第18話:深淵の玉座と、不機嫌な支配者
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魔王城に到着した枢を待っていたのは、殺気立つ魔族たちと、最悪に不機嫌な魔王でした。
世界を滅ぼす支配者に対し、聖鍼師が最初に放った「診察結果」とは……。
ここから物語は、初の本格的な「前後編」に突入します!
魔王城。そこは空を焦がす紫色の稲妻と、生存を拒絶するほど濃密な魔力が渦巻く異界の地だった。
案内された玉座の間。重厚な黒曜石の扉が開くと、そこには巨大な獣の骨を組み上げた椅子に深く沈み込み、片手で額を押さえる一人の男がいた。
彼こそが、世界を恐怖に陥れる魔王・ヴァルゼス。だが、今の彼から放たれているのは支配者の覇気ではなく、周囲の空気を凍りつかせるような、極限の「不快感」そのものだった。
「……来たか、人間。我が頭痛、一向に引かぬ。……貴様の腕がまやかしであれば、この城の礎となってもらうぞ」
玉座の両脇を固めるのは、魔王軍四天王にも引けを取らぬ高位魔族たちだ。一斉に放たれた殺気の礫は、物理的な風となって枢の髪を揺らす。並の人間ならその圧力だけで心臓が止まるような状況だが、枢は面倒そうに鼻を鳴らすと、手慣れた仕草で往診バッグのベルトを解いた。
「驚きましたね。魔王ともあろうお方が、これほどまでにセルフケアを怠っているとは。呆れて言葉も出ません」
「……何だと?」
「まず、その椅子です。威厳を優先したのでしょうが、座面が硬すぎて仙骨を圧迫し、腰から背中の経絡を完全に塞いでいる。さらにこの部屋の照明……壁の魔石が放つ波長が鋭すぎて、視神経が悲鳴を上げていますよ。これでは脳が休まるはずがない。……魔王陛下、あなたに足りないのは魔力ではなく、患者としての自覚です」
静まり返る玉座の間。側近が逆上して剣を抜こうとしたその時、魔王ヴァルゼスが低く笑った。その笑い声には、痛みによる狂気が混じっている。
「……面白い。全人類が私に命乞いをする中、最初に処刑台の上で説教を垂れたのは貴様が初めてだ。……やってみろ。ただし、無駄に終わればその指、二度と鍼を握れぬよう一本ずつ噛み砕いてくれる」
「黙って座っていてください。まずは診断からです」
枢は躊躇いなく魔王の背後に回り込み、その強靭な首筋に細い指を添えた。
「――っ!? 貴様、何をする……!」
「動かない。……やはり、『風池』と『完骨』が鋼鉄のように固まっている。魔王軍の総指揮による脳疲労、そして絶え間ない魔力制御による交感神経の暴走……。東洋医学で言うところの『肝風内動』。脳内が嵐のような状態です」
枢が親指で一点、首の付け根にある急所を鋭く突くと、魔王の巨躯がビクンと跳ね、喉の奥から獣のような呻きが漏れた。
「あ、が……っ。な、何を、した……! 脳が、焼けるような……!」
「『響き』ですよ。死んでいた神経に、無理やり私の気が届いた証拠です。……さて、陛下。あなたに必要なのは破壊の力ではなく、徹底的な『放熱』だ。……月光銀草の鍼を出します」
枢が取り出したのは、蒼白く発光する特殊な鍼。
それを魔王の頭頂部――天の気が集まる『百合(百会)』に向けて、一点の迷いもなく構える。
「これより、あなたの脳内に溜まった余剰魔力を放熱します。……一気にいきますよ。噛み砕く暇など与えません」
魔王の瞳に、初めて「恐怖」に似た戦慄が走る。
支配者のプライドすらも、枢の持つ一寸六分の銀鍼の前では、ただの「コリ」に過ぎなかった。
(後編へ続く)
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
魔王を相手にしても、枢の「患者へのダメ出し」は健在です。
椅子が硬い、照明が眩しい……そんな庶民的な(?)指摘が、実は魔王の体調不良の根源だったりします。
果たして、枢の鍼は魔王の「魂のコリ」を解きほぐせるのか!?
次回、往診編・完結!
「魔王相手に説教、枢さん強すぎる(笑)」
「続きが気になって眠れない!」
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ブクマが増えると、枢の鍼のキレがさらに増します!
次回、第19話は**【21:00】**に更新予定!
解き放たれる魔王の『本気』と、聖鍼師の『真髄』をお見逃しなく!




