表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『異世界で「ツボ」を突いたら神と呼ばれた件 〜指一本で魔王も聖女も救い出す、世界唯一の最強聖鍼術〜  作者: 鍼灸師いのぴー
【第二章:鋼鉄の帝国と腐敗の科学】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

113/262

第113話:心眼の神鍼、白銀の世界を溶かす絶唱

お読みいただき、本当にありがとうございます!


永久氷宮の底から現れた、絶望の具現者「氷獄の龍」。

視力を失い、指の感覚さえ奪われたくるるに、もはや戦う術はないかに見えました。


しかし、サロメが命を削って生み出した「黄泉の霊薬の種」と、エルナが魂を削って奏でる「命の旋律」が、聖鍼師の死にかけた経絡を突き動かします。


目で見ず、手で触れず。

魂の鼓動だけで打つ、究極の往診。

月曜日のラスト、くるるの真の覚醒と、氷の国の夜明けをどうぞ!

 氷の床を突き破り、その鎌首をもたげた「氷獄の龍」は、実体を持たない青白い炎の塊のようだった。龍が息を吐くたびに、宮殿の柱は分子レベルで凍結し、粉々に砕け散っていく。

 くるるは、光を失った瞳を閉じ、ただ静かに立っていた。彼の右腕はサロメの毒と霊薬の種が混ざり合い、激しい熱を発している。


「……枢さん! 危ない! 逃げてください!」

 リナの叫びも、カザンの槍が弾かれる音も、今の枢には「音階」としてしか認識できない。

 だが、その音階の中に、エルナのピアノが力強く介入してきた。

 激しく、そして精緻な。それは龍の動きを、その巨体の「気の急所」を、音の振動で浮き彫りにするためのガイドラインだった。


「……聞こえます、エルナさん。……あなたの音が、……私に『道』を示してくれている」


 枢は往診バッグから、サロメが吐き出した黒い結晶――「霊薬の種」を、一本の銀鍼の先に塗りつけた。


 その瞬間、枢の動かないはずの右指が、痙攣するように跳ねた。

 龍神の呪いという「陰」と、グラナート一族の極毒という「陽」。二つの相反する力が、枢の肉体の中で激しく衝突し、失われていた「触覚」を無理やりこじ開けようとしていた。


「……あ、……ぁ、……あぁぁぁぁぁぁ!!」

 枢が咆哮した。

 彼の背中から、翡翠色の気が巨大な翼のように噴き出す。

 目を開けたわけではない。だが、彼の脳裏には、神殿の構造、仲間の位置、そして龍の体内を巡る「氷の魔力の奔流」が、鮮明な立体の地図として描き出されていた。


 龍が咆哮し、絶対零度のブレスを放つ。

 枢はそれを、舞うような足取りで回避した。

 一歩、二歩。ピアノの打鍵に合わせて、枢の身体が加速する。

 彼が狙ったのは、龍の心臓部、魔力が渦巻く中心点である**『歩廊ほろう』**。


 ツボとしての『歩廊』は、胸の中央から少し外れた、第五肋間に位置する。「歩く廊下」という名の通り、ここは気の流れをスムーズにし、胸のつかえや呼吸の乱れを整えるための重要な通路だ。氷獄の龍にとって、ここは全エネルギーが循環する唯一の「隙」であった。


「……聖鍼流、心眼術――『歩廊ほろう万象ばんしょうの還流』!」


 枢の手が、閃光となった。

 一本ではない。サロメの毒を纏った数百、数千の気の鍼が、龍の巨体に一斉に降り注いだ。

 それはもはや「打つ」という動作ではない。枢の意志そのものが、龍の経絡を書き換えていく。


 ドォォォォォンッ!!


 龍の体内から、翡翠色の火柱が上がった。

 サロメの毒が、龍の「氷の魔力」を燃料として燃え上がり、内側からその存在を溶かしていく。

 龍の咆哮が、苦悶から「解放」へと変わる。数千年の間、この国の地下で澱み続けてきた負の感情が、枢の鍼によって昇華されていく。


「……枢、……あんた……。……本当に、……バカげたことを……やってのけるわね」

 サロメが意識を保ちながら、枢の勇姿に微笑んだ。


 龍が光の粒子となって消滅した瞬間、宮殿を覆っていた氷が、一斉に砕け散った。

 窓からは、スノウトラの歴史上、一度も昇ったことのないような、力強い「朝日」が差し込んでくる。

 その光を浴びて、枢の瞳がゆっくりと開かれた。


 翡翠の瞳。

 そこには、再び光が宿っていた。

 そして、白く変質していた彼の両手には、赤みが差し、血管が力強く脈動している。

 龍神の毒を、サロメの霊薬が「完全に中和し、統合」したのだ。


「……見えます。……みんなの顔が、……朝日が。……そして、……指先の感覚が、……戻っている……」

 枢が自分の掌を何度も握りしめ、涙を流した。

 以前のような繊細さだけではない。今の彼の指先には、龍神の力と霊薬の力が共存する、新たな「神の触覚」が宿っていた。


「……枢さん!!」

 リナが、カザンが、そして演奏を終えたエルナが、枢の元へ駆け寄る。

 エルナの瞳からも、氷の結晶が剥がれ落ち、そこには美しい碧眼が輝いていた。


「……私、……見えるわ。……あなたの、……温かい光が」


 女王シシュは、玉座から降り、枢の前に跪いた。

「……聖鍼師。……お前は、……この国の呪いだけでなく、……私の凍りついた誇りさえも、……溶かしてくれた。……感謝する。……お前こそが、……真の救世主だ」


 スノウトラの国中に、雪解けの音が響き渡る。

 第4部「黄泉の霊薬編」・完。

 枢は失ったものを取り戻し、それ以上の力を得た。だが、それは同時に、天界の王たちが彼を「排除すべき脅威」として完全に認識したことを意味していた。


「……さあ、行きましょう。……私の往診は、……まだ始まったばかりです」


 枢の手に握られた新しい神鍼が、朝日に輝く。

 次なる舞台は、命の源流が眠るという「生命の樹」の麓へ。

 枢たちの旅は、さらに苛烈に、そして光に満ちたものへと加速していく。

最後までお読みいただき、本当にありがとうございました……!


くるるさんの復活! そして第4部の最初の大きな試練を乗り越えました!

視力と触覚を失うという絶望を、仲間の助けで「新たな力」へと昇華させる展開。執筆していても、枢さんの復活の瞬間は胸が熱くなりました。

サロメさんとの絆、エルナさんの音楽との共鳴……これこそが『聖鍼師』の物語ですね。


今回登場した**『歩廊ほろう』**。

胸にあるこのツボは、気の巡りをスムーズにし、滞りを解消する重要な場所です。枢さんはここを「龍のエネルギーの核」と見抜き、一撃でその呪縛を解き放ちました。


次回、第114話は明日、3月10日 08:00に更新予定です!


スノウトラを後にし、一行が向かうのは「生命の樹」が聳える聖域。

しかし、そこには天界から派遣された、ミカエルを凌ぐ実力を持つ「三位一体の処刑人」が待ち構えていました。


「枢さん、完全復活おめでとう! 感動しました!」

「サロメさんとのコンビ、やっぱり最高です!」


と思っていただけましたら、ぜひ**【評価(☆☆☆☆☆)】**やブックマークをよろしくお願いします!


それでは、また明日の朝、新たなる冒険の幕開けでお会いしましょう!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