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『異世界で「ツボ」を突いたら神と呼ばれた件 〜指一本で魔王も聖女も救い出す、世界唯一の最強聖鍼術〜  作者: 鍼灸師いのぴー
【第二章:鋼鉄の帝国と腐敗の科学】

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第123話:堕天の白衣、深淵への往診案内

お読みいただきありがとうございます! 


命懸けの逆流術により、生命の樹からリナを救い出したくるる

しかし、リナの魂は樹の膨大な記憶に浸食され、戻るべき「出口」を見失っていました。


絶望する枢の前に現れたのは、黒い翼と白衣を纏った異形の集団「堕天使医師団」。

そのリーダーは、天界の腐敗に絶望し、下界へと降りた伝説の治癒術師でした。


「彼女を救いたければ、君の鍼で彼女の『夢』を裂き、迎えに行くしかない」


リナの心の中へ——。

聖鍼師、前代未聞の精神世界への往診に挑みます。

お昼の更新、新たなる共闘の始まりをどうぞ!

 荒れ狂う生命の樹の根元。

 黄金の繭から救い出されたリナは、くるるの腕の中で、まるで精巧な硝子細工のように静まり返っていた。呼吸は微かで、脈拍は冬の湖のように冷たく、その肌には樹の記憶が残した翡翠色の紋様が、今もなお脈動しながら彼女の生命力を吸い上げ続けている。


「……リナ、……目を開けてください。……リナ!」

 枢が必死に彼女の頬を叩くが、反応はない。彼の翡翠眼ひすいがんは、彼女の精神の核が、肉体という器から切り離され、生命の樹の広大な「集合無意識」の海へと流されていることを残酷に示していた。


「……無駄だ、聖鍼師。……彼女の魂は今、数千年に及ぶ樹の記憶という『迷宮』に囚われている。……外側からどれほど叫ぼうと、……その声は彼女には届かない」


 霧の中から現れたのは、ボロボロの白衣を羽織り、背中には片方だけの漆黒の翼を持つ、一人の男だった。彼の周囲には、同じように異形の姿をした者たちが数人、医療器具を手に静かに控えている。


「……何者だ、……お前ら! ……これ以上、……枢やリナに近づくなら、……この槍で串刺しにするぜ!」

 カザンがボロボロの身体を奮い立たせ、槍を構える。だが、男は一瞥もせず、ただ枢の右腕に宿る翡翠の光をじっと見つめていた。


「……我らは、天界の秩序に背き、……『病を殺すのではなく、命を愛でる』ことを選んだ者たち。……堕天使医師団フォールン・メディクスのリーダー、ラファエルだ」


「……ラファエル……!? ……天界の最高治癒神と謳われた、あの……」

 サロメが息を呑む。かつて天界で最強の医療魔術を誇りながら、数百年前に忽然と姿を消した伝説の存在。彼もまた、天界が提唱する「選別された命のみを救う」という法典に絶望し、真の救済を求めて地に堕ちた者だった。


「……ラファエル先生、……教えてください。……リナを、……彼女を連れ戻す方法は……本当にあるのですか?」

 枢が縋るように問う。ラファエルは枢の前に膝をつき、リナの額にそっと触れた。


「……ある。……だが、それは医学ではない。……神々の領域を犯す『冒涜』だ。……君の鍼を、……彼女の肉体ではなく、……彼女の『意識の境界』に打ち込み、……君自身の魂を彼女の夢の中へ送り込むしかない」


「……精神への、……往診……」

 枢は息を呑んだ。人体のツボは肉体にあるもの。だが、ラファエルが説くのは、魂の結節点に鍼を打ち、次元の壁を越えるという、聖鍼流の極意さえも超えた禁忌の技だった。


「……リナの心は今、生命の樹が抱えてきた数千年の『痛み』を一人で肩代わりしている。……その痛みは、……君ですら想像を絶するものだ。……下手をすれば、……君自身の魂も砕け散り、……二度と戻れなくなるだろう」


