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『異世界で「ツボ」を突いたら神と呼ばれた件 〜指一本で魔王も聖女も救い出す、世界唯一の最強聖鍼術〜  作者: 鍼灸師いのぴー
【第二章:鋼鉄の帝国と腐敗の科学】

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第160話:境界都市ゼノス、混濁する医術の迷宮

3月20日、12:00の更新をお読みいただきありがとうございます。


街道の使者を退け、ついに一行は境界都市ゼノスの巨大な門を潜ります。

しかし、そこは華やかな祭典の場ではなく、街全体が巨大な「病棟」と化した異様な空間でした。


世界中から集まった名医、錬金術師、呪術師。

彼らが一様に沈黙する中、聖鍼師・くるるの翡翠眼が、この街に隠された「重なり合う絶望」を射抜きます。

 「断絶の街道」を抜けた先、霧の向こうから突如として姿を現したのは、天を突くような巨塔を中心に据えた、多重構造の城塞都市だった。

 境界都市ゼノス。

 人間界の石造りの美学、魔領の有機的な意匠、そして天界の浮遊建築が、歪なパズルを組み合わせたかのように一つの都市の中に混在している。そこは世界のパワーバランスが均衡する場所であり、同時に、どの世界のことわりも完全には通用しない「無法地帯」でもあった。


 馬車が巨大な外門を潜り、市街地へと足を踏み入れた瞬間、御者台のカザンが鼻を突く異臭に顔を歪めた。


「……なんだ、この匂いは。……消毒薬と、……腐った魔力と、……それから……もっと嫌な『死の匂い』が混ざり合ってやがる」


 カザンの言葉通り、大通りに並ぶ露店や宿場町は、活気ではなく「停滞」に満ちていた。

 本来なら万博に浮き立つはずの街の人々は、誰もが顔を布で覆い、肩を落として足早に通り過ぎていく。建物の壁には、奇妙な幾何学模様の「隔離印」が至る所に貼られ、そこから漏れ出す冷気が通りを白く染めていた。


「……万博の予選は、……もう始まっているようですね」


 くるるは窓の外を見つめながら、静かに呟いた。

 彼の翡翠眼ひすいがんには、街全体を覆う、重層的な「気の歪み」がはっきりと見えていた。それは単一のウイルスや呪いではない。複数の世界の「理」がぶつかり合った結果、それらが複雑に絡み合って生まれた、ゼノス特有の「特異疾患」だ。


 馬車が大会本部である「白銀の広場」に到着すると、そこには既に、世界中から召集された「師」たちが集まっていた。

 

 仰々しい魔導義手を装着した錬金術師の集団。

 全身に聖句を刻み込んだ聖都の治癒神官たち。

 そして、毒虫を這わせた瓶を抱え、不気味に笑う魔領の蟲使い。


 彼らは一様に、広場の中心に設置された巨大な「公開診察室」を注視していた。そこには、数名の患者が運び込まれていたが、彼らを診る医師たちの顔は、一様に絶望に染まっている。


「……フン、ゴミ溜めだな」

 らんが馬車から降り立ち、広場を見渡して吐き捨てた。

「……どいつもこいつも、……自分の世界の『正解』を押し付けようとして、……目の前の患者が『多重の病』に冒されていることに気づきもしない」


「……その通りですね、嵐殿。……ゼノスの病は、……ある世界では『薬』とされるものが、別の世界では『毒』として機能してしまう。……複数の理が重なり合っている以上、単一の術式では、救えば救うほど症状を悪化させることになります」


 枢が歩み出そうとした時、広場に大きな声が響き渡った。


「――どけ! 偽物共め! 聖都の治癒術こそが、万物の理を正す唯一の光だ!」


 白金色の豪華な法衣を纏った一団が、患者の一人に近づき、強力な「浄化の魔法」を展開した。

 目も眩むような聖なる光が患者を包み込み、一瞬、患者の体色に赤みが戻ったかに見えた。

 だが、その直後だった。


「……あ、……あが、……あぁぁぁぁっ!!」


 患者の叫び声と共に、その肉体が内側から不自然に膨張し始めた。

 浄化の光に反応し、患者の体内に潜んでいた「魔領の病根」が、防衛反応として暴走したのだ。

 聖なる光が、逆に病を活性化させるための燃料となり、患者の命を激しく削り取っていく。


「……ば、馬鹿な!? 浄化が、効かないだと……!?」


 慌てふためく神官たち。

 広場を包む絶望が、さらに色濃くなる。


「……下がってください。……これ以上の介入は、……彼の存在を完全に崩壊させます」


 静かな、しかし広場全体に透き通るような声。

 枢が、一歩ずつ患者の元へと近づいていった。

 周囲の視線が、粗末な往診鞄を抱えた、見慣れぬ黒髪の青年に集中する。


「……何だ、あの若造は? ……ただの鍼師か?」

「……万博に、……あんな原始的な道具を持った奴を呼んだのか?」


 嘲笑と疑念が渦巻く中、枢は無言で膝をつき、患者の腕を取った。

 翡翠眼が、暴走する「光」と、それに抗う「魔」の激突点を正確に捉える。


「……サロメ。……聖水の霧を。……リナさん。……静かな祈りを。……カザン、……誰も近づかせないでください」


 枢が往診鞄から取り出したのは、一本の透明な、しかし翡翠の光を帯びた「極薄の鍼」。

 彼はそれを、患者の喉元にある禁忌の経穴――**『天突てんとつ』**へと、吸い込まれるような速さで打ち込んだ。


「……聖鍼流、……特殊調律。……『三界の和合トライ・ユニオン』」


 鍼を伝わり、枢の指先から極小の振動が送られる。

 その瞬間、患者の体内で荒れ狂っていた光と魔の衝突が、まるで魔法が解けたかのように、急速に静まり返っていった。


 広場が、水を打ったような静寂に包まれた。

 

 世界中の「名医」たちが匙を投げたゼノスの絶望を、一人の鍼師が、たった一本の鍼で制してみせたのだ。


「……さあ、……本当の予選を始めましょうか。……この街に眠る、……すべての絶望を診察するために」


 枢の宣言が、ゼノスの冷たい空気を切り裂いた。

 聖鍼師・枢。

 彼が世界を相手取る真の戦いは、今、この広場から始まった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


3月20日、祝日の12:00更新をお届けいたしました。


ついに境界都市ゼノスへと到着したくるる一行。

各勢力の誇る「最強の医術」が、ゼノスの特異な病の前で次々と無力化される中、枢は「鍼」という、最も繊細で、かつ本質的なアプローチでその困難を打ち破ってみせました。


今回枢が使用した術式**『三界の和合トライ・ユニオン』**。

これは、人間、魔、天の三つのエネルギーが衝突する接点に、極微細な振動を送り込むことで、反発し合うエネルギー同士を一時的に共鳴させ、無力化する中和技術です。東洋医学の『天突』というツボは、まさに呼吸(世界の入り口)を司る重要な拠点として選ばれました。


次回、第161話は本日**【15:00】**に更新予定です!


枢の鮮やかな手並みに驚愕する万博の参加者たち。

しかし、そんな彼らの前に、今大会の真の主催者である「天界の最高医官」が姿を現します。

提示された予選の課題は、なんと「街を覆う隔離結界の解除」!?


引き続き、休日の午後に相応しい熱い展開をお楽しみください。

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