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『異世界で「ツボ」を突いたら神と呼ばれた件 〜指一本で魔王も聖女も救い出す、世界唯一の最強聖鍼術〜  作者: 鍼灸師いのぴー
【第二章:鋼鉄の帝国と腐敗の科学】

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第181話:影鍼の再来、経絡を断つ死の震動

3月24日、12:00。お昼の更新をお読みいただきありがとうございます。


偽の「聖鍼師」を名乗り、人々を食い物にしていた男を退けたくるる

しかし、広場に集まった群衆の影から、かつて枢が唯一「その技術だけは認めざるを得なかった」という宿敵、闇の鍼灸師・むくろが姿を現します。


「……久しぶりだな、枢。……英雄になった貴様に、……地獄の底から這い上がってきた『死鍼ししん』の味を教えてやる」


患者を救うための鍼と、痛みを増幅させ支配するための鍼。

宿場町の路地裏で、二人の天才による、音もなき「経絡の奪い合い」が始まります。

聖鍼師の翡翠眼が、闇に潜む一筋の毒鍼を捉えます。

 広場に集まっていた群衆が、潮が引くようにくるるの周りから離れていった。

 先ほどまで威勢よく喚いていた偽医者の男は、腰を抜かしたままガタガタと震え、路地裏の暗がりに向かって助けを求めるような視線を送っている。


「……出てきなさい。……あなたの『濁った気』は、……隠しきれていませんよ」


 枢の声に呼応するように、建物の隙間から、一人の痩せこけた男が揺らめく影のように現れた。

 墨色のボロボロの法衣を纏い、背中には異様なほど長く、歪な形の往診鞄を背負っている。その男の瞳は、枢の翡翠ひすいとは対照的に、どす黒く濁った底なしの闇を湛えていた。


「……ククッ、……相変わらず鼻が利く。……万博で神を救った英雄様ともなれば、……凡夫の気など、……塵芥ちりあくたに見えるだろうな」


「……むくろ。……やはり、……生きていたのですね」


 サロメが鋭い視線を男に投げ、扇子を固く握りしめた。

 骸。かつて王都最高医局の禁忌を犯し、患者の「痛みの感覚」だけを増幅させて廃人にするという外法――**『死鍼ししん』**を編み出した、最悪の鍼灸師だ。枢が王宮を去るきっかけとなった事件の、元凶の一人でもある。


「……王都の最高医局が、……自分たちの既得権益を守るために、……貴公を野に放ったというわけですか。……偽医者を流行らせ、……人々の不安を煽り、……最後は『本物』であるはずの私を排除する。……実につまらない筋書きだ」


「……理屈はどうでもいい。……俺はただ、……貴様のその清廉潔白な翡翠の気を、……この黒い鍼で泥に染めてやりたいだけだ!」


 骸が懐から、漆黒の極細鍼を取り出した。

 それは通常の金属ではなく、死者の骨を削り出し、瘴気を染み込ませたという呪いの道具。


「……カザン殿、……手出しは無用です。……これは、……医術の形を借りた『対話』ですから」


「……ケッ、……分かってるよ。……だが、……危なくなったら俺が叩き潰してやるからな」


 骸が動いた。

 身体を低く沈め、まるで獣のような足運びで間合いを詰める。

 彼の手首が微かにスナップした瞬間、三本の黒鍼が、枢の視界の死角から放たれた。


 狙いは、枢の肘の内側にある**『少海しょうかい』と、脇の下の『極泉きょくせん』**。

 心経の要穴を同時に穿ち、枢の心臓を一時的に停止させる狙いだ。


「……甘い」


 枢は動かなかった。

 鍼が肌に触れる直前、彼の指先が、流れるような円を描いて空を薙いだ。

 

 パシッ、パシッ、と乾いた音が響く。

 枢の指先に挟まれていたのは、骸が放った三本の黒鍼。

 枢は自らの指先の**『十宣じゅっせん』**――爪の生え際にある急救の穴に気を集中させ、鍼の軌道を指先一つで読み切ったのだ。


「……経絡の知識を、……人を害するために使う。……それは、……鍼灸師としての魂を捨てることです」


「……うるさい! ……救いなど、……絶望の先にある一時の幻に過ぎん! ……『断脈・影落とし』!!」


 骸が空中に飛び上がり、自身の身体から噴き出した漆黒の気を鍼に乗せて、無数に撒き散らした。

 それは物理的な鍼ではない。音も光もない、「気の棘」だ。

 

