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『異世界で「ツボ」を突いたら神と呼ばれた件 〜指一本で魔王も聖女も救い出す、世界唯一の最強聖鍼術〜  作者: 鍼灸師いのぴー
【第二章:鋼鉄の帝国と腐敗の科学】

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第124話:孤独の雨、心の氷解

お読みいただきありがとうございます!


リナの精神世界に潜入したくるる

降りしきる冷たい雨の中、彼を待っていたのは、巨大な黒い影となったリナの「絶望」でした。


「……あなたは、私の何を知っているの? ……助手として、ただ都合よく私を使っていただけじゃない!」


向けられる鋭い言葉は、リナの本心か、あるいは生命の樹が植え付けた毒か。

枢は鍼を構えず、ただ静かに彼女の心の「震え」に耳を澄ませます。


魂を癒やす、真実の看病。

夕方の更新、リナの過去が明かされる決意の回をどうぞ!

 リナの精神世界は、出口のない灰色の街並みだった。

 空からは、意志を持たない冷徹な雨が降り注ぎ、地面に転がる「巫女の仮面」を叩いている。くるるが歩を進めるたび、周囲の壁からはリナの声をした無数の囁きが聞こえてきた。

『……期待に応えなきゃ……。……私は道具じゃない……。……でも、……神様が決めた運命なんだから……』


 その囁きは、次第に激しい濁流となり、枢の前に巨大な「黒い泥の巨人」となって立ちはだかった。巨人の顔には、リナの泣き顔が浮かび、その背中からは生命の樹を模した黒い触手が、鎌首をもたげて枢を威嚇している。


「……リナ、……これが君がずっと隠してきた『重荷』だったんですね」

 枢の声は、冷たい雨の中でも驚くほど穏やかだった。


『……来ないで! ……見ないで! ……私は、……清らかな巫女なんかじゃない! ……本当は、……旅を止めて、……ただの女の子になりたかった! ……枢さんの隣で、……笑っていたかっただけなのに!』


 巨人の腕が振り下ろされ、枢のすぐ傍の地面を粉砕する。

 精神世界での衝撃は、そのまま魂の摩耗に直結する。枢の視界がチカチカと点滅し、存在が薄れそうになる。だが、枢は回避せず、あえて巨人の懐へと歩み寄った。


「……リナ。……君がずっと抱えてきた孤独を、……私は見落としていた。……最高の助手だと褒めることで、……君にさらなる役割を背負わせていた。……すまない、……本当にすまない」


『……謝らないで! ……優しい言葉をかけないで! ……そんなの、……もっと辛くなるだけよ!』


 黒い泥の中から、鋭い棘のような気が放たれ、枢の肩を貫く。

 激痛。だが、枢はその痛みさえも「患者の体温」として受け入れた。

 彼は右手の指先に、翡翠色の光を灯した。

 狙うのは、巨人の胸元に浮き出た、リナの「本心」が閉じ込められているコア――人における**『中府ちゅうふ』**の虚像だ。


 ツボとしての『中府』は、鎖骨の下、第一肋間に位置し、肺の経絡の始点とされる。「中」は内臓、「府」は集まる場所を意味し、ここは呼吸だけでなく、肺に宿るとされる「悲しみ」の感情が最も強く現れる門だ。リナは長年、巫女としての重圧により、本当の声を出すための「呼吸」さえも制限されていたのだ。


