女様、このお菓子……少し砂糖を控えすぎではありませんか? 健康を意識するのは良いですが、脳の疲れには適度な糖分も必要です」
「……っ。もう、一口目からダメ出しですの!? せっかく枢様のために、専属の料理人と朝から喧嘩してまで作ったのに……」
シュンと肩を落とす王女。枢はそんな彼女を眺めながら、ふと、彼女の手元に目をやった。
白い指先に、小さな火傷の跡。慣れない厨房で苦戦した証拠だ。
「……王女様。手を出しなさい」
「えっ? は、はい……きゃっ!?」
枢は王女の手首を優しく掴むと、火傷の周囲にある『陽池』のツボを親指でそっと撫でた。
「……熱を逃がしました。すぐ引くでしょう。……それと」
枢は、不格好な形のクッキーを一つつまみ、口に運んだ。
「……味は、悪くないですよ。あなたの『気』がこもっているのが分かります。疲れた体に、一番効く薬かもしれませんね」
「~~っ! そ、そういうことを、平然とおっしゃる……!」
セレスティアラ王女の顔が、湯気を出しそうなほど赤く染まる。彼女は照れ隠しに、自分の茶を一気に飲み干した。
「……枢様。わたくし、決めましたわ」
「何をです?」
「わたくし、もっと勉強します。枢様の助手として、あなたの隣にいても恥ずかしくないくらいに。……ですから、勝手に一人で危ないところへ行かないと、約束してくださいませ」
真剣な眼差しで指を差し出す王女。枢は苦笑しながら、その小指に自分の指を絡めた。
「……善処しましょう。助手が寝不足で倒れては、元も子もありませんからね。……ほら、座りなさい。お礼に、肩のコリを取ってあげますよ」
午後の柔らかな光の中、王女の嬉しそうな声が庭園に響く。
魔王を黙らせた聖鍼師も、この可愛らしい「助手」の熱意には、どうやら一本取られたようだった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
普段は冷静な枢も、一生懸命な王女様には少し甘くなってしまうようです。
今回登場した『陽池』は、実際に手の冷えや、炎症の熱を抑えるのに使われるツボです。
「王女様のデレが可愛すぎる!」
「枢先生、そこはもう恋ですよ!」
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次回、第21話は本日**【12:00】**に更新予定。
平穏な王宮に、今度は「海」を越えた場所から、巨大な影が忍び寄る……!?




