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『異世界で「ツボ」を突いたら神と呼ばれた件 〜指一本で魔王も聖女も救い出す、世界唯一の最強聖鍼術〜  作者: 鍼灸師いのぴー
【第二章:鋼鉄の帝国と腐敗の科学】

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第167話:世界の心臓、共鳴する二つの医道

3月21日、15:00の更新をお読みいただきありがとうございます。


三界共鳴塔の最深部、そこには世界の均衡を司る「世界の心臓ワールド・コア」が脈打っていました。

噴き出す膨大な負のエネルギーを前に、各界の名医たちが次々と脱落していく中、くるるの隣に立ったのは、宿敵とも言える最高医官ウリエルでした。


「貴公の泥臭い鍼が、私の神聖なるメスに追いつけるか試させてもらおう」


三界の存亡を賭けた、前代未聞の「合同手術」が幕を開けます。

 三界共鳴塔の最深部――「深淵の診察室」と呼ばれるその場所は、重力さえもが希薄な、極彩色の魔力が渦巻く異空間だった。

 ホールの中心に鎮座するのは、直径十メートルを超える、脈動する結晶体。それこそが、天界、魔領、そして人間界の三つのことわりを繋ぎ止め、エネルギーの循環を制御する「世界の心臓ワールド・コア」である。


 だが、その美しい結晶の表面には、どす黒い亀裂が走り、そこから「三界の不和」という名の膿が、高圧の蒸気となって噴き出していた。

 

「……凄まじい、……これが、世界の悲鳴ですか」

 くるるは、往診鞄から溢れ出そうとする翡翠の気を必死に抑え込みながら、結晶体を見上げた。

 噴き出すエネルギーの奔流に触れただけで、並の治療師なら肉体が内側から弾け飛ぶだろう。現に、先に降りていた数名の「師」たちは、その圧倒的な圧力に耐えきれず、白目を剥いて崩れ落ちていた。


「……フン。……無粋な連中だ。……世界の命を救うという大業に、……己の身の安全を持ち込むからそうなる」

 らんが、漆黒の薬箱を盾にするように構え、枢の隣に立った。

「……おい、聖鍼師。……流石の私も、この規模の呪いを一人で抑え込むのは骨が折れるぜ。……どうする、……逃げるなら今のうちだぞ」


「……逃げるわけにはいきません。……この心臓が止まれば、……私の診療所に通う患者さんたちも、……ルルさんも、……みんな消えてしまう」

 枢は眼鏡を直し、翡翠眼ひすいがんで結晶の「深層経絡」を射抜いた。

 

 そこへ、上空から純白の翼を翻し、一人の騎士が降り立つ。

 最高医官ウリエル。その手には、白銀に輝く巨大な「聖なるメス」が握られていた。


「……聖鍼師よ。……この『心臓』は、もはや一界の医術で救える段階を超えている。……天界の浄化、魔領の変容、そして人間界の維持。……その三つが同時に、一厘の狂いもなく噛み合わねば、この結晶は砕け散り、三界は再び混沌へと還るだろう」


 ウリエルは枢の隣に並び、そのメスを構えた。

「……貴公の泥臭い、……しかし理に適ったその鍼。……私の神聖なるメスに、一瞬でも遅れれば、……我ら二人とも、この因果の渦に呑まれて消えることになる。……それでも、……やるか?」


「……愚問です。……準備は、……とうに整っています」


 枢が取り出したのは、自らの生命力を直接変換する「翡翠の特長鍼とくちょうしん」。

 

「……始めましょう。……世界の往診を」


 ウリエルが動いた。

「……天界医術・第一節、……『浄化の洗礼ホーリー・デブリブマン』!」

 白銀のメスが一閃。結晶の表面を覆う真っ黒な壊死組織を、神速の速度で削ぎ落としていく。

 

