第11話:嵐の前の静けさと、震える騎士団
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本日は5話更新の予定でしたが、1話多めに投稿できました!
王宮を包囲する一万の軍勢。絶望が広がる中、枢だけは一人、静かに「道具」を研いでいました。
嵐の前の静けさ。鍼灸師が迎える、決戦前夜のひとときをお楽しみください。
魔王軍幹部、剛腕のギルガ率いる先遣隊が王都の目鼻の先まで迫っている。
その報告がもたらされた夜、王宮内はまさに蜂の巣をつついたような騒ぎに陥っていた。
「……一万だと? 先遣隊だけで、我が国の全軍に匹敵する数ではないか!」
会議室では、着慣れぬ鎧に身を包んだ文官たちが、震える手で地図を広げていた。
王宮騎士団の面々も、厳しい表情で剣の手入れをしている。だが、その指先は微かに震えていた。魔王軍の幹部が本気で攻めてくる。それは、この小国にとって「死」を意味していた。
そんな喧騒から遠く離れた、王宮の一角。
枢に与えられた治療室だけは、まるで別世界のような静寂に包まれていた。
「枢様! なぜ、そのような悠長に準備をなさっているのですか!」
部屋に飛び込んできたのは、セレスティアラ王女だった。彼女の自慢の金髪は乱れ、その瞳には隠しきれない不安が渦巻いている。
彼女の視線の先で、枢は小さな砥石を使い、銀色の鍼を丁寧に、丁寧に研いでいた。
「準備? ええ、明日は大勢の『患者』が押し寄せてきそうですからね。早めに道具の手入れをしておかないと、仕事に支障が出ます」
「患者!? 攻めてくるのは魔王軍、戦う相手ですわよ!」
「王女様。私にとって、苦しんでいる者はすべて患者です。力に溺れ、己の肉体を顧みない者たちは、ある種の中毒患者のようなもの。治療が必要なのは明白でしょう?」
枢は、研ぎ終えた鍼を月光にかざした。
その冷徹なまでの冷静さに、王女は言葉を失う。この男には、絶望という感情がないのだろうか。
「……枢様。もし、明日、この城が落ちるようなことがあれば……」
「落ちませんよ。あなたの肩、昨日より凝っていますね。不安は血流を阻害します。……ほら、そこへ座りなさい。戦いが始まる前に、少しでも気を整えておかなければ」
「こんな時に、治療など……っ」
文句を言いながらも、枢の不思議な落ち着きに惹かれるように、王女は椅子に腰を下ろした。
枢の温かい指先が、彼女のうなじにある『風府』のツボを優しく押さえる。
「……っ。あ……」
不思議だった。外では兵士たちの怒号と馬のいななきが響いているというのに、枢の指が触れる場所から、じわりと温かな安らぎが広がっていく。
まるで、世界に自分と枢の二人しかいないような、錯覚。
「……枢様。あなたは、怖くないのですか?」
「怖いですよ。明日、鍼が足りなくなって治療を中断せざるを得なくなったら……と思うとね」
枢は冗談めかして笑い、王女の背中をポンと叩いた。
「さあ、お休み。明日は忙しくなります。あなたは王女として、民を安心させる笑顔を守らなければならない。そのためには、今夜の睡眠が一番の薬です」
王女が部屋を去った後、枢は再び銀鍼を手に取った。
窓の外、暗闇の向こう側に蠢く、巨大で禍々しい魔力のプレッシャー。
枢は、自身の指先にある『少商』を刺激し、全身の経絡に魔力を巡らせる。
「……さて。一万人分の『強制安眠』。……少し、骨が折れそうですね」
夜が明ければ、そこは戦場になる。
だが、この東洋から来た鍼灸師にとって、それは「巨大な野戦病院」への往診に過ぎなかった。
どんなピンチでも「指先の感覚」を研ぎ澄ます枢。
彼の冷静さが、不安に震えるセレスティアラ王女にどう伝わったのか……。
「枢の落ち着きがかっこいい!」
「王女様、そこ代わって!」
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次回、第12話は明日**【8:00】**更新予定。
ついに、一万の軍勢を相手に「聖鍼」が炸裂します。お見逃しなく!




