第114話:神域の境界、深霧に潜む三つの影
おはようございます!
極北の国スノウトラに春を呼び込み、自身も新たな力を手に入れた枢。
呪いと毒を乗り越えた彼らが次に向かうのは、世界の中心に聳え立つと言われる「生命の樹」の聖域です。
しかし、平穏な旅路は長くは続きませんでした。
霧深い森を抜けた先に現れたのは、これまでの刺客とは一線を画す、天界最強の「三位一体の処刑人」。
第五部、開幕。
聖鍼師の新たな力が、神の領域の戦いへと踏み込みます。
火曜日の朝、熱き新展開をどうぞ!
スノウトラの雪解けから数週間。
アルテミス号は、氷の国の寒気を脱し、鬱蒼とした緑に覆われた未知の密林へと足を踏み入れていた。目指すは、大陸の最奥、雲を突き抜けて聳え立つとされる「生命の樹」。そこには、あらゆる病を癒やす究極の気が流れているという。
「……枢さん、顔色が良くなりましたね。……その手も、……もう本当に大丈夫なんですか?」
デッキで風に吹かれる枢の隣で、リナが優しく微笑みながら尋ねた。枢は自身の右手を掲げ、光に透かしてみせる。以前のような陶器のような白さは消え、瑞々しい血色が戻っている。だが、その指先は時折、翡翠色の微かな光を放っていた。
「……ええ、……リナ。……むしろ、……以前よりも世界の『音』がよく聞こえるんです。……風の揺らぎ、……木々の呼吸。……そして、……これから私たちを待ち受けている『歪み』の音も」
枢の翡翠眼は、遥か前方の霧の向こう側、空気が不自然に歪んでいる一点を捉えていた。そこには、生命の樹を守るための巨大な結界が張られており、その「門」を守るように三つの強大な気が鎮座している。
「……ケッ、……さっきから嫌な気がプンプンしてやがる。……天界の連中、……まだ懲りてねえのかよ。……ミカエルだか何だか知らねえが、……あの眼鏡野郎よりもずっと重てえ気が三つも並んでやがるぜ」
カザンが槍を担ぎ直し、鼻を鳴らす。サロメもまた、新しい劇薬の調合を終えた注射器を弄びながら、不敵な笑みを浮かべていた。
「……三位一体の処刑人、……『トリニティ・ジャッジ』。……天界の古文書にだけ記されている、……神の領域を侵す不純物を排除するための掃除屋よ。……まさか本当に実在していたなんてね。……面白くなってきたじゃない」
アルテミス号が霧の中に突入した瞬間、周囲の視界が完全に遮断された。
キィィィィィィィン!!
鼓膜を突き刺すような高周波が響き渡り、船体が激しく揺れる。
霧の中から、銀色の鎧に身を包んだ、全く同じ容姿を持つ三人の男たちが静かに降り立ってきた。
「……発見。……ターゲット、枢。……および随行員三名。……罪状、天界秩序の破壊、ならびに神の力の簒奪。……判決、即刻消滅」
三人の処刑人は、感情を一切持たない機械のような声で同時に宣言した。
一人は巨大な「審判の盾」を持ち、一人は光り輝く「執行の剣」を、そして中央の一人は「断罪の錫杖」を携えている。
「……待ってください。……私は、……あなた方と戦いに来たのではありません。……生命の樹に流れる気の淀みを治し、……この世界の崩壊を止めるために……」
「……問答無用。……我らは意志なき刃。……神の法典に従い、……汝らを灰へと変えるのみ」
中央の男が錫杖を振るうと、空から無数の光の矢が降り注いだ。
リナが瞬時に防御魔法を展開するが、その結界は光の矢が触れた瞬間に、まるで硝子のように脆く砕け散った。
「……魔法を、……一瞬で分解した!? ……そんなの、……ありえない……!」
驚愕するリナを庇い、カザンが炎を纏った槍で矢を叩き落とすが、その衝撃だけで彼の手首は悲鳴を上げていた。
枢は、処刑人たちが放つ「気」の正体を見抜こうと、翡翠眼を凝らした。
だが、彼らには脈動も、体温も、経絡さえも存在しなかった。
