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『異世界で「ツボ」を突いたら神と呼ばれた件 〜指一本で魔王も聖女も救い出す、世界唯一の最強聖鍼術〜  作者: 鍼灸師いのぴー
【第二章:鋼鉄の帝国と腐敗の科学】

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第158話:街道の亡霊、透明なる絶望の脈動

3月20日、祝日の朝の更新をお読みいただきありがとうございます。


ついに始まった3連休特別更新!

本日から3日間、毎日6回の更新で物語を一気に加速させていきます。


境界都市ゼノスへと向かう馬車を襲う、異様な「無音の叫び」。

街道に横たわるのは、血も肉も持たない「透明な患者」たちでした。

聖鍼師・くるると呪医・らん、相反する二人の「師」による、境界の闇を穿つ共同診断が始まります。


休日を彩る重厚な物語、じっくりとお楽しみください!

 深い霧が、境界都市ゼノスへと続く「断絶の街道」を白く塗り潰していた。

 この道は、人間界の秩序と魔領の混沌、そして天界の静謐が複雑に絡み合い、一歩足を踏み入れれば方位磁石すら狂い出すという、世界の綻びそのものだ。


 くるるたちを乗せた馬車は、リナの聖印によって守られながら、この濃密な霊霧の中を静かに進んでいた。

 車内には、枢の翡翠の気と、らんが放つ漆黒の魔圧が常に激しく牽制し合い、サロメが淹れたハーブティーの湯気ですら、二人の間を境にして不自然な揺らぎを見せている。


「……気に食わんな。……この道の先にある『病』。……ただの侵食ではない。……何者かが、生命の根源ルーツを書き換えようとしている」


 嵐が後部座席で腕を組み、窓の外の霧を見据えながら低く呟いた。

 彼の背負う黒漆の薬箱からは、時折、何かが蠢くような微かな音が漏れている。それは彼が東方から連れてきた「益毒えきどく」たちが、外部の異質な気に反応して警戒を露わにしている証だった。


「……ええ。……私の翡翠眼ひすいがんにも、……この霧の奥で蠢く『透明な苦痛』が、はっきりと見えています。……嵐殿、……あなたが言っていた『死の概念』。……それが、この街道では実体を持とうとしている」


 その時、馬車が激しい衝撃と共に急停車した。

 御者台からカザンの鋭い怒声が飛ぶ。


「……止まれッ! なんだ、こいつらは……! 影か!? それとも幽霊か!?」


 枢と嵐は同時に馬車を飛び出した。

 街道の真ん中、霧の奥から這い出してきたのは、一見すればただの「人の形をした空間の歪み」だった。

 肉体も、衣服も、血液の色すら持たない。ただ、そこにある空気だけが人の形に引き絞られ、絶え間なく細かく振動している。その「透明な存在」たちは、幾人も重なり合いながら、何かに縋り付くように手を伸ばし、音にならない悲鳴を上げ続けていた。


「……これは、……ただの亡霊ではありませんね。……経絡も、骨格も、……すべての肉体情報が『透明化』されている。……生きながらにして、存在そのものを世界から忘れ去られようとしている……」


 枢は即座に往診鞄を開き、翡翠の極鍼を五本、指の間に挟んだ。

 だが、その透明な腕を掴もうとした枢の手は、まるで水に触れるかのように空しく透過してしまった。


「……無駄だ、聖鍼師。……こいつらの『器』は、すでにこの次元から剥がれ落ちている。……いくら生を繋ぐ鍼を打ったところで、受け皿がない水は溜まらん」


 嵐が不敵に笑い、懐から三枚の黒い呪符を取り出した。

 

「……呪医術・『墨塗り(すみぬり)』。……存在しないなら、……私が強制的に『存在の色』を塗り込めてやる。……サロメ! 貴様の魔力を少し寄越せ! この透明な塵どもを、一時的にこの世に繋ぎ止める重しにする!」


「……なっ、勝手なことを……! でも、背に腹は代えられませんわね!」


 サロメが杖を構え、膨大な魔力を嵐の呪符へと供給する。

 嵐が放った呪符は、透明な存在たちの胸元で爆発し、墨汁をぶち撒けたかのように彼らの輪郭をドロリとした黒色で染め上げていった。


「……今だ、聖鍼師! ……『色』をつけたぞ。……その刹那に、……こいつらの魂の芯を、貴様の鍼で縫い止めろ!」


「……了解しました、嵐殿!」


 枢の翡翠眼が極限まで解放され、墨で縁取られた透明な存在の奥に眠る、唯一の光――**『神闕しんけつ』**を捉えた。

 そこは、人が母の胎内で最初に世界と繋がる場所。

 

 シュッ、という鋭い空切り音。

 枢の翡翠の鍼が、黒い墨に染まった透明な胸板を、寸分の狂いもなく貫いた。


「……聖鍼流、秘奥義。……『生命のライフ・アンカー』!」


 翡翠の光が黒い墨を内側から食い破り、透明だった身体に、瞬時にして「赤」が戻り始めた。

 ドクン、と。

 静寂の街道に、一つの心臓の鼓動が力強く響き渡った。


「……あ、……あぁ……。……暖かい……」


 透明だった「形」が、一人の若い行商人の男性へと姿を変え、その場に崩れ落ちた。

 続いて他の存在たちも、枢の鍼と嵐の呪符の共演によって、次々とその実体を取り戻していく。


「……はぁ、……はぁ……。……救えました、ね」


 枢は汗を拭い、膝をついた。

 一歩間違えれば、患者の魂を黒い呪いで焼き切るか、あるいは透明な虚無の中に置き去りにするかの瀬戸際。

 だが、聖鍼師の「救う意志」と、呪医の「繋ぎ止める執念」が、世界の理を超えて奇跡を成し遂げた。


「……ふん、……ただの小手調べだ。……道連れがこれほどまでについてくるとはな。……だが、聖鍼師。……喜ぶのはまだ早い。……今の連中を『透明』に変えた元凶は、……すぐそこまで来ているぞ」


 嵐が視線を向けた街道の先。

 霧が渦を巻き、そこから巨大な「天のはかり」を背負った、新たな執行者の影が浮き上がってきた。


 境界都市ゼノス。

 そこは、医学の皮を被った神々の処刑場。

 聖鍼師・枢の地獄の往診が、今、本格的に火蓋を切った。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


3月20日、祝日の朝の更新をお届けいたしました。

聖鍼師・くるると呪医・らん

本来は決して交わることのない二人の医道が、患者を救うという極限の状況下で、かつてない相乗効果を生み出しました。


今回登場した枢の技**『生命のライフ・アンカー』**。

これは、存在の根源である『神闕へそ』に打ち込むことで、離散し、次元の狭間へと消えかかっている魂を、強引に肉体という器に釘付けにする高等技術です。嵐の『墨塗り』によって輪郭を得た一瞬を逃さず打ち込んだ、枢の集中力の賜物と言えます。


次回、第159話は本日**【10:00】**に更新予定です!


街道に現れた、巨大な秤を持つ使者。

彼は自らを「調律師」と呼び、世界のバランスを保つために「余剰な命」を透明化していると宣います。

枢の翡翠の鍼は、神が定める「命の総量」という壁を打ち破ることができるのか!?


本日はあと5回更新があります! ぜひ全ての更新をチェックしてくださいね。

面白いと思っていただけましたら、評価やブックマークでの応援をよろしくお願いいたします!

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