第128話:狂気の再起動、魔導の翼が空を裂く
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枢の一刺しにより、崩れ落ちたかに見えたザイン。
しかし、彼の瞳に宿る灰色の光は消えていませんでした。
「……やはり、君の気は最高だ。……これでようやく、私の『完成形』に必要なラストピースが揃った」
自らの頸椎に深く突き刺される魔金鍼。
溢れ出す黒い魔力と、異形へと変貌していく肉体。
聖鍼術と天界の禁忌が融合した、絶望の「魔神化」。
夕方の更新、人を超えた兄弟子の圧倒的な蹂躙が始まります。
逃げ場のない空中回廊、枢の医術は通用するのか!?
膝を突き、枢のカウンターによって魔力を奪い取られたはずのザイン。
だが、彼の口元には、吐血に染まりながらも狂気に満ちた薄笑いが浮かんでいた。
「……ククク……、……ハハハハハ! ……素晴らしい……。……流石は師が最後まで目をかけていた男だ。……君の放つ『龍神の気』……。……これほどまでに……純粋で、……破壊的なエネルギーだったとはな……」
「……ザイン兄弟子、……何を笑っているんですか。……あなたの経絡は、……今の逆流によってボロボロのはずだ。……これ以上動けば、……再起不能になりますよ」
枢が金鍼を構え直し、警戒を強める。
「……再起不能? ……笑わせるな。……枢、……君の医学は……相変わらず……『完成された肉体』という幻想に縛られている。……壊れたのなら、……作り直せばいい。……より強く、……より無慈悲な……神の部品へと!」
ザインが、震える手で自身の往診ケースから一本の「極太の魔金鍼」を取り出した。
その鍼には、天界の法典そのものが微細な文字で刻まれており、どす黒い紫色の雷を放っている。
ザインは迷うことなく、その鍼を自身のうなじ、**『天柱』**の深奥へと、根元まで力任せに突き刺した。
「……があああああああああっ!!」
ザインの絶叫が、空中回廊を震わせる。
瞬間、彼の背中の皮膚が内側から弾け飛び、そこから肉と機械、そして硬質化した魔力が融合した「六枚の漆黒の翼」が突き出した。
翼の節々には、天界の魔力炉が埋め込まれ、ゴォォォォという不気味な排気音と共に、周囲の空気をプラズマ化させていく。
「……な、……なに……あれ……。……人間……なの……?」
リナが、黄金の杖を構えたまま一歩後退した。
目の前にいるのは、かつての兄弟子ではない。
天界の禁忌技術によって、自身の生命維持を法典のシステムへと完全に明け渡した、歩く戦略兵器――**『魔導聖鍼師』**の完成形だった。
「……標的、……枢。……これより、……強制的な『解体処置』へと移行する」
ザインの瞳から感情が消え、演算機のような冷徹な光だけが残った。
ドォォォォンッ!!
翼が羽ばたいた瞬間、ザインの姿が視界から消えた。
超音速の突進。
枢が翡翠眼を最大まで見開いた時には、すでにザインの拳――魔金鍼を爪のように突き出した一撃が、枢の眼前に迫っていた。
「……聖鍼流、天界重圧――『肩井・次元の陥没』!」
ツボとしての『肩井』は、肩の付け根に位置し、肩こりや頭痛の特効薬として知られる。だが、魔神化したザインの放つ『肩井』は、相手の肩にかかる「重力の定義」を書き換えるものだった。
ズゥゥゥゥンッ!!