 路地裏全体が、骸の放つ負のエネルギーに飲み込まれる。

 刺されば、全身の神経が「最大級の激痛」を誤認し、ショック死を招く死の雨。


「……サロメさん、……リナさん、……下がってください……!」


 枢は、自身の往診鞄から、万博で世界の心臓を救った際にウリエルから託された「不老の雫」が染み込んだ、特製の金鍼を一本、取り出した。


 枢は自身の足首、内くるぶしの下にある**『照海しょうかい』**へと、自ら一鍼を刺し通した。

 照海は、全身の「陰」の気を統括する「陰蹺脈いんきょうみゃく」の起点。

 

 そこから、枢は翡翠の気を一気に噴出させた。

 だが、それは外へ向かう攻撃ではない。

 自身の身体を中心とした、半径数メートルの「聖域」の構築。


 ――キィィィィィィィィンッ!!

 

 骸の放った黒い「気の棘」が、枢の翡翠の障壁に触れた瞬間、朝日に焼かれた霧のように消滅していった。


「……な、……私の死鍼が、……無効化されただと……!? ……馬鹿な、……貴様の気は、……万博を終えて枯れ果てているはずでは……!」


「……気は、……貯蔵するものではありません。……天と地、……そして患者の命と共鳴して『巡らせる』ものです。……枯れることなど、……ありませんよ」


 枢は、障壁を維持したまま、静かに骸へと歩み寄った。

 

「……骸、……あなたの喉の奥にある、……その『詰まり』……。……無理な外法の修行で、……自身の肺経を焼き切っていますね。……その苦しみを誤魔化すために、……他者に痛みを振りまいている」


「……黙れ! ……俺に説教するな!!」


 逆上した骸が、最後の黒鍼を枢の喉元へと突き出した。

 だが、枢の指先が、骸の手首の**『列欠れっけつ』**を、雷のような速さで弾いた。


「……眠りなさい。……あなたの『肺』を、……一度リセットします」


 枢が骸の胸元、鎖骨の下にある**『中府ちゅうふ』**へと、柔らかく掌を当てた。

 翡翠の気が、骸の荒れ狂う経絡へと滑り込み、火事の現場を冷水で鎮めるように、一気に沈静化させていく。


「……ぁ、……あぁ……。……息が、……楽に……」


 骸の瞳から濁った色が消え、彼は崩れるようにその場に膝をついた。

 手から黒鍼が滑り落ち、カランと虚しい音を立てて路地の石畳を転がっていった。


 広場を支配していた重苦しい気が、春の風に吹かれるように晴れていく。

 

「……まずは、……王都最高医局の『毒』を一つ、……浄化しましたね」

 枢は、倒れた骸を冷たく突き放すことはせず、そっとその肩に手を置いた。


 しかし、戦いはこれで終わりではなかった。

 遠く、王都の方向から、数千の騎兵の地鳴りと共に、巨大な「光の魔方陣」が空に描き出されていた。

 最高医局が、枢を「大逆罪人」として処断するための、最終兵器を起動させたのだ。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


3月24日(火)、お昼の更新をお届けいたしました。

かつての宿敵・むくろとの医術バトル。

痛みを増幅させる『死鍼』に対し、くるるは自身を起点とした『気の聖域』でこれを見事に完封しました。

技術で勝るのではなく、医としての「在り方」で相手を圧倒する。これこそが聖鍼師・枢の真骨頂です。


今回登場した術理、『照海しょうかい』と『列欠れっけつ』、そして**『中府ちゅうふ』**。

照海は陰の気を統括し、身体を潤し沈静化させる名穴です。対する列欠と中府は、肺経の重要拠点であり、呼吸器の異常や、それに伴う精神的な昂ぶりを抑えるのに絶大な効果を発揮します。枢は自身の照海で「静寂」を作り出し、相手の列欠を突くことで攻撃を無力化しました。


次回、第182話は本日**【18:00】**に更新予定です!


王都最高医局が放つ、対・聖鍼師用広域魔術『天罰の針』。

街一つを消し飛ばしかねない圧倒的な力に対し、枢は逃げることを選ばず、ある「意外な場所」へと鍼を向けます。


夕暮れの王都街道、医道の真髄が奇跡を起こします。

引き続き、応援の評価やブックマークをよろしくお願いいたします!

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