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『異世界で「ツボ」を突いたら神と呼ばれた件 〜指一本で魔王も聖女も救い出す、世界唯一の最強聖鍼術〜  作者: 鍼灸師いのぴー
【第二章:鋼鉄の帝国と腐敗の科学】

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第182話:大地の太谿(たいけい)、天罰を呑み込む黄金の鍼

3月24日、18:00。夕暮れの更新をお読みいただきありがとうございます。


闇の鍼灸師・むくろを退けたくるるの前に現れたのは、王都最高医局が放つ最終兵器、広域殲滅魔術『天罰のジャッジメント・ニードル』。

雲を割り、天から降り注ごうとする巨大な光の質量を前に、宿場町の人々は絶望に震えます。


「……街を、……焼かせはしません。……この土地にも、……守るべき『脈』があるのですから」


枢が往診鞄から取り出したのは、これまで一度も使われることのなかった、黄金の長鍼。

彼が狙ったのは、天の光ではなく、足元の「大地のツボ」でした。


街全体を一つの「患者」として診る、聖鍼師の究極奥義。

夕闇を切り裂く、翡翠の輝きを目撃してください。

 王都の方向から、空を裂くような高周波の駆動音が響き渡った。

 夕焼けに染まっていた空が、不自然なほどの白銀色に塗り替えられ、巨大な魔力回路が雲の隙間に描き出されていく。

 それは王都最高医局が誇る、対軍用広域殲滅魔術『天罰のジャッジメント・ニードル』。本来、巨大な魔獣を討伐するために開発されたその術式が、今、一人の鍼灸師を抹殺するために、無辜の民が住む宿場町へと向けられていた。


「……正気かよ、……あいつら! ……街ごと俺たちを焼き払うつもりか!」

 カザンが空を見上げ、忌々しげに槍を地面に叩きつけた。

 らんもまた、自身の漆黒の魔力を全開にし、防壁を築こうとするが、空から降り注ぐ圧倒的な熱量の前では、それさえも薄い紙同然に感じられた。


「……逃げてください! ……皆さん、……今すぐ地下へ!!」

 サロメが住民たちに叫ぶが、恐怖に足がすくんだ人々は、ただ空を見上げ、震えることしかできない。


 その絶望の渦中で、くるるだけは、静かに目を閉じていた。

 彼の翡翠眼ひすいがんが見ているのは、空の魔術ではない。

 足元の石畳。その下を流れる、膨大で、力強い大地の気の流れ――**『地脈ちみゃく』**だ。


「……街を一つの肉体として捉えれば、……この広場は、……気の巡りが最も集まる『原穴げんけつ』に相当する。……ならば、……受け止めることは可能です」


 枢は、往診鞄の底に封印されていた、一本の黄金の長鍼を取り出した。

 それは、万博での功績により世界の心臓から溢れ出た「根源の欠片」を鍛え上げた、伝説の鍼。


「……枢さん、……何をなさるおつもりですの!? ……あんな巨大なエネルギー、……鍼一本でどうにかできる規模ではありませんわ!」


「……サロメさん。……鍼灸の本質は、……力と力をぶつけ合うことではありません。……余った気を『流し』、……足りない場所へ『導く』ことにあるのです」


 枢は広場の中央、古びた噴水の跡地へと歩み寄り、自身の膝を突いた。

 空では、魔術の充填が完了し、白銀の光が今まさに放たれようとしている。


「……ここが、……この街の**『太谿たいけい』**だ」


 枢は黄金の長鍼を、石畳の隙間、地脈が最も激しく拍動している一点へと、自身の全体重をかけて突き立てた。

 

 ――ズ、ドォォォォンッ!!


 石畳がクモの巣状に割れ、地底から翡翠色の光が噴き出した。

 太谿は、腎経の原穴であり、生命の源泉を呼び覚ます場所。

 枢は街全体の経絡を、自身の身体を介して黄金の鍼へと接続したのだ。


 直後。

 空から『天罰の針』が、落雷のごとき勢いで降り注いだ。

 

 ――ゴォォォォォォォォォォッ!!

