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『異世界で「ツボ」を突いたら神と呼ばれた件 〜指一本で魔王も聖女も救い出す、世界唯一の最強聖鍼術〜  作者: 鍼灸師いのぴー
【第二章:鋼鉄の帝国と腐敗の科学】

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第119話:聖母の威光、魂を繋ぐ翡翠の糸

お読みいただきありがとうございます!


自らの存在を毒の霧へと変え、ラグエルの神罰を押し返したサロメ。

しかし、その代償はあまりにも大きく、彼女の魂は崩壊の危機に瀕していました。


激昂するラグエルに対し、黄金の光を纏い立ち上がったのはリナでした。

「……退きなさい、ラグエル。……あなたの法は、命の涙を数えていない」


樹の意志そのものとなったリナの威厳。

そして、消えゆくサロメの魂をこの世に繋ぎ止めるため、くるるが挑むのは、経絡を越えた「魂の縫合手術」でした。

お昼の更新、奇跡を信じる一刺しをどうぞ!

 黄金の光が、生命の樹の深部から溢れ出し、ラグエルが放っていた殺戮の圧力を一瞬で霧散させた。

 中心に立つのは、リナ。だが、その瞳に宿る色彩は、いつもの慈和な碧眼ではなく、銀河の星々を内包したかのような深遠な黄金色へと変貌していた。彼女の背後には、天を覆うほどの巨大な「光の樹」が幻影として現れ、その枝先がラグエルの法典の剣を、赤子をあやすように優しく包み込んでいた。


「……バ、……バカな……。……生命の樹が、……意志を持って……拒絶しているだと……? ……そしてその娘、……まさか、……失われたはずの『始祖の種』の……」

 ラグエルの表情が、初めて恐怖に近い驚愕に染まった。

 彼は法典の守護者として、この世界の創世に関わる「最初の記憶」を知っている。リナが今、纏っている気は、天界の神々がかつて畏敬の念を抱き、そして恐れとともに封印した「大いなる母」のそれに酷似していた。


