表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『異世界で「ツボ」を突いたら神と呼ばれた件 〜指一本で魔王も聖女も救い出す、世界唯一の最強聖鍼術〜  作者: 鍼灸師いのぴー
【第二章:鋼鉄の帝国と腐敗の科学】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

137/262

第137話:帰還の喧騒、診療所に集う新たな「淀み」

お読みいただきありがとうございます。


神域での激闘を終え、ようやく地上へと帰還したくるる一行。

懐かしの診療所に辿り着いた彼らが見たのは、かつてないほどの大行列でした。


天界の変革は、地上にどのような影響をもたらしたのか。

そして、枢の元に届けられた一通の「招待状」の正体とは。


日曜日の更新祭り、第2回目となる10時更新。

聖鍼師の新たな物語が動き出します。

 天界の重厚な門を背に、アズラエルが放った転移の光が収束していく。

 視界が開けた先に見えたのは、見慣れた漆喰の壁と、使い込まれた往診鞄が置かれた棚――。地上にあるくるるの拠点の、静かな診療所だった。


「……はぁ、ようやく帰ってこれましたわね。……やっぱり地上の空気は、少しばかり雑多で、落ち着きますわ」

 サロメが大きく背伸びをし、溜まっていた魔力の凝りを解きほぐすように杖を振った。


「……まったくだ。天界の空気は綺麗すぎて、鼻がムズムズしやがるぜ」

 カザンも槍を立て掛け、床にどっしりと腰を下ろす。


 だが、くるるだけは安堵の表情を見せなかった。

 彼の翡翠眼ひすいがんは、診療所の外から漏れ聞こえてくる、尋常ではない数の「呼吸音」と「拍動」を瞬時に察知していたからだ。


「……カザン、サロメ。……ゆっくり休んでいる時間は、なさそうですよ」


 枢が玄関の扉を開けた瞬間、一行は絶句した。

 診療所の前から続く通りには、地平の先まで続くかのような、人、人、人の大行列が形成されていた。それも、ただの病人ではない。全身から魔力を暴走させた冒険者や、原因不明の痣に苦しむ商人、さらには森から迷い込んできたであろう、弱り切った魔物までもが、救いを求めて列をなしていた。


「……な、何ですの、この数は……!? 留守にしていた間に、何が起きましたの?」


「……天界の法典が正常化した影響でしょうね。……これまで法典の歪みによって、無理やり抑え込まれていた『負の気』が、地上のあちこちで一気に噴き出している。……人々の身体が、その急激な環境変化についていけていないんです」


 枢は即座に往診用の白衣を纏い、翡翠眼を全開にした。

 列の先頭で倒れ込んでいた一人の冒険者の元へ、一瞬で歩み寄る。


「……枢さん、……あ、あんた、……戻ってきてくれたのか……」

 冒険者の男は、苦しげに胸を押さえていた。その皮膚の下では、どす黒い気が血管のように浮き上がり、今にも破裂しそうなほど膨張している。


「……喋らなくていい。……典型的な『気あたり』ですね。……外気が急激に清浄化したことで、体内の古い魔力が排出されずに詰まっている。……すぐに流します」


 枢は指の間から三本の銀鍼を滑らせた。

 男の手首にある**『内関ないかん』、そして足の『太衝たいしょう』**。

 気の巡りをコントロールする急所を、正確無比な速度で打ち抜く。


「聖鍼流、平癒術式――『三関さんかん・魔気の還流』!」


 鍼を伝って、男の身体から真っ黒な煙のような気が一気に噴き出した。

 直後、男の顔色は劇的に回復し、荒かった呼吸が静かな拍動へと戻っていく。


「……す、……すげぇ、……身体が、軽い……。さっきまでの地獄のような重さが、嘘みたいだ……」


「……次の方。……重症者から順に、リナ様が優先順位をつけてください。……カザンは列の整理を。……サロメは、私の鍼に合わせて、浄化の魔力補助をお願いします」


 枢の的確な指示が飛ぶ。

 休息を必要としていたはずの彼らだったが、枢の揺るぎない背中を目にした瞬間、その疲れはどこかへ吹き飛んでいた。


「……了解だ! ……おい、そこ! 押し合うんじゃねえ! 聖鍼師様が診てくれるんだ、行儀よくしやがれ!」


「……もう、人使いが荒いですわね! ……でも、この『淀み』を放っておくのは、私の魔導のプライドが許しませんわ!」


 数時間。

 枢の指先は一度も止まることなく、数百人の患者に的確な処置を施し続けた。

 彼の鍼が打たれるたびに、絶望に満ちていた行列には安堵の溜息が広がり、広場全体が柔らかな翡翠の光に包まれていく。


 作業が一段落し、ようやく夕闇が差し込み始めた頃。

 一人の、見慣れぬ黒装束の使者が、枢の前に跪いた。


「……聖鍼師、枢殿とお見受けする」


「……どなたですか。……見ての通り、急患が立て込んでいます」


「……西の果て、魔族の領地を統べる王より、書状を預かっております。……天界の変革を察した我が主が、あなたという『奇跡の指先』を、是非とも招きたいと」


 差し出されたのは、禍々しくも気品ある魔力の封印が施された、漆黒の招待状。

 カザンとサロメが息を呑む中、枢はそれを無造作に受け取った。


「……魔王、ですか。……なるほど、……そちらでも『淀み』が起きているようですね」


 枢の翡翠眼が、遥か西の空を見据える。

 天界の戦いを終えたばかりの聖鍼師。その次なる往診先は、人類にとっての禁忌の地、魔王城。

 物語は、さらなる深淵へと、その針路を切る。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


地上に帰還した途端、急患の嵐に見舞われたくるるさん。

天界の変革は、平和をもたらすだけでなく、地上のエネルギーバランスを激変させてしまいました。それを「病」として捉え、即座に治療を開始する姿は、まさに聖鍼師そのものです。


今回登場した**『内関ないかん』**。

手首の内側にあるこのツボは、吐き気を鎮めたり、自律神経や精神を整えたりするのに非常に有効です。枢さんはここに鍼を打つことで、急激な環境変化にパニックを起こした患者の気を鎮めました。


次回、第138話は本日**【12:00】**に更新予定です。


魔王からの招待状に対し、枢が出した答えとは。

そして、魔領で発生しているという「未知の流行病」の正体に迫ります。


日曜日も、まだまだ更新祭りは続きます!

面白いと思っていただけましたら、評価やブックマークでの応援をよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