彼らは肉体を持つ人間ではなく、凝縮された「純粋なエネルギーの結晶体」だったのだ。
(……生きているものなら、……必ずツボがある。……だが、……彼らには『生』の形がない。……ならば、……どこを狙えば……)
その時、枢の新しい右指が、微かに脈打った。
指先から伝わってくるのは、周囲の空間そのものが発している「不協和音」。
三人の処刑人は、互いの魔力を共鳴させることで一つの巨大な結界を形成している。その共鳴の「結節点」こそが、彼らを繋ぎ止めている唯一のツボだった。
「……リナ! カザンさん! ……正面からぶつかってはいけません。……彼らは三人で一つの『生命体』として機能しています。……その繋がりを断ち切らなければ、……どんな攻撃も通じない!」
「……ほう。……一瞬で我らの本質に気づくか。……だが、……気づいたところで届かぬ。……我が『天の盾』は、……地上のあらゆる物理干渉を無効化する」
盾を持つ男が前へ出ると、不可視の壁が枢たちの周囲を包囲し、酸素さえも遮断し始めた。
枢は、自身の往診バッグから、これまで一度も使ったことのない「極小の金の鍼」を取り出した。
それは針というよりも、もはや目に見えない一本の「光の糸」のようだった。
彼は右手の指先に全神経を集中させた。
狙ったのは、三人の中央、空間の歪みが最も激しい地点。
そこにあるのは、人体のツボではない。空間そのものの急所――**『天窓』**の共鳴点だ。
本来、ツボとしての『天窓』は、首の側面、胸鎖乳突筋の後縁に位置し、「天の窓」を開いて耳鳴りや頭痛を鎮める場所だ。枢はこの概念を空間に適用し、三人が作り出している「天界の障壁」という名の窓を、無理やりこじ開けようとしたのだ。
「……聖鍼流、次元往診――『天窓・虚空の開門』!」
枢の指先から放たれた金の鍼が、音もなく空間を滑り、処刑人たちが展開する盾の「継ぎ目」へと吸い込まれた。
パリンッ!!
空気が割れる音が響き、絶対に突破不可能と思われた盾が、蜘蛛の巣のような亀裂と共に崩壊した。
「……なに……!? ……我らの絶対防御を、……たった一本の、……あんな細い針で……!?」
初めて処刑人の声に驚愕の色が混じった。
「……あなた方は、……あまりに完璧すぎた。……完璧すぎる気の流れは、……一箇所を突くだけで、……ドミノ倒しのようにすべてが崩れるんです」
枢の翡翠眼が、冷徹に次の急所を射抜く。
右手の指先は、すでに次の「音」を奏でる準備を整えていた。
神の使いを相手に、聖鍼師の「救済」が今、真価を発揮する。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
第5部「生命の樹編」、いよいよスタートしました!
枢さんの新しい力「次元往診」。もはや人体のツボだけでなく、空間や世界の「歪み」さえも鍼で正してしまうという、次元の違う強さを発揮しています。
しかし、相手は天界最強の処刑人。一筋縄ではいかない戦いが幕を開けました。
今回登場した**『天窓』**。
首にあるこのツボは、顔のむくみや耳のトラブルに効くほか、東洋医学では「天(頭)への窓口」とされる重要な場所です。枢さんはこれを応用し、処刑人たちの鉄壁の連携を内側から崩しました。
次回、第115話は本日**【12:00】**に更新予定です!
盾を破られた処刑人たちの、更なる合体攻撃。
そして、リナが放つ新魔法と、カザンの「火神」としての覚醒が、聖域の森を焼き尽くす!?
「枢さん、強くなりすぎて格好いい!」
「処刑人たち、量産型っぽいけど連携がえぐい……」
と思っていただけましたら、ぜひ**【評価(☆☆☆☆☆)】**やブックマークをよろしくお願いします!
第五部もアクセル全開で進みます。お昼の更新もお楽しみに!