枢の肩に、数トンの岩が乗ったかのような殺人的な圧力がかかる。
空中回廊の石材が、枢の足元から円状に陥没し、彼は地面に膝を突かされた。
「……ぐ、……あ……、……身体が……重い……!」
「……動けまい。……君の重力経絡は、……今、天界の法典によって『固定』された。……次は、……その翡翠の眼を、……内側から爆破してやろう」
ザインが指先を枢の眉間に向け、紫色のエネルギー弾を生成し始める。
絶体絶命の瞬間、横から割り込んだのは、炎の槍を纏ったカザンと、毒の霧を展開したサロメだった。
「……おいおい、……随分と……醜いツラになりやがって! ……そんなモンが……天界の最先端だってんなら、……俺の槍の方が……よっぽどハイカラだぜ!」
カザンの烈火の突きが、ザインの魔力障壁を叩く。
「……サロメ、……カザン……! ……逃げてください、……今の彼は……これまでの敵とは……」
「……うるさいわね、……ヘボ医者! ……患者を……守るのが……助手の仕事でしょうが! ……リナちゃん、……あんたは……枢を……サポートしなさい! ……ここは、……私たちが……時間を稼ぐわ!」
サロメが、禁忌の劇薬を空中へと散布する。
紫の魔力と黒い毒霧が混ざり合い、回廊は一瞬で見通しの利かない戦場へと変わった。
しかし、ザインの六枚翼が一度大きく羽ばたくと、その爆風だけで毒霧も炎も一瞬で吹き飛ばされた。
「……無駄だ。……ゴミのような魔法。……ゴミのような戦士。……すべては、……最適化された……私の力の……前では……塵に等しい」
ザインが翼の先端から、数千本の「魔力鍼」を一斉に射出した。
それは逃げ場のない弾幕となり、カザンとサロメの全身を容赦なく貫いていく。
「……がはっ……、……あ……」
カザンが血を吐き、崩れ落ちる。
サロメもまた、魔力鍼によって経絡を封じられ、魔力が逆流して倒れ伏した。
「……カザンさん! ……サロメさん!」
リナが叫び、必死に癒やしの光を放とうとするが、ザインの冷徹な視線が彼女を射抜く。
「……次は、……君だ。……『始祖の種』。……君を回収すれば、……私の研究は……真の意味で……神の域に達する」
ザインがゆっくりと、倒れ伏す枢の頭を掴んで持ち上げた。
彼の指先にある魔金鍼が、枢の脳を貫こうと輝きを増す。
「……さあ、……枢。……死を、……受け入れろ。……それもまた、……天界が定めた……『健康な終わり』だ」
枢の意識が遠のき始める。
仲間たちが倒れ、リナが狙われている。
だが、その絶望の淵で、枢の脳裏に「ある言葉」が響いた。
それは、ザインも自分も学んだ、あの師匠が最後に遺した言葉。
(……枢、……ザイン。……いいか、……聖鍼師にとって……最大の敵は……病でも……神でもない。……『自分には、もう救えない』という……自身の心の……諦めだ……)
枢の翡翠眼が、かつてないほど鋭く、そして静かに、ザインの「完成された肉体」へと向けられた。
そこには、ザイン本人が気づいていない、いや、法典さえも予測できなかった「魂の拒絶反応」という名の、わずか一ミリの隙間が存在していた。
「……ザイン、……兄弟子……。……残念ながら、……私の往診は……まだ……始まったばかりですよ」
ボロボロの身体に、再び翡翠色の気が宿り始める。
ザイン戦、第2ラウンド。
逆襲の鍼は、まだ枢の懐に隠されていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
兄弟子ザイン、魔神覚醒……!
自らの肉体を部品化し、法典のプログラムに従う怪物へと変貌したザインの圧倒的な暴力。カザンさんやサロメさんさえも一瞬で無力化されるという、かつてない絶望回となりました。
今回登場した**『天柱』**。
首の付け根、うなじの生え際にあるこのツボは、自律神経を整え、脳への血流を促す重要なポイントです。ザインはここを「自身を再定義するためのプラグ」として悪用しました。
次回、第129話は本日ラスト**【21:00】**に更新予定です!
ザインの指先が枢の眉間に迫る瞬間。
枢はあえて自身の致命的なツボを突き、一時的な「仮死状態」となることで、ザインの魔力リンクを強制切断します。
わずか3秒の自由時間。
枢がリナに託した「最後の一刺し」の正体とは!?
「ザインが強すぎて絶望しかない……! カザンさんたち大丈夫!?」
「枢さんの反撃、どうなるの!? 3秒って短すぎる!」
と思っていただけましたら、ぜひ**【評価(☆☆☆☆☆)】**やブックマークをよろしくお願いします!
本日最後の更新、どうぞお見逃しなく!