「……聖鍼流、精神往診――『中府ちゅうふ悲嘆ひたんの解放』!」


 枢の指先が、巨人の胸のコアへと触れた。

 瞬間、周囲の灰色の景色が、リナの「幼い頃の記憶」へと一変する。


 そこは、スノウトラの王宮の片隅にある、窓のない図書室だった。

 小さなリナが、山積みの古文書に囲まれ、独りで震えていた。

『……お父様、お母様……。私、もう勉強したくない……。外で、みんなと一緒に遊びたいよ……』

 だが、現れた両親の顔は霧に覆われ、ただ冷たく告げる。

『……リナ。お前はグラナートの希望なのだ。……感情を捨てなさい。……それが世界を守る唯一の道なのだから』


 枢は、その光景を横で見ていた。

 幼い彼女が、どれほどの涙をその胸に溜め込んできたのか。

 その涙が、今、精神世界を覆う「冷たい雨」の正体だった。


「……もう、……いいんですよ、リナ。……世界を守る責任なんて、……神様に返してしまえばいい。……私が、……私が君の隣で、……その重荷を半分背負います。……いや、……全部背負って、……君をただの女の子に戻してあげる」


 枢が、図書室で泣いている小さなリナへと歩み寄り、その頭を優しく撫でた。

 彼の右腕から、龍神の力ではない、枢自身の魂から溢れ出した「慈愛の気」が流れ込む。


 すると、巨大な泥の巨人が、サラサラと砂のように崩れ始めた。

 雨が止み、灰色の雲の間から、一筋の暖かい光が差し込む。

 目の前にいた少女が、ゆっくりと顔を上げた。

 その瞳は、濁りのない、透き通った碧眼に戻っていた。


「……くるる……さん……。……私、……また……甘えちゃいましたね……」


「……いいんです。……患者が医者に甘えなくて、……誰に甘えるんですか」


 枢が手を差し伸べると、リナは震える手でそれを握り返した。

 その瞬間、精神世界が黄金の光に包まれ、急速に修復されていく。生命の樹に植え付けられた呪いの毒が、枢の「中府」へのアプローチによって、感謝と安堵のエネルギーへと変換されていった。


 だが、安堵したのも束の間。

 精神世界の深奥から、地を這うような重低音の「笑い」が聞こえてきた。


『……素晴らしい。……実に見事な治療だ、聖鍼師枢』


 光を切り裂き、そこに現れたのは、リナの姿をした……だが、その背中から漆黒の六枚翼を生やした「偽りのリナ」。

 それは、生命の樹のシステムが、枢を精神世界に閉じ込めるために用意した、最終防衛プログラム――『聖母のマドンナ・シャドウ』。


「……まだ、……終わらせてはくれないようですね」

 枢はリナを背後に庇い、再び往診バッグから特製の金鍼を取り出した。


「……リナ、……目を開けたまま、……見ていてください。……あなたの心の傷を完全に塞ぐ、……最後の手術を」


 精神世界での決戦。

 偽りの自分を打ち破り、真の自分を取り戻すための、聖鍼師・枢の究極の「自己治癒の旅」が始まる。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


リナさんの心の深淵に潜り込み、彼女の「悲しみ」を直接癒やしたくるるさん。

幼少期の孤独、そして巫女としての重圧。それらを「中府」というツボを通じて解き放つシーンは、二人の絆をより深いものにしました。しかし、精神世界はそう簡単には脱出させてくれないようです。


今回登場した**『中府ちゅうふ』**。

胸の上部にあるこのツボは、肺の機能を整えるだけでなく、抑え込まれた悲しみや不安を解消する効果があります。「胸のつかえ」を物理的にも精神的にも取ってくれる、重要な癒やしのポイントです。


次回、第125話は本日ラスト**【21:00】**に更新予定です!


現れた『聖母の影』。

リナの姿をした偽物に、枢の鍼は通じるのか?

そして、リナ自身が「私は助手じゃない、パートナーだ!」と叫んだ時、精神世界に真の奇跡が起こります。


「枢さんの『全部背負ってあげる』発言、プロポーズ並みに熱い!」

「リナちゃんの子供時代が可愛すぎて、両親に怒り心頭です(笑)」


と思っていただけましたら、ぜひ**【評価(☆☆☆☆☆)】**やブックマークをよろしくお願いします!

本日最後の更新、どうぞお見逃しなく!

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