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『異世界で「ツボ」を突いたら神と呼ばれた件 〜指一本で魔王も聖女も救い出す、世界唯一の最強聖鍼術〜  作者: 鍼灸師いのぴー
【第二章:鋼鉄の帝国と腐敗の科学】

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第135話:翡翠の輝き、聖鍼が導く明日への拍動

本日、土曜日6連更新の最後、第135話をお読みいただきありがとうございます。


法典から溢れ出した世界の「膿」。

それはかつてくるるが救ってきた者たちの痛みであり、世界が切り捨ててきた悲鳴。


逃げ場のない「負」の奔流を前に、聖鍼師が掲げるのは、たった一本の銀鍼。

翡翠の輝きが天界の闇を切り裂く、運命の21時更新。


土曜日の締めくくり、どうぞ最後までお見逃しなく。

 水晶の柱から溢れ出した黒い泥は、無機質な白銀の空間を瞬く間に侵食し、おぞましい形を成して蠢き始めた。

 それは、法典が管理しきれずに切り捨ててきた「負の感情」の集大成。病に倒れた者の呪詛、飢えに喘ぐ者の悲鳴、そして、くるるが救ってきた人々の「かつての痛み」が、黒い影となって彼を取り囲む。


「……枢さん、気をつけて! ……これ、ただの魔力じゃありません。……重すぎる……。触れただけで、心が壊れてしまいそう……」

 サロメが声を震わせ、必死に杖を握りしめる。

 リナもまた、その黒い泥の中に、かつて自分が背負わされていた聖女としての孤独や絶望の残滓を感じ取り、呼吸を乱していた。


 だが、くるるは一歩も引かない。

 彼の翡翠眼ひすいがんは、そのどす黒い奔流の奥に、怯えるように震える「光の核」を捉えていた。


「……案ずることはありません。……これは、世界が抱え込み、行き場を失った『溜まり』に過ぎない。……聖鍼師として、これを流さずして、往診を終えるわけにはいきませんからね」


 枢が静かに、一本の金鍼を取り出した。

 瞬間、黒い泥が巨大な牙を剥き、枢を飲み込もうと一斉に襲いかかる。


「……させるかよッ!!」

 カザンが咆哮し、半ば折れた槍を強引に振り抜いた。

 サロメの放つ蒼い障壁が、枢の周囲を幾重にも守護し、黒い泥の浸食を必死に押し留める。


「……カザン、サロメ。……感謝します」

 枢の声は、この絶望的な状況下にあっても驚くほど穏やかだった。


 彼は高く、金鍼を掲げる。

 その指先は、天界のどの神よりも、そして誰よりも、命の理を深く理解していた。


「……法典よ。……あなたは、完璧な調和という理想に囚われ、綻びを隠し続けてきた。……だが、歪みこそが命の躍動であり、痛みこそが再生の予兆だ。……溜まり続けたその膿、……私がすべて引き受けましょう」


 枢の全身から、翡翠のオーラが爆発的に吹き上がった。

 彼は自らの命を、巨大な『アース(逃げ道)』として定義したのだ。

 世界中の「淀み」を一度その身に受け、それを自身の聖鍼術で浄化し、再び世界へと還す。それは、一人の人間が耐えられる限界を遥かに超えた、狂気とも呼べる神域の施術。


「……枢さん……っ! ……そんなの、身体が保ちませんわ!」

 サロメの叫び。枢の肌からは血が滲み、翡翠の瞳が過負荷によって激しく充血していく。


 だが、枢は笑った。


「聖鍼流、最終奥義――『湧泉ゆうせん万象還流ばんしょうかんりゅう』!」


 枢が、自らの足元――**『湧泉ゆうせん』**のツボに、金鍼を深々と突き刺した。

 瞬間、天界を埋め尽くしていた黒い泥が、巨大な渦を巻いて枢の身体へと吸い込まれていく。

 彼の体内を駆け巡る、数千万、数億という人々の絶望。

 枢の精神が軋み、肉体が悲鳴を上げる。だが、それらすべての「淀み」は、枢の心臓を、経絡を通り抜けるたびに、透き通った翡翠の輝きへと変質していった。


「……あ、……ああ……」

 法典の核である水晶の柱が、激しく発光した。

 枢という巨大なフィルターを通じ、世界の淀みが浄化されていく。

 漆黒に染まっていた空間は、徐々に朝焼けのような柔らかな光を取り戻し、アズラエルやガブリエルの翼からも、不浄な黒が消え去っていった。


 やがて。

 すべての泥を吸い尽くし、枢は静かにその場に片膝をついた。

 その身体からは、翡翠の光の粒子が、雪のように静かに溢れ出している。


「……枢さん!!」

 リナが駆け寄り、枢の身体を抱き止めた。

 枢の呼吸は浅く、全身の毛細血管が浮き出ている。だが、その表情は、憑き物が落ちたように穏やかだった。


「……終わりましたよ。……これで、法典の『詰まり』は取れました。……もう、この世界が無理に壊れることはありません」


「……馬鹿野郎、……あんた、……死ぬ気だったのかよ……」

 カザンが、震える声で枢の肩を叩く。


「……いいえ。……聖鍼師は、患者より先に逝くことは許されませんから。……ただ、少しばかり、……寝不足が溜まっていたようです」


 枢が微かに微笑んだ。

 空を見上げれば、そこにはかつてのような冷徹な神威はなく、ただ、どこまでも続く、青く澄み渡った空が広がっていた。

 法典の心臓部は今、静かに、しかし力強く、健康な律動を刻んでいる。


「……枢さん、……ありがとうございます。……私たちが、明日を生きられるのは……あなたの指先があったからです」


 リナの涙が、枢の頬にこぼれ落ちる。

 聖鍼師の往診。それは神を、そして世界そのものを救い出し、一時の休息を与えた。


 翡翠の医者が紡いだ奇跡。

 その物語は、救われた人々の笑顔と共に、新しい朝へと繋がっていく。

最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。


土曜日6連更新の締めくくり。

世界を蝕む「淀み」をすべて自らの身に受け、浄化しきったくるるさん。

彼は自らの命を賭して、神の理を超えた「最高の施術」を完遂しました。


今回登場した**『湧泉ゆうせん』**。

足の裏にあるこのツボは、文字通り「泉が湧き出る場所」であり、生命力の源とされる非常に重要な地です。枢さんはここに鍼を打つことで、自らの身体を巨大な生命の循環路へと変え、世界の淀みを浄化しました。


明日、日曜日も朝**【08:00】**から、怒涛の更新祭りを予定しています。


激戦を終えた枢たちが、天界で見つける「真の報酬」とは。

そして、地上で待つ人々との再会。


面白いと思っていただけましたら、評価やブックマークをいただけると、これからの執筆の大きな励みになります!

最高の週末を、枢たちと共に。また明日の朝、お会いしましょう!

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