 

 街全体が真っ白な光に包まれ、誰もがその終焉を覚悟した。

 だが、爆発音は響かなかった。

 

 宿場町を直撃した莫大な魔力エネルギーは、枢の黄金の鍼に触れた瞬間、渦を巻くようにして地中へと「吸い込まれて」いったのだ。

 

「……な、……何を、……何が起きている……!?」

 遠くで観測していた最高医局の魔導師たちが、驚愕の声を上げた。

 

 枢は、黄金の鍼の末端を両手で握りしめ、歯を食いしばって耐えていた。

 彼の肉体を通って、天の破壊エネルギーが、大地の深淵へと流し込まれていく。

 鍼灸の術理、『導気どうき』。

 

 「満てるをしゃし、虚せるをす」

 

 空の過剰なエネルギー(実)を、大地の深い眠り(虚)へと還元する。

 枢は、街そのものを一つの巨大な「患者」に見立て、天罰という名の急性の「高熱」を、大地の「冷え」で中和したのだ。


「……巡れ、……巡れ……! ……破壊ではなく、……再生の糧となって……!!」


 枢の叫びと共に、黄金の鍼から翡翠の波紋が広場中に広がった。

 地中に吸い込まれた魔力は、大地の経絡を通って、街の木々や花々へと供給され、冬枯れしていた街路樹が一瞬にして青々と茂り、季節外れの花が咲き乱れた。


 空の魔方陣が、エネルギーを使い果たして霧散していく。

 後に残されたのは、奇跡のような緑に包まれた宿場町と、黄金の鍼を握ったまま、肩で息をする一人の鍼灸師の姿だった。


「……ふぅ、……あ、……カハッ……」

 枢の喉から、再び血の混じった咳が漏れる。

 

 だが、住民たちの瞳からは、先ほどまでの恐怖は消えていた。

 彼らは、自分たちを救った「本物の聖鍼師」の姿を、その目に焼き付けていた。

 

「……見たか、……最高医局の連中め。……これが、……俺たちの『聖鍼師』の医術だ!!」

 一人の漁師が叫ぶと、街中に地鳴りのような歓声が巻き起こった。


 枢は、割れた眼鏡を直し、ゆっくりと立ち上がった。

 空には再び、穏やかな一番星が輝き始めている。

 

「……これで、……少しは静かになりますね」

 

 しかし、枢の視線は、王都のさらに奥、……王城の地下深くに眠る「真の闇」を捉えていた。

 最高医局がここまで強硬な手段に出た理由。

 それは、枢が万博で救った「世界の心臓」が、彼らにとっては不都合な「真実」を告げようとしているからに他ならなかった。

 

 枢は、自分の診療所に辿り着く前に、この世界の「病根」をその鍼で抉り出す覚悟を決めた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。 


3月24日(火)、18:00の更新をお届けいたしました。

国家規模の殲滅魔術に対し、くるるが放ったのは、街全体の経絡を調律する『大地の太谿たいけい』でした。

破壊の力を再生の糧に変える。これこそが、命を慈しむ聖鍼師の術理の極致です。


今回登場した術理、『太谿たいけい』。

先日の海辺のエピソードでも登場しましたが、今回はそれを「地脈(土地の気)」に応用しました。太谿は腎経の原穴であり、あらゆる気の「源泉」であり「貯蔵庫」でもあります。枢は黄金の鍼を避雷針のように用い、天からの過剰なエネルギーを地脈の太谿へと『導気』することで、街を破滅から救い、逆に生命力で満たしました。


次回、第183話は本日**【21:00】**、本日最後の更新です!


ついに王都へと足を踏み入れる枢一行。

待ち構えていたのは、王宮の門を封鎖する数千の騎士団と、最高医局の総帥。

枢が放つ最後の一鍼が、歪んだ世界の「喉元」を穿ちます。


本日最後の更新、物語は最高潮の盛り上がりへ。

引き続き、評価やブックマークでの応援をよろしくお願いいたします!

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