完全初見一発プレイ
(よし、来た!)
見事な落ちっぷりだったな。
ここで落ちた先が未発見のルートで、その先に魔剣がある。
そこを見逃さないようにローランが剣を見つける前に俺も行かなければ……っ!?
動こうとした俺の足はしかし止まった。
「ローラン!? 嘘……ですよね!? ど、どうしたら……え、私はどうしたら……あ……ああ……」
穴の側でステラがへたり込んでいた。
泣きそうな顔で穴の奥を見つめたまま「どうしよう……誰か……どうしよう……」と呟いている。
(……穴の上ではこんな風だったのか)
俺がゲームをプレイしていた時は、当然主人公のローランを操作していたので取り残されたステラの様子を見ることはできなかった。
さっきまでのしっかり者の感じが雲散霧消し狼狽しきっている、あの時の裏側がこうなっていたとは、貴重な姿を見れたな。これも実際にこの世界に来られた賜物だ。
だが俺は主人公を追うとしよう。
ステラの泣きそうな顔を見ると優しい言葉をかけたくなってしまうところだが、そんなことをすれば後に主人公と合流したとき俺のことが話題に出る見込みが濃厚。そんな会話は原作になかったのだから、励ますわけにはいかない。
後ろ髪は引かれるが、ここは堪えて俺は洞窟を少し引き返した。
そして周囲の岩の壁をよく見ると、岩と岩が重なる目立たない隙間に、知らなきゃまず気付かないであろう裂け目が見つかる。
体をねじりこむとその先は広がっていて、人一人がゆうに通れる横穴になっている。
ダンジョンの隠し通路も完全一致だな、高揚させてくれるね。
ここは穴に落ちた主人公が帰ってくる時に使う道だ。そっち側からなら苦も無く気付くようになっている。俺はそこを逆走していく。
急がないと、とろとろやってると主人公が洞窟の奥にたどりつきイベントが始まってしまう。原作の重要イベントを見るためには、主人公より先に最奥に到達しなければ。
だがそんな俺の前にロームマッシュが立ちはだかった。
モンスターと戦える!と喜ぶ気持ちと急いでる時に!と苛立つ気持ちがせめぎあい、俺は持ってきたブロードソードを抜いていた。
ロームマッシュが頭の傘を振り回して攻撃してくるのを避けながら、剣で数回切って余裕の撃破。こっちは序盤雑魚の行動パターンくらいお見通しなんだよ。
さらに倒せるまでに必要な攻撃回数から判断すると、俺、つまりオードの現時点での強さは、原作でのプレイヤー初期ステータスとおおよそ同じくらいのようだ。
プレイヤーとしてこれまでやってきた感覚と同じようにやれるのはいいね。何事においても計りやすい。
それに実際にモンスターと戦うワクワク感と倒した時の達成感、モンスターの動きを間近で見られたこと、どれも良かった……っと、浸ってる場合じゃない、ロスした時間を取り戻さなきゃ。
洞窟の中をいっそう速く駆け抜けると、狭くて体をあちこち引っかけて切ってしまうが、気にしている場合じゃない。これも原作のためなんだ。
急ぎ急ぎ急ぎついに、穴の通路の先に紫の光が溢れる巨大な空洞を見つけた。
「これだ! ローランも……まだ来てないな、よし」
暗闇の下り坂を降りきった先の空洞、そこは明らかに人工的な、無数の太く丸みを帯びた石柱が不規則に生え、高い天井を支えている大きなホールのような場所だった。
すぐさま石柱の中の一本に身を隠すと直後に、
「なんだこの光は?」
きょろきょろしながらローランも空洞の中に入ってきた。
(ふう、ぎりぎり間に合ったな)
さあ、長いオープニングもこれで最後だ、じっくり楽しませてもらおう。
「剣かよあれ? 剣が光ってる?」
ローランは空洞の奥へと歩を進めていく。空洞の奥には不自然なほど白い台座があり、そこには一振りの剣が刺さり、紫色の怪しい光を放っている。
「なんだか変わった剣だなあ。これはなんなんだ?」
ローランはその剣に近づいて行き柄に手をかける――。
寸前、背後で轟音が響き振り返った。
「なんだこいつ!? まあいいさ、やってやる!」
轟音の源は巨大な石人形、ジャッジメントゴーレムだった。
地面に埋まり石床の一部となっていたのが、剣に近付く者を感知し、裁きを与えるために起き上がった。
その狙いは、もちろんローランだ。
こいつはヴァイオレット・フェイト最初のボスモンスター。
オープニングイベントで行くダンジョンの最奥に何かを守っている最初のボスがいる。こういうのでいいんだよ。
さあ、生で見せてもらおうか主人公最初のボス戦を!
