第102話:天上の医神、無垢なる救済の狂気
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父・連から託された想いを胸に、枢たちはついに聖山アピスの頂へと到達します。
そこで待ち受けていたのは、巨大なクリスタルの檻に閉じ込められた、数万人の「魂」でした。
賢者ヴィクターが語る、死も病もない完璧な世界の代償。
それは、人間が人間であるための「心」を差し出すこと。
聖鍼師の誇りを懸けた、最終決戦の幕が上がります。
夕方の更新、熱い展開をどうぞ!
聖山アピスの頂上は、地上とは切り離された、白銀の神殿と化していた。
中心にそびえ立つのは、巨大な逆三角形の魔晶石「魂の濾過器」。そこには、新大陸中から吸い上げられた眩いばかりの気の粒子が、激しい渦を巻いて収束していた。
「……ようやく来たか、枢。……父との再会は、……君の『心』に十分な熱をもたらしてくれたようだな」
神殿の奥、空中に浮かぶ王座に座っていたのは、蛇を模した白磁の仮面を被った男、ヴィクターだった。彼の周囲には、医療器具を思わせる無数の触手状の魔導アームが蠢き、常に彼自身のバイタルを完璧に管理し続けている。
「……ヴィクター! ……この忌々しい機械を止めなさい! ……あなたがやっていることは、救済などではない。……ただの大量殺戮です!」
リナが杖を突き出し、聖なる光を放つ。だが、その光はヴィクターの周囲に展開された「絶対無菌結界」によって、一瞬で中和され、消失した。
「……殺戮? ……言葉が過ぎるよ、お嬢さん。……私はむしろ、……人々に永遠の平穏を与えようとしているのだ。……病、老い、争い、そして死……。……それらは全て、……人間という不完全なシステムが持つ『バグ』に過ぎない。……ならば、……そのバグの温床である『感情』をこのフィルターで取り除き、……純粋な生命活動だけを維持する……。……それこそが、……医術が辿り着くべき最終解答だとは思わないか、枢?」
ヴィクターの冷徹な問いに、枢は静かに神鍼を構えた。
彼の翡翠眼には、ヴィクターの肉体がもはや「生身」ではないことが見えていた。心臓は魔導エンジンに、肺は空気清浄機に、脳の半分は演算チップに置き換わっている。彼は自らを実験台に、人間であることを辞めた「概念としての医師」へと進化していたのだ。
「……ヴィクター。……あなたは、……かつて救えなかった患者たちの苦しみを、……あまりに真面目に受け止めすぎたのですね。……だから、……苦しみそのものを消そうとした。……ですが、……痛みのない世界に、……治癒の喜びはありません。……悲しみのない世界に、……愛する尊さはないのです」
「……感情論か。……失望したよ、枢。……君なら、……私のこの合理性に理解を示してくれると思ったのだがね」
ヴィクターが指を鳴らす。
神殿の床から、かつて枢が戦った「ヘイズ」「ゼノ」「フォルテ」の模造体が、全盛期の魔力を纏って立ち上がった。
「……私の計画の最終段階……『零度の世界』の始まりだ。……君たちがここで朽ちる間に、……この新大陸は、……いかなる苦痛も存在しない、……純白の静寂に包まれることになる」
「……させねえよ! ……お前のような理屈っぽぇ野郎は、……俺の槍で一突きにするのが一番の治療だぜ!」
カザンが咆哮し、模造体の群れへと突っ込んでいく。リナもまた、自らの生命力を削りながら、広範囲の浄化結界を展開した。
だが、枢の狙いは敵の殲滅ではなかった。
彼の視線は、ヴィクターの眉間にある、唯一の「生身のパーツ」……感情の残滓が眠る、脳下垂体付近の急所に固定されていた。
そこにあるのは、『上丹田』。
ツボとしての『上丹田』は、眉間の奥、脳の中心に位置し、人間の「精神の核」と言われる場所だ。ヴィクターはここを機械で制御することで、自身の感情を殺している。ならば、そこを「一刺し」することで、彼の中に眠る「人間としての良心」を強制的に目覚めさせるしかない。
「……サロメさん! ……あのフィルターの回転を、……三秒だけ止めてください! ……その瞬間に、……私はヴィクターの『心』を抉り出します!」
「……三秒!? ……冗談じゃないわよ、……あんな高密度の魔力に触れたら、……私の注射器なんて粉々よ! ……でも……、……やってやるわよ! ……聖鍼師、……あんたに賭けたんだからね!」
サロメが全身の魔力を振り絞り、全壊覚悟の劇薬をフィルターの軸受へと叩き込む。
ギギギィッ! という悲鳴のような音と共に、魂の渦が停止した。
「……今です! ……聖鍼流、真伝・極――『上丹田・紅蓮の覚醒』!」
枢は周囲の攻撃を一切無視し、直線的にヴィクターへと飛んだ。
神鍼が、赤く、熱く、太陽のような輝きを放つ。
それは、父から受け継ぎ、自らの旅で磨き上げた「命の熱量」そのもの。
「……無駄だ。……私のバリアは、……いかなる物理干渉も……」
ヴィクターが防護壁を展開しようとした。だが、枢の鍼は、壁を貫くのではなく、壁を構成する「魔力の波長」に同調し、それを透過した。
パリン、というガラスが割れるような音。
枢の鍼が、ヴィクターの眉間、白磁の仮面を砕いてその奥の「生身の肌」へと到達した。
「……ヴィクター。……思い出してください。……あなたが初めて患者を救い、……その家族から『ありがとう』と言われた時の、……あの胸の震えを!」
鍼から、枢の全生命力が、ヴィクターの「凍りついた脳」へと流れ込む。
ヴィクターの瞳が大きく見開かれ、回路がショートしたかのような火花が散った。
「……ぁ、……あぁ……。……こ、……これは……。……熱い……。……心が、……焼けるように、……痛い……」
機械仕掛けの賢者の目から、一筋の涙が零れ落ちた。
だが、その瞬間。神殿の最深部から、ヴィクター自身さえも制御できない「防衛プログラム」が発動した。
「……警告。……メインフレームに致命的なエラーを確認。……これより、……『不完全な医師』を排除し、……システムが直接救済を代行する」
ヴィクターの身体が、神殿そのものに飲み込まれ、巨大な「肉と機械の塊」へと変貌していく。
真のラスボスは、ヴィクター個人ではなく、彼が生み出してしまった「救済という名の暴走システム」だった。
聖山アピスが、崩壊を始める。
いよいよ次章、第103話、本当の最終決戦。
枢は、システムに飲み込まれたヴィクターを、そして世界を、救い出すことができるのか。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
ヴィクターの仮面が砕け、彼の「人間としての痛み」が露わになった瞬間。
しかし、皮肉にも彼が作った「完璧なシステム」が、生みの親さえも排除して暴走を始めます。
医者が患者を救うために作った薬が、副作用で毒に変わる……そんな医療の恐ろしさを象徴する展開にしました。
今回登場した**『上丹田』**。
「第三の目」とも言われるこの場所は、直感や精神性を司ります。枢さんはここに直接「熱」を流し込むことで、システムに支配されていたヴィクターの精神を無理やり叩き起こしました。
次回、第103話は本日**【21:00】**に更新予定です!
ついに、本当の最後。
巨大化した「救済システム」との決戦。
枢が放つ、全宇宙の経絡を調律する「究極の一刺し」とは。
「ヴィクターの涙に、思わずもらい泣きした……」
「システム暴走とか絶望的すぎる! どうなるの!?」
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本日最後の更新、どうぞお見逃しなく!




