第148話:教皇の狂気、白き執行者の冷徹なる審判
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結晶化していく聖都の惨状を目の当たりにし、枢たちはついに大聖堂の最深部、教皇の玉座へと辿り着きます。
そこで待ち受けていたのは、変わり果てた教皇と、世界の理を嘲笑う「白の執行者」。
過去の因縁を断ち切り、聖鍼師の誇りを証明する戦い。
18時更新、聖都編の核心へと迫る衝撃の展開をお楽しみください!
大聖堂の奥深く、かつて枢が跪かされ、異端の烙印を押された「審判の間」。
高くそびえ立つステンドグラスからは、かつての極彩色ではなく、ただ無機質な、命を凍りつかせるような真っ白な光が降り注いでいた。
その光の中心、白金に結晶化した玉座に座っていたのは、聖教会の頂点に君臨する老教皇、ベネディクトだった。
「……あ、……ああ、……美しい……。……これこそが、……汚れなき神の王国……。……争いも、……病も、……死すらも超越した、……完璧な秩序だ……」
教皇の瞳はすでに白濁し、その肌からは無数の水晶の棘が生え出している。
彼はすでに人間であることを捨てていた。いや、自分自身を、この聖都を宝石化させている「大いなる秩序」の媒体へと捧げていたのだ。
「……相変わらず、……美的センスが壊滅的ですね。……教皇陛下」
枢の低い声が、静寂に包まれた大聖堂に冷たく響き渡った。
カザンが槍を構え、サロメが最大級の攻撃魔法を展開しながら、枢の左右を固める。リナはその背後で、溢れ出す「秩序の魔力」の圧力に耐えながら、必死に聖女としての祈りの結界を維持していた。
「……枢、……枢・ランカスターか……。……かつてこの私が追放した、不浄の異端者……。……何をしに来た。……この完璧な調和を、……またその薄汚れた鍼で汚そうというのか?」
「……ええ、その通りです。……汚れのない生命など、この世には存在しません。……陛下、あなたがやっていることは『救済』ではない。……ただの『廃棄』です。……変化を拒み、静止した石に何の意味があるのですか」
枢が往診鞄から取り出したのは、翡翠の輝きを放つ三本の特製銀鍼。
だが、彼が鍼を構えた瞬間、玉座の影から、音もなく「それ」が姿を現した。
「……不純物は、……排除されなければならない」
透き通るような白銀の長髪に、感情を一切排した硝子の瞳。
その少年は、シオンと同じ「虚無」の気を纏いながらも、その性質は真逆だった。シオンが「消えゆく余りもの」なら、目の前の彼は「すべてを削ぎ落とす刃」。
世界の理を強制的に書き換える、白き執行者――セラフ。
「……枢さん、気をつけて! この方の魔力、……いえ、気そのものが、周囲の空間を『凍結』させていますわ!」
サロメが警告するより早く、セラフが右手を軽く振り上げた。
瞬間、枢の周囲の床から巨大な結晶の槍が幾重にも突き出し、彼を串刺しにせんと迫る。
「……おっと、そいつは俺の担当だ!」
カザンが咆哮し、炎を纏った槍を一閃させた。
ガギィィィィィンッ! と凄まじい火花が散り、結晶の槍が砕け散る。だが、砕けた破片すらも空中で静止し、再び鋭い針となってカザンへ逆流する。
「……秩序は、……乱されない。……静止こそが、……永遠の安らぎ」
セラフが言葉を発するたび、大聖堂の空気が一℃ずつ、物理的に冷えていく。
それは単なる温度の低下ではない。分子の運動そのものを、世界の法典に従って「停止」させているのだ。
枢は、自身の翡翠眼で、セラフの体内に流れる「気の筋」を探った。
だが、そこにあるのはシオンの時と同じく、この世界の法則では捉えきれない異次元の循環。鍼を打つべきツボすら、存在しないはずの空白。
「……なるほど。……シオンが『影』なら、あなたは『光』の歪み。……天界が正常化したことで溢れ出した、過剰な自浄作用の具現化ですか」
枢は眼鏡の位置を直し、一本の銀鍼を自身の左腕、**『手三里』**へと深く突き刺した。
「……枢さん!? 何を……!」
リナが驚愕の声を上げる。
「……自らの気の巡りを、あえて暴走させます。……静止を司る秩序の力に対し、……私は『混沌』をもって、その調律を打ち破る」
枢の血管が青白く浮き上がり、翡翠眼が爛々と輝きを増した。
彼はセラフの放つ「静止の波動」を、自らの激流のような気で強引に押し返し、一歩、また一歩と、白き執行者へと歩み寄る。
「……理解、不能。……なぜ、……苦しみを好む。……なぜ、……澱みを抱えたまま……」
「……それが、生きているということだからですよ。……セラフ。……あなたの主が望む『完璧な世界』には、……往診する喜びも、……治癒した後に患者が見せる不細工な笑顔も、……存在しない」
枢の手の中で、三本の銀鍼が共鳴し、翠色の雷光を放ち始めた。
セラフの瞳に、初めて「揺らぎ」が生じる。
完璧な秩序の化身である彼にとって、枢という存在は、計算不可能な最大の不純物だった。
「聖鍼流、異界・改竄術式――『翡翠の雷鳴・三連』!!」
枢の身体が光速で動き、セラフの周囲に展開された「静止の領域」を力尽くで貫いた。
一刺し目はセラフの右肩、二刺し目は左腿。
そして最後の一刺しは、セラフの胸の中央――この世界の理と異界を繋ぐ、見えない「門」へと正確に穿たれた。
「……ガ、……ア、……ァッ……!!」
セラフの身体から、真っ白な光が奔流となって噴き出した。
結晶化していた大聖堂の柱にひびが入り、凍りついていた時間が、激しい音を立てて再び回り始める。
「……さあ、治療の続きをしましょう。……教皇陛下。……そして、迷い子の執行者。……聖鍼師・枢の、……出張往診の時間ですよ」
枢は、肩を揺らしながらも、不敵な笑みを浮かべた。
聖都を包む白き悪夢を、聖鍼師の怒りが今、内側から食い破ろうとしていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
ついに現れた白き執行者・セラフ。
完璧な秩序を求める彼に対し、枢さんは自らの気を暴走させるという、聖鍼師としての禁じ手で対抗しました。過去、自分を捨てた教皇を前にしても、枢さんの目的は「復讐」ではなく、あくまで「治療」であるという姿勢が、彼のプロフェッショナルな魅力を際立たせています。
今回枢が自身に打った**『手三里』**。
肘の近くにあるこのツボは、一般的には肩こりや腕の疲れに効くとされますが、実は「大腸経」という経絡に属し、体内の熱を下げたり、気の巡りを急激に促進したりする働きがあります。枢さんはここを強く刺激することで、自身の代謝と気の流れを強制的にブーストさせ、セラフの停止の波動を跳ね返しました。
次回、第149話は本日**【21:00】**に更新予定です!
機能を停止しかけたセラフ。
しかし、教皇の玉座から、さらなる「真の秩序」の化身が姿を現します。
聖都編、最高潮のバトルと感動が交錯する最終決戦の幕開けです!
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