「……構いません。……彼女は、……私のために何度も命を懸けてくれた。……今度は、……私が彼女の絶望を、……すべて『往診』して差し上げる番です」

 枢の瞳に迷いはなかった。


「……いいだろう。……聖鍼師、君の覚悟を信じよう。……我ら医師団が、……君たちの肉体を守るための防衛陣を張る。……君は全神経を、……彼女の『門』に集中させろ」


 ラファエルの指示で、堕天使たちがリナの周囲を円陣で囲む。

 枢はリナを仰向けに寝かせ、彼女の喉仏からさらに上、顎の真下にある**『上廉泉じょうれんせん』**に指を添えた。


 ツボとしての『上廉泉』は、言葉にならない想いを解き放ち、意識の深淵と繋がるための神聖なポイントだ。喉を司る『廉泉』のさらに奥、魂の「声」が生まれる場所。今のリナは、樹の記憶に押し潰され、自分自身の「声」を失っている。枢はここに鍼を打ち、彼女の魂を呼び覚ますための「架け橋」を作ろうとした。


「……聖鍼流、夢幻往診――『上廉泉じょうれんせん幻夢げんむの開門』!」


 枢の指先から、翡翠色の光が鍼となって放たれ、リナの喉元を優しく貫いた。

 瞬間、周囲の景色がぐにゃりと歪み、黄金の森が崩れ去る。

 枢の視界は真っ白な光に包まれ、次の瞬間、彼は冷たい雨が降りしきる、荒廃した「心の風景」の中に立っていた。


「……ここは、……リナの心……?」

 空は重く垂れ込め、地面には折れた医療器具や、枯れ果てた黄金の葉が散乱している。

 遠くで、小さな少女が膝を抱えて泣いている姿が見えた。


「……リナ! ……リナ、どこですか!」

 枢が叫ぶが、彼の声は風に掻き消される。

 そして、少女の背後から、リナの姿をした巨大な「影」が、幾千もの蛇のような触手を伸ばして立ち上がった。


『……帰って……。……ここは、……もうすぐ……すべてが腐り落ちる……絶望の墓場よ……』


 リナの声を借りた「樹の怨念」が、枢を拒絶するように襲いかかる。

 精神世界での戦い。

 ここでは、肉体の強さは意味をなさない。どれだけ「患者を救いたい」という意志が強固であるか、その一念だけが武器となる。


「……いいえ、……帰らせません。……往診バッグを抱えて、……患者を置いて帰る医者がどこにいますか!」


 枢は、精神世界で具現化した一本の「巨大な金鍼」を構えた。

 リナの心の傷を、一枚ずつ剥がしていく、最も繊細で、最も過激な往診。

 

 聖鍼師枢と、生命の樹に汚染された「リナの絶望」との、魂を懸けた手術が始まった。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


新展開、精神世界への潜入!

肉体的なバトルから一転、リナさんの「心の中」を治療するという、非常に内省的かつ熱い展開に突入しました。ラファエル率いる「堕天使医師団」の登場で、物語の医術的な専門性もさらにパワーアップしています。


今回登場した**『上廉泉じょうれんせん』**。

顎のすぐ下にあるこのツボは、嚥下障害や言語障害に効くほか、精神を安定させ、閉じ込めた感情を解き放つ効果があります。枢さんはここを「魂への入り口」として利用しました。


次回、第124話は本日**【18:00】**に更新予定です!


精神世界で暴走する「リナの影」。

幼い頃の彼女が抱えていた孤独と、天界によって植え付けられた「巫女としての呪い」。

枢は、彼女の心のツボを一つずつ癒やしながら、最深部へと進みます。


「ラファエル、かっこいい……! 枢さんの新しい師匠になるのかな?」

「リナちゃんの精神世界、切なすぎる。早く抱きしめてあげて!」


と思っていただけましたら、ぜひ**【評価(☆☆☆☆☆)】**やブックマークをよろしくお願いします!

夕方の更新も、どうぞお見逃しなく!

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