第106話:龍鱗の咆哮、禁忌の術式
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ついに正体を現した大司教の異形。
龍の鱗に覆われ、理性を失った巨大な怪物に対し、枢はたった一本の鍼でその心臓部へ肉薄します。
しかし、天界の筆頭医官ミカエルが放ったのは、患者の命を「燃料」として消費する、天界の禁忌の術式でした。
救うべき患者が、最大の兵器へと変えられる。
聖鍼師・枢の前に立ちはだかる、医術という名の絶望。
日曜日、お昼の更新。命の価値を問う激闘が始まります!
円卓の間は、もはや神聖な会議の場ではなかった。
黒い鱗を全身から噴き出させ、三メートルを超える巨躯へと膨れ上がった大司教ザカリアスが、咆哮と共に周囲の白亜の柱を粉砕する。その爪の一振りが空気を切り裂き、避けたカザンの頬に鋭い切り傷を作った。
「……っつ、……なんて硬ぇ鱗だ! ……俺の槍が、……岩でも突いてるみたいに弾かれやがる!」
「……カザンさん、……無理に力で押さないでください! ……彼は今、……体内の魔力が異常燃焼を起こして、……肉体が結晶化しているんです!」
リナが杖を掲げ、ザカリアスの動きを鈍らせるための「重力障壁」を展開するが、龍の力を得た大司教は、その障壁さえも力任せに引き裂いていく。
枢は、その狂乱の渦の中心で、静かに呼吸を整えていた。
彼の翡翠眼は、ザカリアスの喉の奥、龍の核が癒着しているポイントを正確に捉えていた。そこにあるのは、**『気舎』**のツボ。
ツボとしての『気舎』は、鎖骨のすぐ上にあり、文字通り「気の舎」、すなわち気が集まり、停滞しやすい場所だ。天界の住人は、ここを龍神の魔力の「門」として利用している。ならば、その門を内側から破壊し、魔力の供給を断つしかない。
「……リナ! カザンさん! ……彼の視界を三秒だけ塞いでください! ……私が、……その喉元の『門』を閉じます!」
「……応よ! ……おい、デカブツ! ……こっちを向きやがれ!」
カザンが槍を旋回させ、激しい火花を散らしてザカリアスの注意を引く。その隙に、リナが眩い閃光魔法を放ち、龍の瞳を眩ませた。
今だ!
枢は地面を蹴り、弾丸のような速さでザカリアスの懐へと飛び込んだ。
往診バッグから抜き放ったのは、白銀の輝きを放つ「星墜鍼」。
「……聖鍼流、天界術――『気舎・断絶の連刺』!」
枢の手が、残像を残すほどの速さで動いた。
一刺し、二刺し、三刺し。
ザカリアスの硬質な鱗の隙間を縫い、枢の鍼が正確に『気舎』へと吸い込まれていく。
直後、ザカリアスの巨躯がビクリと跳ね、その喉から黒い煙が噴き出した。
「……ぐ、……あ、……がぁぁっ……!」
龍の魔力が霧散し、鱗が剥がれ落ちていく。大司教の身体が、急速に人間の姿へと戻ろうとしていた。
だが、その光景を冷ややかに見つめていた男が、静かに右手を挙げた。
「……素晴らしい。……地上人の技術としては、……満点に近い。……だが、……それでは私の『実験』にならないのだよ、枢君」
ミカエルが指を鳴らす。
すると、ザカリアスの背中に埋め込まれていた「魔導管」が突如として発光し、大司教の体内から、彼の生命力を無理やり吸い上げ始めた。
「……な、……何を……! ……ミカエルさん、……あなたは自分の主を殺す気ですか!?」
枢が叫ぶが、ミカエルは銀の眼鏡を指先で押し上げ、淡々と答えた。
「……殺すのではない。……『有効活用』するのだ。……天界医術・秘奥――『生命燃焼・自動修復』。……患者の寿命を燃料として、……肉体を一時的に神の領域まで引き上げる。……これで、……ザカリアス様は死なない最強の駒となる。……まあ、……三十分後には灰になって消えるがね」
ザカリアスの絶叫が、先ほどよりも一層激しく響き渡った。
彼の瞳は完全に白濁し、肉体は不自然なほどに膨張し、全身から黄金の血が噴き出す。それはもはや「治療」ではなく、肉体を極限まで痛めつける「改造」だった。
「……ミカエル、……貴様ぁ……!」
サロメが激昂し、特大の注射器を構えてミカエルに突っ込む。
「……そんなのは医術じゃないわ! ……ただの解体ショーよ!」
「……サロメ君、……君のような感情的な医者は、……天界には不要だ」
ミカエルが放った一本のメスが、サロメの肩を掠め、背後の壁を深く抉った。
「……さあ、……枢君。……第二ラウンドだ。……死を目前にした極限状態の肉体。……あなたは、……これをどう『往診』するのかな?」
黄金の光を纏い、もはや言葉を失った「生ける爆弾」と化した大司教。
枢は、自身の神鍼を強く握り直した。
怒りで手が震える。だが、医者としての翡翠眼は、崩壊していくザカリアスの細胞の悲鳴を、一秒も見逃してはいなかった。
「……ミカエル。……あなたを、……医者とは認めない。……命を弄ぶ者は、……私がこの鍼で、……地獄まで往診して差し上げます!」
枢の全身から、かつてないほどの怒りに燃える「紅蓮の気」が立ち上る。
天界の空が、彼の激情に呼応するように赤く染まり始めた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
筆頭医官ミカエルの、あまりに冷酷な「医術」。
患者の命を燃料にするという、天界の歪んだ技術の極致を前に、枢さんの怒りが爆発します。医者同士の、相容れない信念が激突するシーンは、執筆していても力が入りました。
今回登場した**『気舎』**。
首の付け根にあるこのツボは、喉の不調や、気が詰まったような不快感を解消するのに有効です。枢さんはここを「龍のエネルギーの供給源」と見抜き、ピンポイントで封鎖しました。
次回、第107話は本日**【15:00】**に更新予定です!
燃焼する大司教。
その崩壊を止めるため、枢が選んだのは、自らの生命力を患者に流し込む「禁忌の共鳴」。
そして、ミカエルの背後に潜む「龍神」の真の姿が明かされます。
「ミカエルさん、性格悪すぎて逆に清々しい(笑)」
「枢さん、怒らせちゃいけない人を怒らせたね……!」
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午後の更新も、どうぞお見逃しなく!




