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『異世界で「ツボ」を突いたら神と呼ばれた件 〜指一本で魔王も聖女も救い出す、世界唯一の最強聖鍼術〜  作者: 鍼灸師いのぴー
【第二章:鋼鉄の帝国と腐敗の科学】

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第103話:聖鍼の祈り、明日に響く鼓動

お読みいただき、本当にありがとうございます。


聖山アピスの頂上で、ヴィクターさえも飲み込み暴走を始めた「救済システム」。

人々の感情を奪い、死のない静寂へ世界を誘う巨大な怪物に対し、くるるはたった一本の鍼を手に立ち向かいます。


医術とは何か。命とは何か。

聖鍼師・くるるが、過酷な旅の果てに見つけた「真実の治療」が今、放たれます。


本日最後の更新。新大陸編、堂々の完結回。

彼の往診の結末を、どうかその目で見届けてください。

 もはや、聖山アピスの頂に「人間の形」をした者は存在しなかった。

 ヴィクターの肉体を取り込んだ「救済システム」は、神殿の瓦礫や魔導パーツ、そして吸い上げた膨大な魂の粒子を増殖させ、空を覆い尽くすほどの巨大な「肉と鉄の胎児」へと変貌していた。

 その中心から、感情を排した無機質な「声」が、世界中の人々の脳内に直接響き渡る。


『……全人類の意識を、……単一の夢へと統合する。……これにより、……孤独は消え、……不和は絶え、……永遠の安らぎが約束される。……抵抗は不要なり。……これは、……全知の医師が導き出した、……唯一の幸福である』


「……ふざけるな、……そんな死んだような幸せ、……誰も望んじゃいねえんだよ!」

 カザンが咆哮し、槍を構える。しかし、システムから放たれる「虚無の波動」は、触れるもの全ての戦意を奪い、膝を突かせていく。リナの聖なる光も、あまりに巨大な「無」の前に、今にも消えそうな蝋燭の火のように揺れていた。


「……枢さん、……あんなもの、……どうやって治せば……」

 リナの声が震える。

 くるるは、自身の翡翠眼ひすいがんさえも焼き切れんばかりの圧倒的な「負の気」を見つめ、静かに、そして力強く歩み出した。


「……治せます。……リナ、……どんなに巨大に見えても、……あれはヴィクターさんの『悲しみ』が膨れ上がった姿に過ぎません。……どれほど強大な病であっても、……必ず『根』がある。……私には、……あの怪物の鼓動が聞こえます」


 枢は往診バッグから、これまで一度も使わなかった「虚空鍼こくうしん」を取り出した。それは、先代から「使う時は己の命が尽きる時だ」と戒められていた、文字通りくうを穿つ鍼。

 枢は、自身の全身の経絡を、逆流させるのではなく「全開放」した。


「……リナ! カザンさん! サロメさん! ……私に、……最後の『気』を貸してください! ……この世界の、……生きたいと願う全ての人の鼓動を、……私の鍼に集めるんです!」


 枢の叫びに呼応するように、三人が枢の背中に手を置いた。

 サロメの持つ「命の劇薬」、リナの「清浄なる祈り」、カザンの「不屈の闘志」。

 それらが枢という触媒を通じて一つに溶け合い、翡翠色の輝きが天を突き抜ける光柱となった。


「……無駄だ。……システムには、……個人の意志など通用しない」

 巨大な胎児の眼が開き、枢へ向けて「消滅の光線」を放つ。


 だが、枢はその光を避けなかった。

 彼は光の真っ只中を突き進み、怪物の胸元、かつてヴィクターがいたはずの、剥き出しの「核」へと肉薄した。

 そこには、人々の魂が激しく渦巻く中心点……天地の気が狂い、結節けっせつした**『膻中だんちゅう』**があった。


 ツボとしての『膻中』は、胸の真ん中、両乳頭の間に位置し、心の気を司る「宗気そうきの海」と呼ばれる場所だ。喜び、怒り、哀しみ、全ての感情がここに集まり、全身へと送り出される。

 ヴィクターのシステムは、ここを「感情のゴミ捨て場」として封鎖していた。ならば、そこを全開放し、再び感情の風を吹き込ませればいい!


