第10話:平和な治療院、早くも廃業の危機?
本日ラストの第10話です!
ここまで一気にお付き合いいただいた皆様、本当にありがとうございます。
平穏な王宮での治療生活に、暗雲が立ち込めます。
枢の持つ「東洋医学の知識」が、魔軍にとっては喉から手が出るほど欲しい「兵器」に見えてしまったようで……。
鍼灸師としてのプライドをかけた、枢の決断にご注目ください。
王女セレスティアラが、上気した顔で名残惜しそうに去っていった後。
枢は一息つく間もなく、開け放たれた窓の外に視線を投げた。月明かりに照らされた王宮の裏庭、その揺れる木の葉の影に、不自然な「気の淀み」を感じたからだ。
「……隠れていないで、出てきたらどうです。ザドゥ」
沈黙が数秒続いた後、茂みがガサリと揺れ、漆黒の装束に身を包んだザドゥが姿を現した。昨日の「四十肩」の治療で動きが軽くなったはずの彼は、今、かつてないほど苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「……気づいていたか。いや、感服している場合ではないのだ、枢殿」
「今度はどなたの肩が凝りましたか? 予約制だと言ったはずですが、緊急の往診なら深夜料金をいただきますよ」
「笑い事ではない! 我が『影狼部隊』が貴殿に治療を受けたことが、魔王軍本隊に露見した!」
枢が鍼ケースを磨く手を止めた。部屋の温度が数度下がったかのような錯覚。ザドゥの額からは、嫌な汗が流れている。
「……それは、私に暗殺者が送られるということですか?」
「いや、逆だ。最悪の逆だ。魔王軍の幹部――『剛腕のギルガ』が、貴殿の腕に興味を持たれた」
その名を聞いた瞬間、枢の【翡翠眼】が周囲の魔力を感知した。遠く地平線の向こうから、どす黒く、暴力的なまでの魔力のプレッシャーが王宮に向かって押し寄せている。
剛腕のギルガ。かつて一国を一夜で灰にしたとされる、魔王軍の武闘派筆頭。
「ギルガ様は、自身の限界を超える力を求めておられる。……人族に、生命エネルギーの源泉である**『経絡』を強制的に開放し、肉体のリミッターを外す『禁忌のツボ』**を突ける者がいるという噂を聞き、力ずくでも連れてこいと、大軍を動かしたのだ!」
枢は静かに、手元にある銀鍼を見つめた。
「……なるほど。生命力の貯蔵庫である『精』を無理やり燃やし、魔力に変換させる。いわば命を前借りするドーピングですか。邪道ですね。そんなことをすれば、術者の筋肉はズタズタになり、最後は廃人になる」
「そんな理屈が通る相手ではない! 明朝には、軍の先遣隊がこの王宮の門を叩き割るだろう。……枢殿、今すぐ逃げろ。我らが逃走を支援する!」
しかし、枢は動じなかった。彼はゆっくりと立ち上がると、ザドゥから譲り受けた『月光銀草』製の銀鍼を光にかざし、布で丁寧に拭い始める。
「……困りましたね。私は予約のない患者は診ない主義ですが。……無理やり押し入ってくるというなら、相応の『劇薬』をお見舞いするまでです。ツボは、生かすためだけにあるのではありません。『経』の流れを逆転させ、気の暴走を誘発させれば、最強の戦士とて指一本動かせぬ抜け殻になる」
枢の瞳が、これまでにない鋭い光を放つ。
「ザドゥ。明日、門の前で待つように伝えておきなさい。……私の鍼は、どんな暴君でも大人しく寝かしつけてみせますよ」
夜の帳の向こう、地平線を揺らす軍靴の音が、刻一刻と近づいていた。
本日の一挙5本投稿、完走いたしました!
最後まで読んでくださり、本当に、本当にありがとうございました。
魔王軍幹部の影が忍び寄る中、枢は自らの鍼を研ぎ澄ませます。
「ツボは生かすためだけにあるのではない」
その言葉の真意とは……?
「一気に読んでしまった!」「続きが気になる!」
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