ローランは剣を抜くとジャッジメントゴーレムに斬りかかった。
ゴーレムは反撃に腕を振り回し、ローランに痛打を与える。
ローランも負けじとゴーレムの胸を剣で切りつけるがダメージは少ない。
ゴーレムは右腕、左腕、両腕叩きつけの三連撃をして、ローランに大ダメージを与える。
ローランはゴーレムの腕を切るが、ダメージは少ない。
(違う、狙うのは背中のコアだ!)
ゴーレムは見た目通り硬いボスだが、弱点もある。
俺の位置からだと、ゴーレムの背中に埋め込まれた青い宝石が良く見えるがそれだ。
あの弱点を狙えば一気に大ダメージを与えられる上にダウンも取って隙も作れる。ゴーレム系のモンスターを戦う時の鉄板だ。
(あの右腕左腕両腕叩きつけの三連撃がよくある攻撃パターンだから、初撃を回避したあとに右腕側から回り込んで背中を攻撃すればいいんだって!)
しかしローランに俺の心の声は届かず、ゴーレムに通りの悪い攻撃を続け、ゴーレムの連撃を回避し損ね続けている。
「っくそ!」と吐き捨てるローランの服は破れ、体には傷が増え、動きが鈍ってきている。
劣勢、それもこのまま行けば確実に負ける大劣勢だ。
(なんでだ?)
なんでローランは負けそうになってるんだ?
ここはゴーレムを倒して魔剣を手にするのが原作通りだろ?
なぜずれが生じる? 俺はただ見てるだけで何もしていないのに。
他に何か変なことが起きてるのか?
いったい何が?
「………………っ! おい……おい、まさかっ!?」
なんてことだ、俺は忘れていた!!!
俺は確かにゲームであのボスを何度も倒している。
攻撃パターンも弱点も知り尽くして、ノーダメージで倒せるくらいだ。
だが……『初見プレイ時は負けてゲームオーバー』になったんだった。
ヴァイオレット・フェイトが好きすぎて周回プレイを繰り返しまくったせいで、ボスの行動パターンも弱点も全部把握してるから忘れてたけど、初見の時は普通に苦戦したし、ボスと戦うたびに何度もやられた。
ヴァイオレット・フェイトって難易度は結構高いんだよ。
高難易度だが理不尽ではなく、何度もリトライし戦術を練れば必ず勝てるという絶妙な調整でやりがいがあって面白い、それもまた魅力のうちだった。
だが……だが、今この世界は現実だ。
死んだらセーブポイントからリトライなんてできない。
つまり、完全初見一発プレイで全てのボスを倒さなきゃ詰みなんだ。
「絶対無理だ」
そんなことは不可能だ、初見プレイではエンディングまでに何十回ゲームオーバーになったかわからない。
ということはつまり、原作主人公でありこの世界初見のローランも何十回もやられるってことになる。
もちろんその場合リトライはなく、ローランが死亡した状態で世界は進み続ける。
当然、以降の原作再現は全て不可能になってしまう。
そうなれば俺のこの世界での人生も真っ暗闇だ。
クソッどうすればいい?
勝たなきゃ原作終了のお知らせだ。
じゃあ俺が手助けに入るか? いやそれはそれで、俺がローランを救ってしまいこのイベントがおかしなことになる。
だがローランがここで死んでしまったら、この後の全ての原作が改変されてしまう。
どうすればいい? いったいどうすれば!
「…………これしかないか」
俺はローランに見つからないように、こっそりと柱の間を移動していく。
そしてローランから見られずにゴーレムの裏を狙える位置に来た。
気付かれないように…………ゴーレムが三連撃をして、ローランがそれへの対処に気を取られている! 今だ!
その瞬間、俺は柱から出て剣を振りあげた。
ストームストライク!
道場で今朝使ってみたアーツ。
衝撃波を飛ばすこれなら遠距離攻撃が可能!
狙いはもちろん、ゴーレムの背中だ!
家から持ってきていたブロードソードを振り下ろしアーツを発動すると、衝撃波が飛んでいく。
衝撃波はゴーレムの背中の青い宝石を直撃した。
ゴーレムの体が硬直し、膝をついた。
そのまま重たい音をたてながら前のめりに倒れる。
よし、このアーツじゃダメージはそんなに入ってないとは思うが、弱点をついてダウンは奪えた。これで隙ができたし、それに……。
「バランスを崩したのか!? ラッキーぃ! ……それにこれはもしかして!」
ゴーレムが背中を晒したことで、宝玉の存在にローランが気付いた。
ダウンから復帰するより早く、剣を振り上げ宝石に思い切り振り下ろす。
ピし……ピき……とヒビが入る音。
微かな間を置き、ガラスが割れるような音とともに、宝玉が砕け散り、ゴーレムの体はガラガラと崩れただの十数個のブロックの塊になった。




