第136話:天界の残照、聖鍼師の休息と予兆
おはようございます!
昨夜の死闘を経て、天界に静かな朝が訪れました。
世界の淀みをその身に引き受け、浄化しきった枢。
激戦を終えた彼が、浄化された法典の光の中で最初に見つめるものとは。
日曜日も、聖鍼師の物語は止まりません。
本日は日曜日。更新時間は、
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の全6回でお届けします! 最高の休日を、枢たちと共に。
黄金の光が、穏やかな波のように空中回廊を洗っていた。
かつて世界を飲み込もうとした黒い泥は一滴も残っておらず、法典の心臓部である水晶の柱は、ただ透明で、どこまでも純粋な輝きを放っている。その静謐な光景は、ここが神域の最奥であることを忘れさせるほどに優しく、温かかった。
枢は、リナの膝に頭を預けたまま、ゆっくりと目を覚ました。
翡翠眼が捉えたのは、天界の澄み渡った空と、自分を覗き込むリナの、涙で濡れた笑顔だった。
「……あ、……枢さん、気がつきましたか……?」
リナの声が、震えながらも安堵に満ちて響く。
「……ええ。……どうやら、少しばかり……深く潜りすぎてしまったようですね」
枢は身体を起こそうとしたが、全身を走る鈍い痛みに、思わず眉を寄せた。
世界中の淀みを自身の経絡に通し、浄化するという禁忌の術。その代償は、聖鍼師としての鍛え上げられた肉体をもってしても、なお余りあるものだった。
「……無茶しやがって。……あんたが消えちまったかと思ったぜ」
傍らで、カザンが槍を杖代わりに立ち上がっていた。その身体にも多くの傷が刻まれているが、表情には晴れやかな達成感が漂っている。
「……枢さん、見てくださいまし。……アズラエル様も、ガブリエル様も……」
サロメが指し示した先では、二柱の大天使が静かに佇んでいた。
彼らの翼からは、かつての冷徹な「システムとしての重圧」が消え、一人の意志ある存在としての、柔らかな魔力が溢れ出している。法典が「正常」に戻ったことで、彼らもまた、天界の部品という呪縛から解き放たれたのだ。
枢は、震える手で自身のバッグを手繰り寄せ、一本の銀鍼を取り出した。
そして、己の腕にある**『曲池』**のツボに、迷いなく鍼を刺した。
「……枢さん? ……まだ、ご自身の治療を……?」
「……ええ。……聖鍼師が、いつまでも患者に心配をかけるわけにはいきませんからね。……このツボは、体内に残った熱を取り除き、気の巡りを安定させます。……ふぅ、……これで少しは、楽になりますよ」
鍼を伝って、枢の体内から過剰な魔力の残滓が霧となって排出されていく。
その様子を、アズラエルが静かに見守っていた。彼女はゆっくりと枢の前に歩み寄り、深く、その頭を垂れた。
「……聖鍼師、枢。……あなたは、私たちを救っただけではない。……この世界が抱えていた、悠久の孤独さえも、その鍼で癒してくれた……」
「……私は、ただの聖鍼師ですよ。……目の前に、流れの滞った患者がいた。……だから、それを流した。……それ以上の意味など、ありません」
枢の言葉に、アズラエルは微かに微笑んだ。
それは、神が人間に見せる慈悲ではなく、一人の女性が、命の恩人に向ける感謝の微笑みだった。
「……ですが、法典は……あなたという存在を、決して忘れないでしょう。……あなたがもたらした『変化』は、やがて地上にも、大きな波紋を広げるはずです」
枢は、空の彼方を見据えた。
翡翠眼には、天界の浄化が完了したことで、逆に地上の各地でくすぶっていた「古い病根」が、一気に表面化し始めているのが見えていた。
天界が正常化したことで、これまでの歪みに依存していた地上の勢力や、魔物たちの生態系が、劇的な変化を余儀なくされるのだ。
「……休息は、短くなりそうですね」
枢が、立ち上がる。
リナがそっとその手を支え、カザンとサロメが後に続く。
「……どこまでもついて行くぜ、枢。……あんたの往診には、まだ俺の槍が必要なんだろ?」
「……私のアシストなしでは、……枢さんも本領を発揮できませんものね」
仲間たちの言葉に、枢は力強く頷いた。
天界編は、一つの結末を迎えた。
だが、聖鍼師・枢の往診鞄には、まだ多くの鍼が残っている。
救いを求める声がある限り、彼の指先が止まることはない。
「……さあ、帰りましょう。……地上で待っている、私たちの患者たちの元へ」
天界に降り注ぐ朝陽が、四人の背中を眩しく照らし出していた。
聖鍼師の伝説は、ここからまた、新たな一歩を踏み出す。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
天界の戦いを終え、束の間の休息を得た枢一行。
しかし、世界のバランスが変わったことで、地上には新たな変化の兆しが訪れようとしています。
今回枢が使った**『曲池』**。
肘を曲げた時にできるシワの端にあるこのツボは、熱を冷まし、免疫力を高める万能のツボとして知られています。激戦で火照った身体を、枢さんは自らの技術で静かに癒しました。
次回、第137話は本日**【10:00】**に更新予定です。
天界から地上へと帰還する枢たち。
しかし、懐かしい拠点に戻った彼らを待ち受けていたのは、かつてないほどの大行列と、一通の「招待状」でした。
日曜日も、全6回の更新祭りを全力で駆け抜けます!
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