第104話:蒼穹の使者、新たなる往診の予感
おはようございます!
新大陸での激闘を終え、束の間の船旅を楽しむ枢たち。
しかし、平穏な時間は長くは続きませんでした。
突如として海を割り、空から降りてきたのは、巨大な黄金の龍。
そして、龍の背に乗り、枢を「大罪人」と呼ぶ謎の美少女。
舞台は地上から、雲の上に浮かぶ「天界」へ。
聖鍼師の新たな物語、第二部「天界の医術編」がついに開幕します。
日曜日の朝、衝撃の新展開をどうぞ!
新大陸から旧大陸へと向かう巨大な商船「アルテミス号」の甲板は、平和を噛み締める人々の活気に満ちていた。
ヴィクターの「停滞の福音」から解放された商商たちは、再び商売の熱を取り戻し、家族への土産話を語り合っている。枢は船の手すりに寄りかかり、遠ざかっていく聖山アピスの影を静かに見つめていた。
「……枢さん、お疲れですか? 潮風が少し冷たいです。中に入りましょう」
リナが温かい毛布を持って歩み寄る。その隣には、相変わらず槍の手入れを欠かさないカザンの姿があった。
「……ああ。……少し、考え事をしていただけです。……ヴィクターさんが遺した言葉……、そして父さんが見せた、聖鍼流の本当の姿。……私はまだ、……医術の入り口に立ったばかりなのかもしれません」
枢が自身の新しい神鍼を見つめた、その時だった。
それまで穏やかだった海面が、不自然なほどに静まり返った。魚たちは深海へと逃げ惑い、空の雲は急速に渦を巻き、巨大な「龍の巣」を形成し始める。
「……おい、……なんだありゃあ! ……時化の予報なんてなかったはずだぜ!」
カザンが空を仰いで叫ぶ。
次の瞬間、渦巻く雲の中心が黄金色の雷光に引き裂かれ、そこから想像を絶する巨大な「質量」が舞い降りた。
それは、全長数百メートルに及ぶ、翡翠色の鱗を持つ龍だった。
龍は咆哮一つ上げることなく、静かに、だが圧倒的な威圧感を持ってアルテミス号の頭上に停泊した。船上の人々は恐怖のあまり声も出せず、ただその伝説の生き物を仰ぎ見る。
「……聖鍼師・枢。……そして、……禁忌の力を継承せし者たちよ」
龍の角の間に立っていたのは、透き通るような銀髪をなびかせ、白い法衣を纏った一人の少女だった。彼女の瞳は黄金色に輝き、その背中には、天界の住人であることを示す「小さな翼」が羽ばたいている。
「……私は天界の監視者、セラフィ。……聖鍼師・枢。……あなたは地上の摂理を乱し、……本来死ぬべき運命であった数万の魂を……、歪んだ技術で繋ぎ止めた。……その罪を問うため、……あなたを天界へと連行し、……『龍神の裁判』にかけます」
「……罪、ですか。……私はただ、……目の前で苦しむ人を助けただけです。……それが天の法に背くというのなら、……私は喜んでその裁きを受けましょう。……ですが、……罪人としてではなく、……『医者』としてお会いしたい」
枢の堂々たる返答に、少女セラフィは僅かに眉を動かした。
「……屁理屈を。……龍神様の呪いは、……あなたの想像を絶する苦痛。……それでもなお、……天へ昇るというのですか」
「……呪い、という言葉は、……私にとっては『原因不明の病』と同義です。……治せない呪いはありません。……行かせてください。……天界に、……私の鍼を待っている人がいるのなら」
セラフィは無言で手をかざした。
龍の口から放たれた光の波動が、枢たち一行を優しく、だが力強く包み込む。
気がつくと、彼らの足元は船の甲板から、龍の硬い鱗の上へと移っていた。
「……ちょ、……ちょっと待ちなさいよ! ……私も付いていくわよ! ……聖鍼師を一人で行かせたら、……天界の構造なんて誰も解析できないじゃない!」
船の影から飛び出してきたのは、サロメだった。彼女は相変わらずの不敵な笑みを浮かべ、巨大な注射器を龍の鱗に突き刺して強引に登ってきた。
「……サロメさんまで。……ふふ、……賑やかな往診になりそうですね」
枢は苦笑しながら、急速に遠ざかる海面を見下ろした。
龍は雲を突き抜け、青を越えた「紫の空」へと上昇していく。そこには、地上からでは決して見ることのできない、天空に浮かぶ島々と、巨大な龍神の神殿が鎮座していた。
しかし、天界の空気には、枢の翡翠眼でさえも一瞬で曇らせるほどの「濃密な毒」が混じっていた。
それは、天界の住人たちが数千年にわたって蓄積してきた、老いることのない肉体が抱える「魂の腐敗」……。
「……枢さん、……見てください。……あの方たち……」
リナが指差す先、神殿の入り口で枢たちを待っていた天界の騎士たちは、その美しい鎧の隙間から、ドス黒い「鱗」が皮膚を突き破って生え出していた。
「……天界の病、……『龍鱗症』。……永遠の命を持つ代償に、……彼らは内側から龍へと変わり、……自我を失っていく。……枢、……これがあなたの最初の往診対象よ」
セラフィが冷たく告げる。
枢は周囲の騎士たちの脈を診るまでもなく、その異常な気の昂ぶりを察知した。
彼らが狙っているのは、首の付け根にある**『風府』**。
ツボとしての『風府』は、後頭部の中央、髪の生え際にある、まさに「風(邪気)が集まる府(蔵)」だ。天界の住人たちは、このツボから「龍神の気」を過剰に取り込みすぎた結果、人間としてのバランスを崩している。
「……聖鍼流、天界術――『風府・清風の調律』!」
枢は龍から飛び降りると同時に、襲いかかってきた騎士の『風府』へ、神鍼を真一文字に突き立てた。
パキィィィン、という硬質な音が響き、騎士の身体から黒い鱗が剥がれ落ちる。
「……な、……一刺しで……、龍の侵食を止めた……!? ……地上の鍼師が、……これほどの技術を……」
セラフィが驚愕に目を見開く。
枢は立ち上がり、神殿の奥、最も深い闇が渦巻く場所を見据えた。
「……いきなり裁判というのも、……愛想がありません。……まずはこの神殿に蔓延る『龍の風邪』、……私が全て治して差し上げましょう」
聖鍼師の物語、第二部。
舞台は神々の住まう「天空」へ。
龍神の呪いと、永遠の命が招く悲劇。枢の鍼が、天の理さえも書き換えていく。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
ついに始まりました、第二部「天界の医術編」!
船旅から一転、龍に乗って天界へ連行されるという怒涛の展開。新ヒロイン(?)のセラフィや、天界特有の奇病「龍鱗症」など、新しい要素が盛りだくさんです。
今回登場した**『風府』**。
後頭部にあるこのツボは、風邪の初期症状や頭痛に効く場所として有名ですが、枢さんはここを「天界のエネルギーの入り口」と見抜いて処置しました。
次回、第105話は本日**【10:00】**に更新予定です!
天界の騎士団による包囲網。
枢を罪人と決めつける大司教の前に、かつての仲間によく似た「ある男」が現れます。
「日曜朝から龍が登場してテンション上がった!」
「サロメさん、やっぱり付いてきたか(笑)」
と思っていただけましたら、ぜひ**【評価(☆☆☆☆☆)】**やブックマークをよろしくお願いします!
日曜日の6回更新、この後も全力でお届けします!