「……聖鍼流、最終奥義――『膻中だんちゅう百華ひゃっかの再誕』!」


 枢が虚空鍼を、怪物の核へと深々と突き立てた。

 その瞬間、枢の身体から、彼がこれまでの旅で救ってきた人々の「笑顔」と「感謝の気」が、数万本の光の鍼となって爆発的に降り注いだ。


 黄金の都エルドラドの民、忘却の森で眠りについた死者たち、ポート・レオンの歌姫エレナ……。

 彼らの「生きたい」という想いが、システムの冷徹な論理を内側から食い破り、凍りついた「魂の濾過器」を粉々に粉砕していく。


「……が、……ぁ、……ぁぁぁぁぁぁ!!」

 胎児の形をしたシステムが、苦悶の叫びを上げた。それは機械の声ではなく、飲み込まれていたヴィクターの、そして新大陸中の人々の、抑え込んでいた「感情」の爆発だった。


 バリバリバリィィィィィン!!


 眩い閃光と共に、聖山アピスの頂が完全に崩壊した。

 爆風の中、枢はシステムから吐き出されたヴィクターの痩せた身体を、必死に掴み取った。


 数分後。

 静寂が、山頂を包み込んだ。

 空には、不自然な魔力の雲は消え、満天の星空が広がっていた。

 枢は、瓦礫の上に座り込み、肩で息をしていた。その手首からは血が流れ、神鍼は役目を終えたかのように、ただの古い鉄の棒へと戻っていた。


「……ふぅ。……往診、……終了……です」


 枢の隣で、ヴィクターがゆっくりと目を開けた。

 その瞳には、もはや賢者の狂気はなく、ただ一人の「傷ついた医者」としての涙が溜まっていた。

「……負けたよ、枢。……君が流し込んだ『感情の熱』に、……私の完璧な計算が……焼き切られた……」


「……計算など、……最初から必要なかったんですよ、ヴィクターさん。……医者は、……ただ隣で、……共に痛みを分かち合えばいい。……それだけで、……人は立ち上がれるんですから」


 ヴィクターは小さく頷き、静かに息を引き取った。だが、その顔は、システムに繋がれていた時よりも、ずっと安らかで、人間らしいものだった。


「……枢さん!」

 リナが駆け寄り、枢を抱きしめた。カザンも、サロメも、傷だらけになりながら、生き残った喜びを分かち合っていた。


 新大陸の空に、本当の夜明けが訪れる。

 人々は、昨日まで失っていた「悲しみ」を思い出し、涙を流した。だが同時に、誰かを愛する「喜び」も取り戻していた。

 聖鍼師・くるるの戦いは、こうして一つの大きな幕を下ろした。


 ――数日後、ポート・レオンの港。

 そこには、再び旧大陸へ向かう船に乗ろうとする枢たちの姿があった。


「……結局、……また旅を続けるんだな、枢」

 カザンが呆れたように笑う。

「……はい。……ヴィクターさんの遺志を継ぐわけではありませんが、……世界にはまだまだ、……私の鍼を待っている『心の病』が溢れていますから」


 サロメは、新しい往診バッグを枢に手渡し、ツンと横を向いた。

「……次に会う時は、……もっとマシな鍼師になってなさいよ。……教本の続き、……ちゃんと書いとくのよ」


「……行こう、枢さん! ……新しい世界が、……私たちを待っています!」

 リナが元気に手を振る。


 船がゆっくりと岸を離れる。

 朝陽を浴びて、枢の翡翠眼が、かつてないほど美しく輝いた。

 その指先には、新しい神鍼が一本。


 聖鍼師の往診は、終わらない。

 命の鼓動がある限り、彼の鍼は、今日も誰かの絶望を「希望」へと変えていく。


(新大陸編・完。……物語は、第二部「天界の医術・龍神の呪い編」へと続く!)

最後までお読みいただき、本当に、本当にありがとうございました……!


ついに新大陸編、完結です!

くるるさんが辿り着いた答え、「医者は共に痛みを分かち合う存在」。

100話を越える長い旅路を、ここまで一緒に歩んでくださった読者の皆様のおかげで、この最高のエンディングを描き切ることができました。


今回登場した最後のツボ、『膻中だんちゅう』。

胸の真ん中にあるここは、現代でもストレスで胸が苦しい時、優しくさするだけで心が軽くなる場所です。枢さんはここに世界中の「想い」を打ち込むことで、冷徹なシステムを打ち破りました。


物語はここで一区切りとなりますが、枢さんの旅はまだまだ終わりません。

次回、第104話(第二部プロローグ)は、日曜日3月8日 8:00に更新予定です!


「新大陸編、最高でした! 感動をありがとう!」

「枢さんの次の冒険も楽しみにしてます!」


もしよろしければ、完結記念に**【評価(☆☆☆☆☆)】**や感想コメントをいただけると、執筆の大きな励みになります!

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