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潜在解放

 シェオルの石版の中央の月に手を触れると、その周りに小さな○が複数個灯る。戦士領域に1つ、斥候領域に10個の合計11個。

 最初に『道具性能アップ』を取ると1個○が暗くなった。

 『道具性能アップ』の情報を読み取ると、可能性の芽が一葉必要とあるので、なるほどこの○が俺の中の可能性の芽の量を可視化しているようだ。


 他に俺が取っていくスキルでは、『丁寧な採集』は1葉、『装備性能アップ』は2葉が必要だった。


 そして『潜在解放』は、なんと6葉必要だった。

 だから……。


「『潜在解放』? まさかあんた、もうそんなスキルを身に着けたのかい」


 斥候学科の教官、ゼイナはほとんど表情は変えなかったが、しかし声色だけは意外そうにそう言った。

 必要な可能性の芽の量を考えたら、この鉄面皮の教官が驚くのも無理はない。


 ゼイナを見つけたのは教員室ではなく用具庫。

 そこで授業に使う訓練用武具や故障中の人形の調整などを行っているところに、声をかけ、『潜在解放』で武器の力を解放する効率的な方法を俺は尋ねたのだった。


「はい! ギリギリでしたけど」

「まだ一月も経ってないのにそれほどの力の萌芽を? ふん……」


 グラウンドの隅にある用具庫には、開け放したドアからほこりっぽい風が入ってくる。

 最近雨が降ってないから、グラウンドもパサパサで訓練中も目に砂が入るんだよな。


「オード=ハイドは授業の後も只管訓練を行っていたね、なるほどその成果が出たというわけか」

「あ、知ってたんですか?」

「斥候学科の教官をなんだと思っているんだい?」


 じろりとゼイナの三白眼が俺を射すくめる。

 こっわ~。昔の上司に詰められてた時を思い出すよ、せっかくこの世界にいるのに。


「しかし……おかしな生徒だね、ダンジョンにも演習林にも行かず、他の学科もやらずにひたすら斥候学科の訓練をし続けるなんて。何か『意図』があるみたいだ」


 ゼイナの眼光が鋭さを増す。


「え、い、いや、目的はもちろんあります、強くなるっていう目的が。でも、ただ強いだけじゃなくて、武器防具が好きなんですよ、俺って。だからトレジャーハンター方面で強くなりたいなって。そのためには戦士学科や魔術学科より多く鍛えなきゃだめじゃないですか? ほら、スキル的に戦闘向きじゃないし」


 や、やばい。まさか俺が転生者だと勘づかれた?

 いやそんなわけない、そんな突拍子もない発想が浮かぶはずない。

 何か変だな、程度のはずだ。


 でも今の俺の台詞言い訳っぽすぎたか?

 語りすぎて逆に怪しいか?

 うわー、睨んでないで何か言ってくれ。


「ふん……なかなかいい趣味してるじゃないか。いいだろう、毎日呆れるほど訓練していたことだしね」

「あ、ありがとうございます!」


 ゼイナの眼光が穏やかな光になり、口元が微かに緩んだ。

 ふーっ……なんとか疑われずに済んだ。


 それから俺はゼイナに潜在解放の鍛え方を教えてもらった。

 接触時間。まずはこれが重要らしい。また同じ接触の仕方をしているだけでは理解度が落ちる=いろんなことをしなきゃいけないらしい。


 つまり、敵を切ったり、素振りをしたり、硬いものを斬ったり、林檎の皮を剥くような繊細な作業をしたり、手に取って瞑想したり……そうすることで深度が深まる。


 これは俺が知らない情報だった。

 ヴァイオレット・フェイトは神ゲーだが、林檎の皮を剥くことはできなかったからな。

 装備してる時間と、そして専ら敵を倒した数で解放されていくようになっていた。


 せっかく新情報を聞いたんだ、早速試してみよう。

 ダッシュでハイド家の屋敷に帰った俺は、部屋の中から剣を引っ張り出した。

 黒獅子道場では真剣を使った訓練で使うこともあり、このブロードソードを俺は使っている。

 ごく普通のブロードソードだが、武器はブロードソードに始まりブロードソードに終わるとも言われる。


 その剣を手にとり、果物の皮を剥いてみた。林檎の皮を剥いて……って、難しいわ! 剣で皮剥きっておかしいだろ!

 結局皮と一緒に実もたっぷり削れてしまった。もったいないのでそれも食べるけどな。

 それが終わったら、ちゃんと剣の掃除をして(掃除も接触の一形態だ)、両手の上に乗せて瞑想し、枕元において添い寝した。


 翌日も朝から学校があったが、授業中も剣を腰に差したまま受けて、実技もこのブロードソードを使ってやった。

 これで着々と解放ゲージが溜まってるんだろうか。

 もちろん目に見えないので不安になるが、歴戦のゼイナ先生のことを信じよう。


 そして、モンスターを倒してもそれは近付くはずなので、俺はついに、入学式以来のダンジョンへと向かった。

 演習林の中にある手近で難易度が低めのダンジョンならば強いモンスターはいないので、そこでモンスターを倒していく。

 そして十数匹倒すと――。


 剣が手の中で振動した。

 それはまるで歓喜に震えているようで、ブロードソードの潜在解放――その記憶が脳内に流れ混んできた。


◆峰打ち

 打ち込む一瞬、刃が棒のようになり斬撃ではなく打撃を繰り出せる。


 なるほど、ゴーレムみたいなカチカチなモンスターは斬撃より打撃の方が通りやすい。そんなモンスター相手に剣で相対するのは難しいが、この『峰打ち』を使えば有効打を与えられるってわけだ。

 単純に強いというよりは汎用性をあげるスキルだな。


「なかなか便利そうなスキルだ、そして……相当に早かった。ゲームだともっとずっと多くのモンスターを倒さなきゃ解放できなかったのに。林檎の皮むきの成果……かな」


 この世界にいるからこそできる『日常全てを武器と連動させる』という成長方法。

 そして俺がゲームを通じて得た『モンスターの数を倒すほど解放される』という記憶。

 両方を使うことによって、俺自身初めて体験するスピードで武器の性能を解放することができた。


「これならいける……必ず間に合う、4月30日のルナティックにも」


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