「……ラグエル。……あなたは秩序を守るために、……命の循環を止めてしまった。……枯死は、……救済ではない。……それはただの、……思考の放棄です」

 リナの声は、鈴を転がすような美しさを保ちながらも、聞く者の魂の芯を震わせるような重みがあった。

 彼女がそっと手を振ると、ラグエルの周囲に張り巡らされていた法典の数式が、春の雪のように儚く溶け落ちていく。


「……ぐ、……あ……、……力が……抜ける……。……私への、……干渉を……止めろ……!」

 ラグエルは自身の翼が白く風化していくのを感じ、たまらず上空へと飛び退いた。

 神の法典は、命の樹が発する「根源のことわり」の前では、ただの稚拙な落書きに過ぎなかった。


「……今日は、……引き下がりなさい。……あなたの裁きは、……この樹が……私が……許しません」

 リナの断固たる宣言。

 ラグエルは悔しげにくるるとリナを睨みつけたが、樹の力がさらに高まるのを察知し、銀の光となって天界の彼方へと去っていった。


 静寂が、聖域に戻る。

 だが、リナの纏っていた黄金の光もまた、限界を迎えたように急速に萎んでいった。

「……はぁ、……はぁ……。……くるる……さん……。……私、……今、……何を……」

 倒れそうになるリナを、サロメを抱えたままの枢が片腕で支える。リナの瞳は元の碧眼に戻っていたが、その消耗は激しく、立っているのが精一杯のようだった。


「……リナ、……よくやってくれました。……あとは、……私がサロメさんを……」

 枢の腕の中で、サロメの存在感は希薄になり続けていた。

 彼女の指先から、紫色の煙が絶え間なく溢れ出している。これは出血ではない。存在の根源である「霊子れいし」が、毒の劇薬によって崩壊し、霧となって消え始めているのだ。


「……枢、……もう……いいわ……。……私、……自分でも、……分かってる……。……あのアホ天使を……驚かせてやった……。……それだけで……満足よ……」

 サロメが弱々しく、だが満足そうに微笑む。その唇からも、血ではなく紫の霧が零れた。


「……満足なんて、……させません! ……あなたは、……まだ私の弟子としても、……一人の女性としても、……やり残したことが山ほどあるはずだ!」

 枢は、自身の「龍神の気」を込めた新しい右指を、サロメの鎖骨の間、胸骨の上端にある**『天突てんとつ』**へと向けた。


 ツボとしての『天突』は、喉の付け根に位置し、呼吸器系のトラブルや「言葉」の通りを良くする場所だ。しかし、東洋医学の深淵においてここは、天(頭・魂)と地(胴体・肉体)を繋ぐ「狭き門」とされる。今のサロメは、魂が肉体という器を維持できずに「天」へと漏れ出している状態。ならば、この門を強制的に閉ざし、肉体に魂を「縫い付ける」しかない。


「……聖鍼流、霊子れいし縫合――『天突てんとつたましい繋留けいりゅう』!」


 枢の指先が、サロメの喉元へ一寸の狂いもなく触れた。

 鍼は使わない。今の枢の指そのものが、龍神の力と生命の樹の気を帯びた「生ける神鍼」だった。

 指先から放たれた翡翠色の気が、サロメの喉から全身の経絡へと逆流し、漏れ出していた紫の霧を、強引に彼女の内側へと押し戻していく。


「……あ、……ぅ……ぐ……、……苦しい……。……何かが……入って……くる……」

 サロメが身悶えする。

 枢はさらに、彼女の背中にある**『厥陰兪けついんゆ』**を突いた。ここは心臓の気を司り、絶望から心を救い出すための聖域。


「……サロメさん、……私を見てください! ……私を、……信じてください!」

 枢の叫びと、指先から流れ込む圧倒的な「生」のエネルギー。

 崩れかけていたサロメの経絡が、枢の気によって補強され、新しい「回路」として再構築されていく。

 紫の煙が止まった。

 サロメの肌に、微かな、だが確かな赤みが戻ってくる。


「……はぁ、……はぁ……。……しつこい……男……ね……。……死なせて、……くれないの……?」

 サロメの瞳に、いつもの毒のある光が戻った。

 枢は安堵のあまり、その場に崩れ落ちた。


「……死なせません。……一万回でも、……私が救い出します」


 生命の樹の下。

 満身創痍の一行。

 だが、リナの覚醒とサロメの生還によって、彼らはもはや「天界から逃げる者」ではなく、「世界の理を変えうる存在」へと進化を遂げていた。


 サロメが、枢の胸を弱々しく叩く。

「……あんた、……さっき……『一人の女性として』……なんて言ったわね。……あれ、……忘れないわよ」


 枢は顔を赤くし、リナもまた「私も聞き捨てなりません!」と頬を膨らませる。

 激闘の後の、微かな平穏。

 しかし、天界の最高幹部たちが、もはやラグエル一人では手に負えないと判断し、次の「大規模な浄化作戦」を開始したことを、彼らはまだ知らなかった。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


リナさんの覚醒、そしてサロメさんの命を繋ぎ止めるくるるさんの「魂の縫合」。

サロメさんが消えかかる瞬間の絶望から、枢さんの執念が奇跡を起こすシーンを描きました。『天突』という急所を使い、文字通り魂を肉体に縫い付けるという荒業は、今の枢さんだからこそ成し得た技です。


今回登場した**『天突てんとつ』**。

喉の仏の下の窪みに位置するこのツボは、喘息や喉の痛みに効くほか、気が逆上して苦しい時に落ち着かせる効果があります。枢さんはここを「魂の出口」として封印しました。


次回、第120話は本日**【18:00】**に更新予定です!


回復したサロメと、自らの力を自覚し始めたリナ。

一行が生命の樹を去ろうとした時、樹の根元から「過去の聖母」の残した予言の碑文が現れます。

そこに記されていた、ヘイズ博士との「本当の決着」とは?


「枢さん、どさくさに紛れてサロメさんに愛の告白!?(笑)」

「リナちゃんの嫉妬も可愛すぎる!」


と思っていただけましたら、ぜひ**【評価(☆☆☆☆☆)】**やブックマークをよろしくお願いします!

夕方の更新も、どうぞお見逃しなく!

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