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『異世界で「ツボ」を突いたら神と呼ばれた件 〜最強の聖鍼師・連城枢は、経絡を正して魔王を懐かせ、聖女の呪いも指一本で完治させる〜』  作者: 鍼灸師いのぴー
【第一章:王都の毒を穿つ聖鍼】

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第16話:強欲な伯爵と、麻痺する傲慢

お読みいただきありがとうございます!


伝説の傭兵の次は、強欲な貴族の襲来!?

権力を振りかざす伯爵を前に、くるるが下した「劇薬」の処方箋とは。

鍼灸師が教える、金では買えない健康の価値をお楽しみください!

伝説の傭兵バルガが「お茶の葉」を報酬に去っていった翌日。

 王宮の廊下に、不釣り合いな金属音が響き渡った。重厚な鎧を纏った護衛兵を引き連れ、一人の男が「連城治療院」の扉を蹴り開けるようにして入ってきた。


「貴様が噂の『聖鍼師』か。ふん、ただの小汚い東洋人ではないか」

 現れたのは、この国の財政を牛耳る有力貴族、エドモンド伯爵だった。

 彼は丸々と太った指でくるるを指差し、傲慢な笑みを浮かべる。傍らに控えるセレスティアラ王女が顔を曇らせるが、伯爵は彼女の存在など意に介さない様子だ。


「……予約表に、あなたのお名前はありませんね。お引き取りを」

 枢は手元にある銀鍼の消毒を続けながら、視線すら向けずに言い放つ。


「無礼者! 伯爵閣下直々のお出ましだぞ! 閣下は最近、偏頭痛と不眠に悩まされている。今すぐ治療しろ。……成功すれば、貴様のその薄汚れた指先に、金貨の山を握らせてやろう」

「金貨よりも、今は静寂が必要です。……それと伯爵。あなたのその顔の火照り、頭痛が原因ではありませんよ。暴飲暴食による『肝』の失調、そして過度なストレスによる血圧の上昇……東洋医学で言うところの『肝陽上亢かんようじょうこう』の状態です。放置すれば、近いうちに倒れますよ」


 枢の淡々とした指摘に、伯爵の顔が怒りでさらに赤黒く染まる。

「黙れ! 貴様ごときが私の健康を云々ぬかすな! さっさとその棒を刺して、この痛みを消せ!」


 伯爵の命令で、護衛兵が剣の柄に手をかける。

 枢は短いため息をつくと、ゆっくりと立ち上がった。

「……分かりました。そこまで言うのなら、治療しましょう。ただし、私の治療は『劇薬』です。覚悟はいいですね?」


 枢は伯爵の前に立つと、目にも止まらぬ速さで三本の鍼を繰り出した。

 一本は頭頂部の『百会ひゃくえ』、そして残る二本は首の後ろ、血圧を急激に下げる禁断の急所――。


「――っ!? な、なんだ……声が、出ぬ……!?」

 伯爵の怒号が、唐突に消えた。

 それだけではない。彼の丸々と肥えた巨体が、まるで石像のようにその場で固まった。意識ははっきりしている。だが、口も、手も、指先一つ動かすことができない。


「動揺しないでください。頭に昇りすぎた『気』を、強制的に下へ引き摺り下ろしました。……今、あなたの体は強制的なシャットダウン状態にあります。三時間はそのままでしょう」


 枢は動けなくなった伯爵の鼻先に、冷ややかな視線を向けた。

「金貨を積めば何でも思い通りになると思っているようですが、血管の弾力だけは金では買えません。……あなたは今、自分の心臓の音をじっくりと聞くべきだ。三時間、一言も喋らず、微動だにせず、己の強欲さを内観しなさい。それが今のあなたにとって唯一の『治療』です」


 慌てふためく護衛兵たちを、枢は鋭い眼光で一蹴する。

「動かそうとすれば、反動で彼の血管は弾けますよ。静かに運び出しなさい。……次に来る時は、謙虚という名の診察券を持ってくることです」


 彫像のように固まったまま、目に涙を浮かべて運び出される伯爵。

 その様子を、王女は口元を押さえて必死に笑いを堪えていた。


「枢様……あんな有力貴族を敵に回して、大丈夫なのですか?」

「敵? いいえ、私はただ、重症の患者に『沈黙』という処方箋を出しただけですよ」


 夕暮れの光が差し込む治療院。

 枢は再び椅子に座り、お気に入りの茶葉の香りを楽しみ始めた。

 隠居生活への道は、どうやらまだ、いくつもの「コリ」を解きほぐす必要がありそうだった。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!


どんな権力者も、枢の前ではただの「不摂生な患者」に過ぎません。

肝陽上亢かんようじょうこう』は、イライラや高血圧で顔が赤くなっている状態を指す、実際の東洋医学の言葉です。

皆様も、怒りすぎにはご注意くださいね。


「伯爵が固まったシーン、スカッとした!」

「枢先生の毒舌がたまらない(笑)」


と思っていただけましたら、ぜひ**【ブックマーク】や【評価】**で応援いただけると、作者の血流が良くなります!


次回、第17話は本日のお昼更新予定!

王宮を揺るがす「ある重大な知らせ」が枢のもとに届きます……。

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