第13話:暴君の目覚めと、魂を癒やす『身柱』の熱
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昨夜、一万の軍勢を「お昼寝」させてしまった枢。
第13話では、目覚めた最強の将軍ギルガと、枢の「魂の対話(物理)」が描かれます。
鍼灸師が教える、本当の『強さ』と『休息』とは――。
魔族の副隊長ヘルガも、再登場です!
静まり返った戦場に、規則正しい寝息だけが響いていた。
一万の軍勢が折り重なるように眠る光景は、地獄絵図というよりは、どこか奇妙な静謐さを湛えた巨大な宿屋のようでもあった。その中心で、魔王軍幹部・剛腕のギルガは、枢の放った一刺しによって深い眠りについていた。
「……う、ううむ……」
数時間が経過し、西日が王宮の尖塔を赤く染める頃、ギルガの巨大な体が微かに揺れた。
彼が目を開けた瞬間、まず感じたのは「驚き」だった。いつもなら目覚めと共に襲ってくる、全身を苛むような鈍痛と、逃れられない倦怠感が……消えていたのだ。
「……軽い。何だ、この感覚は。腕が、足が……自分の体ではないように、淀みなく動くぞ」
ギルガが起き上がると、目の前の焚き火で湯を沸かしている枢が、振り返りもせずに口を開いた。
「目が覚めましたか。予想より三十分ほど早い。やはり魔族の生命力は強靭ですね」
「貴様……私に何を施した。あの時、確かに私は意識を断たれたはずだ」
「深い休息を与えただけですよ。あなたは長年、魔力による自己強化を繰り返し、交感神経を限界まで痛めつけていた。常に戦いの中に身を置くことで、脳がリラックスすることを忘れてしまった……いわば『慢性的な戦闘中毒』です。私はただ、首筋の『天柱』から気を流し込み、強制的に脳をシャットダウンさせたに過ぎません」
枢は立ち上がり、困惑するギルガの背後に回った。
「動かないで。まだ一箇所、気が滞っている場所があります」
枢の指先が、ギルガの背中、両肩甲骨の間にある『身柱』というツボを捉えた。
「なっ、貴様、何を――」
「ここは『ちりげのツボ』とも呼ばれ、子供の疳の虫を抑えるのによく使われます。……今のあなたは、力が有り余って暴れる子供と同じです。本当の強さとは、力を出すことではなく、制御することにある」
枢が親指でグイと圧をかけると、ギルガの巨躯がビクンと跳ねた。
熱い。まるで背中から太陽を流し込まれたような、圧倒的な熱量。だがそれは不快なものではなく、心の奥底にある「焦燥」を溶かしていくような、慈愛に満ちた熱だった。
「……あ、ああ……。俺は、何を焦っていたのだ……。強くあらねば、蹂躙せねばと……そればかりを……」
ギルガの目から、一滴の涙が溢れた。最強を求め、己を削り続けてきた猛将が、初めて見せた「弱さ」だった。
そこへ、慌てた様子で一人の魔族が駆け寄ってきた。
「ギルガ様! ご無事ですか! ……枢殿、これはいったい……」
現れたのは、昨夜「枕」をもらって去っていった副隊長のヘルガだった。彼女は、地面に膝をつき、憑き物が落ちたような顔をしている上司の姿を見て、驚愕に目を見開く。
「ヘルガか……。案ずるな。私は今、生まれて初めて『本当の休息』というものを知った」
ギルガはゆっくりと立ち上がり、枢に向かって深く頭を下げた。一万の軍勢を率いる幹部が、一人の人間に対し、最大限の敬意を払った瞬間だった。
「連城枢……。貴様の腕、恐れ入った。……全軍、撤退だ! この男を連れて行くなどという無礼、二度と口にするな! この聖鍼師は、この地にいてこそ価値がある!」
「……撤退する前に、兵士たちを起こすのを手伝ってください。彼らも起きたら、肩の凝りが取れて驚くはずですから」
枢が呆れたように笑うと、ヘルガは顔を真っ赤にしながら、小声で枢に囁いた。
「……あ、あの。昨日の枕、とても、よく眠れた。……また、診てくれるか?」
「ええ。予約が空いていれば、いつでもどうぞ」
こうして、王国の存亡を賭けた「一万の侵攻」は、史上稀に見る「集団健康診断」へと姿を変えて終結したのである。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
最強を追い求めてボロボロだったギルガ将軍。
枢の打った『身柱』は、彼の肉体だけでなく、荒んだ心まで解きほぐしたようです。
これで魔王軍との関係も、少し変わってくるかもしれませんね。
「ギルガ将軍、意外といいキャラ……!」
「ヘルガさんのデレが可愛い!」
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次回、第14話は本日**【20:00】**に更新予定です。
王宮内に「聖鍼師」のファンクラブが爆誕……!? お楽しみに!




