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強化プラン:授業は真面目に受けようね!

「各自位置についたね。じゃあ斥候学科の訓練を始めるよ」


 斥候学科の教官、ゼイナ=ガルディアーノはしゃがれた声で生徒達にそう言った。

 白髪頭の下の鋭い眼光は、杖をついた老婆とは思えない威圧感を放っている。


 生徒達は訓練用人形を相手に、ダガーで急所を狙う訓練を行う。


 他の部分とわずかに色味や質感、時には臭いなどが異なる部位がランダムに切り替わる、シェオル冒険者学校特製の訓練用人形だ。

 シェオル冒険者学校は他ではレアな、こういった訓練用の特殊な器具や星石を多数所有していて、それが学校に入る大きなインセンティブとなっている。


 さて、この授業では訓練用人形の違和感に気づきすかさず狙うことが求められる。敵の弱点やダンジョンのトラップを看破するために斥候学科にとって重要な感覚を鍛え、またよく使われる短剣の扱いに習熟することも同時に狙うという斥候学科で最もよく行われる訓練。


 訓練用人形とにらめっこして、弱点を探す生徒の中に、俺もいた。

 ――そうだ、俺が選んだのは斥候学科。ここで身につけられるスキルの中に、いいものがあるんだ。


 そのために、訓練用人形の急所を狙う訓練を実行していく。


(あ、右脇腹の茶色が濃くなった)


 すかさずダガーで切りつけると正解!というように光り、元に戻る。


(次は…………どこにも違和感ないな……ってことは裏か!)


 背中に回ると、背中の真ん中がでっぱっている。

 次はそこを狙って突き刺すと、また正解を告げる光を放ち、出っ張りがへこんで元に戻った。


 神経使うけど面白い。

 もちろん鍛えるためにこれを選んだけれど、神ゲーの授業を受けているんだから面白いに決まってる。モチベも上がるしいいことだ。


 と、最初は気楽にやっていた。俺以外の生徒も同様のようだった。弱点を見つけるのもさほど難しくないし、変わったことをやるのは面白いと。

 だが、訓練用人形が動き始めて事情が変わった。


 そこまで素早い動きではないが、訓練用人形がこちらから逃げたり、あるいは攻撃を仕掛けてくるような動きを始めたのだ。

 ただのカカシではなく星石を埋め込まれたゴーレムの一種なので動くことも可能、それはいいとして、動かれると弱点を見つけるのが一気に難しくなる。


 このあたりから生徒達の表情が変わった。

 さらに、凹凸や色の濃淡などの異変も、より変化が微かになる。目標を追いかけ、あるいは攻撃をいなしながらそれを看破するのは非常に困難。

 俺も弱点を見逃してミスを連発してしまう。


 ついには授業を受けている生徒の中から、「こんなのわかるかよ! 面倒くせえ!」とダガーを投げ捨てて訓練を放棄するものまででてきた。


 ビシィッ!


「痛って……ぇ!?」


 鋭い音は、教官のゼイナが杖でダガーを投げ捨てた手を叩いた音だった。


「私の空耳……かい? 面倒くせえ……って言葉が聞こえたような気がしたけれどね」


 ゼイナは地に落ちたダガーをつま先で蹴り上げると、回転するダガーを掴みその生徒の喉元につきつける。


「まさか……私の授業で「面倒くせえ」なんて台詞が聞こえるはずがないよね。違うかい? ん? どうだい?」

「い、言ってません! 先生! めちゃくちゃやる気です!」

「得物を手放すということは……こういうことだ。死にたくなければ……死ぬほど訓練しろ。わかったね? ひよっこども」


 ねっとりとダガーを強制的に握らせ、ゼイナは再び生徒の間を歩いて見回る。いや、監視といった方がいいかもな。もう生徒達は無駄口叩かず冷や汗かきながら訓練に集中している。


 さすがゼイナ先生怖い。

 だが素敵だ。俺のことも睨んで欲しい。

 

 なんて言ってる暇はない。

 俺はさらに難易度のあがる斥候学科の訓練に挑んでいく。




「よし、ここまで」


 2時過ぎまでみっちりと訓練をして、ようやく休憩になった。

 体力も集中力もへとへとだ。

 ずっとわずかな異変を探し続けるのは神経が思ったよりずっとすり減る。斥候の道は厳しい。


 この冒険者学校では、2時頃までが授業があり、それ以降は自習となっている。

 入学式で校長が言っていたように、冒険者学校で学ぶ生徒であるとともに、冒険者でもあるので、冒険者としての自由な活動をして実戦から学び成果も出すべしということで、授業はそのくらいで終わるのだった。


 8時からクラスでの座学が始まり、1時間半くらいで座学が終わると学科ごとの実技に移り、それが2時すぎに終わった後は各々の自習。これが基本的なスケジュールである。


 最初はこれくらいの時間なら余裕っしょ!と甘く見てたけどやってみてわかった、ガチでしんどいです。訓練用人形も攻撃するふりだけじゃなく普通に当ててくるからアザだらけになるし。


 昼ご飯に唐揚げパンを食べながら外を見ていると、生徒達が校門から出ていく姿が見えた。もう今日は終わりにするのか、それとも何か町中でやることがあるのか。


 だが俺はまだ帰れない。

 食事をささっと取ると、再びグラウンドに出て斥候学科の訓練場所へと戻った。

 そこでさっきまでの訓練の続きをやる。もちろん、こういう自習もアリだ。

 俺は速く強くなりたいんだから、これがベスト。

 そう、思ったのだが――。




「全っ然、ダメだったー」


 自習の成果はさっぱりだった。

 訓練用人形の動きについていくことも、弱点を見破ることもほとんどできず、時間を費やした割にほとんど伸びている感触がない。


 それもこれも、俺の体力気力が限界だからだ。

 この訓練が体力も神経も使う上に、星石は人間に大きな力を与えると同時にそれに見合う大きな消耗を強いる。このダブルパンチに俺は肉体も精神も疲弊しきって、まともに訓練にならなかった。


 これでは何時間やろうと意味がない。


「対策が必要だ……やっぱり、基礎能力を上げなきゃ始まらないか」


 スキルを覚える前に、まず基礎。

 基礎能力をつけないと、スキルを覚えるための訓練がままならない。

 それに基礎能力が高ければ戦闘でも有利だし、そういう意味でも必要だ。


 レベルアップしなきゃならない。短期間で一気に。大量に。


 そのための方法を思い出せ、俺は知ってるはずだ。周回プレイでサクサク進めた時に俺が何をやったかを、今こそそれをやる時――。


「――そうだ、あのモンスターを狙えば」


 俺は今日の日付を確認する。

 4月8日。

 ということは明日は4月9日。


「完璧なタイミング……。こうなったらやるしかないな、あのモンスター狩り。ってことは……あー……まず必要なものを買わなきゃか。明日の朝まずセントラードで買い物して、そしたら南門を抜けてそこから――」


 


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