第127話:白銀の回廊、裏切りの兄弟子
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天界の監視を打ち破り、いよいよ神々の領域「空中回廊」へと進撃する枢たち。
しかし、白銀の回廊に立ちはだかったのは、かつての枢の兄弟子、ザインでした。
「……久しぶりだな、落ちこぼれの枢。まだそんな古臭い鍼を振るっているのか」
天界の魔力と聖鍼術を融合させ、人を「改良」すべき部品と断じるザイン。
救うための鍼と、支配するための鍼。
同じ師から学んだ二人が、今、正反対の正義をぶつけ合います。
お昼の更新、かつての絆が火花を散らす「同門対決」をどうぞ!
生命の樹から天界の最深部へと伸びる「空中回廊」。
そこは雲海の上に浮かぶ、白銀の石材で組まれた幻想的な道だった。だが、その美しさに反して、空気は肺を刺すように冷たく、天界の法典が作り出した強力な重力結界が、一行の足を重く沈ませていた。
「……随分と、……静かですね。……守護者たちが束になって襲ってくると思っていましたが……」
枢が、翡翠眼で回廊の先を見据える。そこには、数千の兵ではなく、ただ一人の男が、白銀の椅子に深く腰掛けて本を読んでいた。
「……おい、……あいつ、……ただもんじゃねえぞ。……魔力が、……一箇所に……不自然なほど集まってやがる」
カザンが槍を構え、警戒を露わにする。
男がゆっくりと顔を上げた。
黒い短髪に、氷のように冷徹な灰色の瞳。その指先には、枢の持つ金鍼よりも一回り大きく、邪悪な紫色の光を帯びた「魔金鍼」が握られていた。
「……久しぶりだな、……枢。……まさか、……本当にここまで辿り着くとはな。……かつての師匠が、……草葉の陰で泣いているぞ」
「……ザイン……。……ザイン……兄……弟子……!」
枢の声が、怒りと驚きで微かに震えた。
ザイン。かつて聖鍼流の門下で「百年に一人の天才」と謳われながら、禁忌の「人体改造術」に手を染めて破門された男。そして、枢を罠に嵌めて破門へと追い込み、その才能を嘲笑った、枢にとって最大の因縁を持つ相手だった。
「……ふん、……相変わらず……冴えない面ね。……天界の犬に成り下がったってわけ? ……あんたのその『魔金鍼』、……昔より……さらに……ドス黒い……色に……なってるわよ」
サロメが前に出て、毒の煙を指先に纏わせる。
「……毒婦サロメか。……君も、……そんな落ちこぼれに……拾われて……随分と落ちぶれたものだ。……天界の叡智は、……医術を『祈り』から『科学』へと昇華させた。……不確かな心など捨て、……肉体という不完全な機械を、……完璧な法典に従って書き換える。……それが、……真の救済だ」
ザインが椅子から立ち上がり、指先で鍼を弾いた。
シュンッ!!
目にも止まらぬ速さで放たれた鍼が、枢の足元の石材を貫き、そこから紫色の「魔力回路」が蜘蛛の巣のように広がった。
「……動くな。……君たちの経絡は、……すでに私の『支配下』にある。……一歩でも動けば、……心臓のツボを強制的に停止させ、……その場で灰にしてやる」
「……あなたは、……何も変わっていない。……医術は、……患者の心に寄り添い、……共に歩むものです。……支配するための道具ではない!」
枢が自身の金鍼を構える。
二人の鍼が、空中で激突し、火花が散った。
ザインの動きは、かつて以上に洗練されていた。彼は自らの身体のツボを鍼で刺激し、神経伝達速度を限界まで高めている。それはまさに、肉体を「過負荷状態」にして戦う、死を恐れぬ改造医術。
「……無駄だ、……枢! ……私の『魔力鍼』は、……天界の法典と直結している。……君の翡翠眼がどれほど鋭かろうと、……神の演算速度には勝てん!」
ザインが、枢の喉元を狙って鋭い突きを放つ。
枢はそれを紙一重でかわすが、ザインの左手が空いた枢の腹部、**『中院』**を狙って放たれた。
ツボとしての『中院』は、へそとみぞおちの中間に位置し、胃の経絡の重要な「募穴」とされる。ここは消化器系の中心であり、同時に「生命のエネルギーを生み出す竈」でもある。ここを破壊されれば、枢は二度と気を練ることができなくなる。
「……聖鍼流、天界変異――『中院・魔力の簒奪』!」
ザインの魔力鍼が、枢の腹部を掠めた。
瞬間、枢の身体から「龍神の気」が激しく漏れ出し、足元の魔力回路へと吸い取られていく。
「……あ、……ぁ……っ!!」
枢が膝を突く。
ザインは冷酷に笑い、トドメの鍼を枢の眉間へと向けた。
「……枢さん!!」
リナが黄金の光を放って割って入ろうとするが、ザインの放った魔力障壁に弾き飛ばされてしまう。
「……終わりだ、……枢。……君の、……甘っちょろい……医術の……限界だ。……君の……翡翠の眼を、……天界の標本にしてやろう」
だが、枢は下を向いたまま、静かに笑った。
「……ザイン兄弟子。……あなたは、……私の『中院』を突いたつもりでしょうが、……それは……大きな間違いです」
「……何だと……?」
「……私が、……わざと……そこを……開けておいた……ことに、……天才の……あなたは……気づかなかったんですか?」
枢が顔を上げると、その瞳は翡翠色を通り越し、透明な「無」の色へと変わっていた。
枢の腹部、『中院』に刺さっていたのは、ザインの鍼ではない。
枢が自ら打ち込んだ、もう一本の「龍神の銀鍼」だった。
「……聖鍼流、裏奥義――『中院・天地の逆転』!」
瞬間、ザインが吸い取っていたはずの気が、逆に枢の方へと猛烈な勢いで逆流し始めた。
吸い取っていたのは、ザインの「生命力」そのもの。
枢は『中院』というエネルギーの竈を、逆に「ブラックホール」へと変貌させ、ザインの傲慢な魔力を一気に引き摺り込んだのだ。
「……な、……なに……を……。……私の……力が……奪われる……!? ……馬鹿な、……そんな……術式……法典には……ない……!」
「……法典には、……なくても……。……師匠の……教えには……あったはずですよ。……『医術とは、……奪うものではなく、……循環させるものだ』……とね」
空中回廊に、かつての兄弟子の絶叫が響き渡った。
同門対決、一回戦。
枢の「落ちこぼれの執念」が、天界の天才を真っ向から撃破した。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
ついに登場した宿敵、兄弟子ザイン!
「医術は科学であり支配だ」と断じるザインに対し、枢さんが見せたのは、弱さを力に変える「逆転の循環」でした。同じ師匠から学んだはずの二人が、これほどまでに違う道を歩んでしまった……その因縁の深さが感じられる回となりました。
今回登場した**『中院』**。
お腹の真ん中にあるこのツボは、胃腸の調子を整えるだけでなく、全身のエネルギー(気)を作り出す非常に重要なポイントです。枢さんはここを「逆転の罠」として使いました。
次回、第128話は本日**【18:00】**に更新予定です!
力を奪われ、膝を突くザイン。
しかし、彼は狂気に満ちた笑みを浮かべ、自身の心臓に「究極の魔力鍼」を打ち込みます。
理性を捨て、魔神と化した兄弟子。
枢は、彼を殺すのではなく「救う」ための、最後の手術に挑みます!
「兄弟子のザイン、いかにも悪役っぽくて最高!(笑)」
「枢さんのカウンター、スカッとしました!」
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夕方の更新も、どうぞお見逃しなく!