 その瞬間、削られた部分から、行き場を失った膨大な負のエネルギーが枢へと襲いかかる。

「……させません! ……聖鍼流・秘奥義、……『流転・万象調和ばんしょうちょうわ』!」


 枢が、噴き出したエネルギーの「流れ」そのものに鍼を打ち込んだ。

 本来なら自身を破壊するはずの暴力的な気を、枢は自身の身体を媒介バイパスにし、再び結晶の「正しい経絡」へと流し戻した。

 

「……ぐ、……あぁぁぁっ!!」

 枢の血管が浮き上がり、目からは翡翠の光が溢れ出す。常人なら即死する負荷。

 だが、枢は一歩も引かなかった。


「……クハッ! ……いいぜ、……二人とも狂ってやがる! ……呪医術・『黄泉のよみのくい』!」

 嵐が、剥き出しになった結晶の核を呪術の杭で固定し、エネルギーの暴走を一点に繋ぎ止める。

 サロメが結界を張り、リナの歌声が枢たちの精神の崩壊を繋ぎ止める。


「……聖鍼師! ……今だ、……最深部の『塞穴さいけつ』を穿て! ……私のメスが、……道を作る!」


 ウリエルのメスが、結晶の最も硬い外殻を一点集中で突き抜いた。

 その隙間に、枢が自身の魂を乗せた翡翠の鍼を突き立てる。


「……三界の理よ、……再び一つに、……巡れ!!」


 ――カァッ!!


 世界から音が消えた。

 

 翡翠の光と、純白の光。

 そして嵐が放つ漆黒の気が、結晶の中で螺旋を描き、一つの巨大な「調和」へと昇華されていく。

 

 結晶の亀裂が、内側から溢れ出す柔らかな光によって、ゆっくりと塞がっていく。

 不気味な脈動は、やがて穏やかな、赤子の寝息のような、規則正しいリズムへと変わっていった。


 光が収まったとき、そこには、膝をつき、肩で激しく息をする枢と、その隣でメスを鞘に収め、呆然と結晶を見上げるウリエルの姿があった。


「……信じられん。……天界の法を、……人間界の脆弱な技術が補完し、……完成させたというのか」

 ウリエルは、自身の震える手を見つめ、静かに呟いた。


「……補完、ではありません。……私たちは、……ただ、……一人の患者を救っただけです」

 枢は眼鏡を直し、微かに微笑んだ。その眼鏡のレンズには、僅かにヒビが入っていたが、その奥の翡翠眼は、かつてないほど清らかに澄んでいた。


「……お見事です、ウリエル殿。……あなたのメスがなければ、……私は、……辿り着けませんでした」


 ウリエルは、しばらく沈黙した後、枢に向かってゆっくりと手を差し出した。

「……不愉快だ。……貴公のような男が、……この世界に存在することが。……だが、……認めよう。……今日の、……この『手術』の主執刀医は、……貴公であったと」


 宿敵との、無言の握手。

 しかし、世界の危機は、これで終わったわけではなかった。

 塔の地下から、さらに深い、この世界の「創造」に関わる、根源的な「問い」が響き始めていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


3月21日、15:00の午後の更新をお届けいたしました。


ついに実現した、聖鍼師・くるると最高医官ウリエルによる「世界の心臓」への合同手術。

天界の絶対的な秩序と、枢の泥臭くも精密な調和の医術が、崩壊の淵にあった三界を繋ぎ止めました。


今回登場した術式**『流転・万象調和』**。

これは、自身の身体を一時的な「気の通り道」に変え、外からの破壊的なエネルギーを無害化して還す、聖鍼流でも命懸けの秘奥義です。枢の「患者を救うためなら、自分の身も厭わない」という覚悟が、神の領域の術式を動かしました。


次回、第168話は本日**【18:00】**に更新予定です!


救われた心臓の奥底から現れたのは、三つの世界の「境界」を管理する、正体不明の存在。

彼が突きつけたのは、医術を超えた、この世界の「在り方」を問う最後の審判でした。

万博編、物語はいよいよ最終局面――エピローグへと向けて加速します。


本日残り2回、最高潮の盛り上がりをお届けします。

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