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オープニング終了:改変起こらず

「はぁ……はぁ……。ふぅ危なかった。運良くコケてくれなかったら逝ってたよ」


 ローランは柱にもたれかかり、疲れた笑いを浮かべている。


 死にかけた割に軽くない?


 と思ったが、ゲームでも飄々としてて、仲間が慌ててる時でも一人落ち着いてて神経太すぎと言われてたな。ローランはそういうやつだ。


 すぐにローランは立ち上がり「そうだ、剣だ。こんな守護者までいるなら、何かあるだろ。なんだろうなあ」と再度剣へ近づいて行った。


 色々考えたいこともあるが、それよりもなんとか繋いだオープニングのイベントだ、見逃さないようにそちらに集中しよう。


 ローランは台座の剣に手を伸ばす。


 その剣は紫色に妖しく発光していて、光は周期的に脈動している。

 俺が言うのもなんだが、こんな正体不明の怪しい剣に躊躇なく手を伸ばすローランって怖いもの知らずにもほどがあるな。

 やはり物語の主人公になる男は精神構造が人並外れている。さすがだ。


 ローランは剣を掴むと、台座から引き抜いた。


 その瞬間、目を大きく見開き驚愕の表情になる。


 この一瞬にいろんな光景がフラッシュバックしているとよくわかる。

 そして同時に、俺の頭にも過去何周も見た記憶が蘇ってくる。


 咆哮を上げる戦士、山を削り取る魔術師、ドラゴンの心臓を盗む斥候、そして紫色に腐りゆく月。


 十秒に見たない間にそれらの光景をローランは見ている――いや、追体験しているはずだ。


 流れ混む記憶の奔流によろめいたローランの手から剣が離れた。

 だが剣は地面に落ちるのではなく、空中で回転しながらローランの胸へと狙いを定めている。


 次の瞬間、剣がローランの胸を貫いた。


 ――慌てるな、俺は何もクラスメイトを見殺しにしたわけじゃない。

 これが一番重要なんだ。


 ローランを貫いた剣はプリズムの燐光を放ちながら、ローランの体に吸い込まれるように消えていく――立ち上がったローランの胸には一瞬紋章が浮かび消えていった。


「あれ、俺、生きてる? ん~でも何かこれまでと違う気がする。今ならなんでもできる気がしてきた」


 目覚めたな、新たな力に。


 あの剣は古の偉大な存在の力が封印された剣。

 その力は『総べての可能性』。

 これによってローランは、学校で学べる戦士、魔術、斥候、全ての学科、つまり剣技のアーツだろうが攻撃魔術だろうが回復魔術だろうが全てを100%の効率で伸ばすことができる特別な存在になったのだ。


 普通の人間はどれかに適性があって、他はあまり伸びない。

 ローランはその制限を超えた存在になった。


 ゲーム的に言えば、プレイヤーが操作する主人公は好きな能力を好きなだけ伸ばせるってことだな。どの能力を伸ばしてどのアビリティを身につけるか、あるいはバランスよく鍛えるか? これを考えるのが楽しいので、この主人公の覚醒はゲームとしても最重要イベントってわけ。

 言うまでもなくストーリーにも深く関わってくる。ま、今全てを先取りしちゃうのも野暮というものだし、この瞬間を純粋に楽しもう。


「そーいやステラのこと忘れてたね。ちっとは心配してるかぁ、そろそろ帰らなきゃまっじーか……お、ちょうどいいところに抜け道っぽいのが」


 おっと、ローランが帰り道――俺が先回りしたあの横道――を見つけたな?

 俺は道を知ってるから逆走に使わせてもらったけど。


 新たな力に目覚めたローランは、横穴を進み戻っていった。

 あとはステラと合流し、洞窟を出て入学初日、オープニングは終了する。


 俺もあとをつけていくと、


「お、繋がってた。ただいま」

「……ローラン!? うわーん、よかったああああ!」


 ローランが何食わぬ顔で戻ってくると、穴の側でべそをかいていたステラはくしゃくしゃの顔で駆け寄っていった。


 俺はそれを横穴の隙間からそっと見守る。


(いい……めちゃ心配して、キャラ崩れながら無事を喜ぶステラがいいんだよな。それと対比してローランはしれっと戻ってきてしれっとした顔してるのも)


 やはりメインヒロインと主人公の組み合わせは最高だ。

 俺がヒロインと一緒に過ごすという誘惑に乗っていればこの美しい展開はなかったのだから、原作を尊重しステラの誘いを断ったことはいい判断だった。

 やはり原作展開こそが至高。自分自身の目で見てより確信が深まったね。


 少したつと、ローランとステラは洞窟の出口へと向かっていった。

 これにて一安心、と俺はようやく人目を憚らず物陰から出ることができた。


「ふうううううーーーーーっ、冷や冷やした」


 主人公が最初のボス戦でお亡くなりになって原作終了なんて洒落にならないっての。

 原作を守るどころか原作の99%が打ち切りで終わるところだった。


 なんとか最悪の事態は防げて、原作を見守りに来ててよかったよホント。

 主人公敗北後のifストーリーというオリジナル展開になるところを、ちゃんと原作の流れに戻すことができた。


 理想は俺が何もせず原作再現できることだったけれど、しかしああなってはしかたない。

 ローランは俺の介入を知るよしもなく魔剣を取り込み、ステラの元へ戻り、つまりイベントはヴァイオレット・フェイトで俺が見た通りに進んだのだから良しとしよう。


「……しかし、こうなるとこの先も心配だな」


 俺は余計な手を加えなければ原作通りにこの世界は進むと簡単に考えていた。

 だがそれが間違いだということにさっき気付かされた。


 俺がゲームをプレイした時は、ゲームオーバーに何度もなりながらセーブからリトライして敵を倒しストーリーを進めていた、それをこの世界の現実の人物は当然できない。

 ということは、ローランとその仲間は、この先のほとんどのボスにやられるってことになる。初見で倒せたことなんて滅多になかったからな。


 やられたらもう原作展開はそこで終わりifストーリーが始まる。

 アニメ化や映画化で主人公死亡からのオリジナル展開なんてやったら、界隈大荒れ大炎上必至、絶対あかんやつ。


 そうならないようにサポートできるのは俺。

 この世界を知り尽くしている俺だけだ。


「俺が! この世界を! 正しく導く!」


 それが原作を愛する者の務め。

 きっと、俺がこの世界に転生したのはそのためだったんだ。


 俺は決意とともに、オープニングを無事終わらせた。




 だがこの時は俺はまだ本当の意味では理解していなかった。

 この物語の原作に忠実にするということが、何を意味するかということを――。


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