表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『異世界で「ツボ」を突いたら神と呼ばれた件 〜指一本で魔王も聖女も救い出す、世界唯一の最強聖鍼術〜  作者: 鍼灸師いのぴー
【第二章:鋼鉄の帝国と腐敗の科学】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

163/265

第163話:空虚の聖別、失われた感情の共鳴

本日最後の更新をお読みいただき、誠にありがとうございます。


都市の膿を穿ち、ゼノスに一時の静寂を取り戻したくるる

しかし、沈みゆく夕日の影から、新たな絶望が姿を現します。


ウリエルが放った「第二の課題」。

それは、救われたはずの街で、感情を失い人形と化した騎士たちでした。

肉体を救い、魂を置き去りにした「完璧すぎる浄化」。


聖鍼師としての誇りが、天界の無機質な秩序と激突します。

祝日初日を締めくくる、圧倒的な熱量でお送りします。

 浄化されたはずの水神の広場。

 噴水から溢れ出す清らかな水の音だけが、静寂の中に響いていた。しかし、その音は安らぎではなく、どこか空疎な、生命の気配を感じさせない不気味さを孕んでいた。


「……くるるさん、……見てください。……あの方たちを」


 サロメが震える指で指し示したのは、広場の影から、音もなく、寸分の狂いもない隊列を組んで現れた白銀の騎士たちだった。

 彼らは、先ほどまで街を覆っていた紫の瘴気に触れ、命を落としかけていたはずのゼノス警備隊の面々だ。枢の鍼が都市の経絡を貫いたことで、彼らを蝕んでいた病根は消え去り、その肉体はかつてないほどの輝きを取り戻している。


 だが。

 その瞳には、光がない。

 助かったことへの安堵も、死に直面した恐怖も、家族を想う愛着も。

 人として抱くべきあらゆる感情が、まるで外科手術で切り取られたかのように、綺麗さっぱりと消失していた。


「……何だ、こいつらは。……生きてるのか、死んでるのか、判別がつかねえ。……気配が『真っ白』すぎる」

 カザンが槍を構え直すが、騎士たちはカザンを敵とさえ認識していない。ただ、ウリエルから与えられた「警備」という命令だけを遂行する、精密な人形のようだった。


「……天界の浄化、……その究極の形、ですか」

 枢の声が、静かに、しかし怒りを孕んで響いた。

 往診鞄を握る手に、力がこもる。


「……彼らの肉体は、……確かに救われました。……しかし、その過程で、……彼らの魂を形作っていた『よどみ』までもが、余剰物として切り捨てられてしまった。……不完全な感情を持つことを許さない、……それは治療ではなく、……存在の剥製はくせい化です」


「……ハッ、反吐が出るな」

 らんが、騎士の一人の顔を覗き込み、ペッと唾を吐き捨てた。

「……我ら呪医じゅいは、人の悪意や未練を力に変える。……だが、こいつらには食うべき影さえ残っていない。……おい、聖鍼師。……これもお前の言う『治療』の対象か?」


「……もちろんです、嵐殿。……心が動かない人間を、……私は『健康』とは呼びません」


 その時、広場の中央に、再びウリエルの声が降り注いだ。


「……不満か、聖鍼師。……彼らはもはや、病に苦しむことも、誰かを憎むこともない。……永遠の平穏を得た、最も完成された生命だ。……予選の第二段階。……この『完成された者』たちの中に、……もし一厘でも不純な感情を呼び戻すことができれば、貴公の勝ちだ。……だが、……それは世界の秩序への反逆を意味する」


 騎士たちが一斉に、枢へと視線を向けた。

 その無機質な圧迫感。

 枢は、鞄から三本の短い、しかし不思議な温かみを持つ「琥珀こはくの鍼」を取り出した。


「……反逆、……大いに結構です。……私は神の秩序を守るために鍼を握っているのではありません。……一人の人間が、……泣いたり笑ったりしながら、……泥臭く生きる明日を守るために、……この仕事を選んだのですから」


 枢が、一歩踏み出す。

 

「……嵐殿、……少しばかり、……騒々しい術をお願いできますか? ……静かすぎると、……彼らの魂が眠ったままになってしまいます」


「……ククッ、任せろ。……呪医術・『千夜の慟哭せんやのどうこく』! ……死者の叫びを、生者の耳にぶち込んでやる!」


 嵐が放った黒い霧が、騎士たちの周囲で、何万もの人の声となって渦巻く。

 罵倒、愛の囁き、絶望の叫び。

 無機質な騎士たちの表情が、その音圧に、僅かに、本当に僅かに、歪んだ。


 その瞬間を、枢は見逃さなかった。


「……魂の門、……**『神門しんもん』**解放!」


 枢の琥珀の鍼が、騎士の先頭に立つ男の手首へと吸い込まれるように刺さった。

 琥珀の鍼は、枢自身の「体温」と「情熱」を直接、相手の心臓へと届ける伝送路。


「……思い出してください! ……あなたが、……命を懸けて守りたかった、……あの不器用な日々を!」


 ――ドクン。


 騎士の瞳に、一筋の光が戻った。

 それは恐怖の色だったかもしれない。

 だが、それは間違いなく、天界の秩序を食い破る「人間」の証だった。


「……ああ、……俺は、……俺は……!」


 騎士が膝をつき、嗚咽を漏らす。

 その一人の崩壊をきっかけに、周囲の騎士たちにも、次々と「感情のノイズ」が伝播していく。


「……馬鹿な、……完璧な浄化を、……個人の熱で溶かすというのか……!?」

 上空から、ウリエルの驚愕の声が響く。


 枢は、立ち上がった騎士の肩を優しく叩き、ウリエルの居る空を見上げた。

 翡翠の瞳は、もはや天の威光に気圧されることはなかった。


「……これが、私の医道です。……さて、……万博の会場へ、案内していただきましょうか」


 祝日の夜。

 ゼノスの街に、人々の本当の「声」が戻り始めた。

 聖鍼師・枢。

 彼が世界の理を完全に治療するまでのカウントダウンが、今、始まった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


3月20日(金・祝)、本日の全6回更新がこれにて終了いたしました。


都市の膿を取り除き、さらに「完璧すぎる浄化」という天界の押し付けまでをも打ち破ったくるる

肉体だけでなく、魂の「澱み」こそが人間らしさであると説く彼の姿は、万博に集まった多くの治療師たちの心にも、静かな波紋を広げています。


次回、第164話は明日**3月21日(土)午前【08:00】**に更新予定です!


ついに万博のメイン会場「三界共鳴塔」へと招待される一行。

そこに待ち受けていたのは、かつて枢が診療所で救った「あの患者」の変わり果てた姿でした。

大会の本選、その幕が、あまりにも残酷な形で開かれます。


3連休の中日となる明日も、1日6回の全力更新を予定しております。

応援の評価、ブックマークをぜひお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