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石板という名のスキルツリー

 ここで一度シェオル冒険者学校の位置関係について整理しておこう。


 シェオル冒険者学校は、セントラードの町の東の端にある。

 大通りを西から歩いて校門をくぐると、白壁の校舎が二つあり、校舎の奥にはグラウンド、そのさらに奥には演習林――つまりはセントラードの東に広がる天然の森があり、森をさらに東にずっと進むと山がある。


 校舎のうちの片方が教室や教員室などよく使う部屋があるもので(1年生の教室は2年生の教室より上の階にあるので、階段の上り下りがやや面倒くさい)、もう片方は倉庫や実験室や特殊訓練室など特別教室がある特別校舎となっている。


 グラウンドはいくつかに区切られていて、戦士学科、魔術学科、斥候学科がそれぞれの区域で訓練をし、それぞれが使う訓練用人形がグラウンドに並んでいる。これが校舎の窓から見ると特に夕方や夜は結構不気味な景色なんだよな。


 最後に講堂。

 ここは入学式を行った場所だ。他にも式や全校集会はここで行う。

 だがその講堂にはもう一つ、重要なものが設置されている。


 講堂の裏から入る小部屋。

 入り口は生徒と教職員のもつ身分証に反応する魔力鍵がかかっていて、関係者以外入れない。窓のないその小部屋には、ただ一つ、巨大な石板だけが安置されている。


 この巨大な石の塊が、シェオル冒険者学校で最も重要なものであり、これこそがシェオル冒険者学校に入学する一番のメリットとも言われている。


 幅1m、高さ2mほどもある巨大な石板は、三つの石を組み合わせて長方形を作ったような形をしていて、真ん中には満月に似た模様がある。


 石板の真ん中の月に手を触れると、そこから枝分かれする樹形図のような紋様が浮き上がってきた。


 なるほどヴァイオレット・フェイトのスキルツリーと同じだ。


 かつてこの世界に存在した偉大なる統治者『総べての王、シェオル』。

 シェオルは自らの力を継ぐ者を育てるために学び舎を建て、人々のうちに眠る力を目覚めさせる秘儀を遺した。


 それがこのシェオルの石板であり、シェオル冒険者学校の原型。

 学び舎は時代によって騎士学校やギムナジアムなど姿を変えてきたが、根本の理念は変わらず、今は冒険者学校となっている。


 総べての王、シェオルは、この石版に記された全ての力を持っていたと言われている。その力は星の記憶として今でも遺り、巨大な星石を削り出し作られたこの石版を通じて、自らの力とすることができる。


「身も蓋もない言い方をしてしまうと、ゲームではスキルポイントを振って新たなスキルを覚えられるってシステムだった。この世界でも同じような仕組みになってるはずだ」


 石版の三つに分かれた領域はそれぞれ、戦士系スキル、魔術系スキル、斥候系スキルとなっていて、つまりこの学校で学べる学科に対応している。

 スキルポイントはこれらの学科ごとに分かれていて、それぞれの分野の訓練を重ねることで得ることができて、対応した領域のスキルを身に着けることができる。


 ここまで話せばわかるだろう。

 俺が斥候学科ばかりしているのは、その領域に強力なスキルがあるからだ。


 斥候タイプは直接的な攻撃スキルや回復スキルはあまりなく、暗殺、隠密、探索、道具活用、そういったことに長けた学科だが実は隠れた強スキルがある。


 手のひらを中央に触れたことで石板に刻まれた樹形図が光っていく。

 三つに分かれた領域にそれぞれ樹形図があり、石版にびっしりと刻まれているが、光っているのはその一部だ。


 つまるところ、今俺が持っているスキルポイント――今の世界では学校の座学で、可能性の芽と呼ばれていた――で取得可能なところまでが光っている。


 斥候学科の緑の光は樹形図の3割くらいまでで、戦士学科の赤い光は1割未満。魔術学科の青は全然光っていない。斥候学科の訓練ばかりしていたのが露骨に現われている。

 うちの学校の実技訓練は、この可能性の芽を得るためにやっていることなのだ。各々の学科の訓練をやることでその分野の可能性が芽生え、それを『石版』でスキルという具体的な力にする。

 それが、シェオル冒険者学校で学ぶと普通よりずっと効率的に強くなれる理由であり、ただ冒険者をやるのではなく学校で学ぶ一番の理由なのだ。


 当然のことだが、3割まで光っているからといって全スキルの3割を覚えられるってわけじゃない。つまるところスキルツリーは途中で枝分かれしているので、枝に脇目も振らず真っ直ぐ進んだときに3割まで進めるということだ。枝分かれした部分のスキルをたくさん取れば、もちろんそこで可能性の芽を消費する。


 これだけ伸びるとは、どうやらオードは斥候学科に適性があるようだな。

 斥候学科の適正がなくスキルを全然取れないという最悪の事態は免れて良かった。


 そして俺の目当てのスキルは斥候スキルツリーのちょうど序盤から中盤にあったと記憶してるが…………。


「よし! ギリギリ届いてる『潜在解放』!」


 ツリーの光っている部分のちょうど最先端にそのスキルはあった。

 ツリーの節々にある星型のジェムに指を触れると、そのスキルの情報、記憶が頭に流れ混んでくる。


◆潜在解放

 武具を使い込むことでその内に眠る秘められた力を解放する。

 使い込むほど深き力を解放する。


 盗賊学科のスキルツリーは、根元からさらに三つの大幹に分かれている。


・シーフ 忍び足や緊急回避、トラップ解除などの身を隠し安全に探索するためのスキル

・アサシン 毒を扱う、急所を狙う、など裏の手段で敵を葬るスキル

・トレジャーハンター アイテムの知識を得る、アイテムの性能を引き出す、鉱石や薬草などを無駄なく採集する、などアイテムに関するスキル


 この三つの主要部に分かれていて、それぞれの幹や枝にある星形のジェムにスキルの力が秘められている。


 この中のトレジャーハンターツリーの前半に『潜在解放』はある。

 枝わかれしたところのスキルを取る余裕はないが、幹の途中にある『道具性能アップ』『丁寧な採集』『装備性能アップ』は取ることができた(というか取らなきゃ先のスキルが取れないので取るしかない)。

 これらの効果は名前通りだ。地味だが堅実にバフがかかる、こういうスキルは腐らないのでどれだけ取ってもいいんですよね。


 で、装備性能アップから枝分かれしたところに『潜在解放』のジェムがある。

 これは脇道にそれる上に必要なスキルポイントが多いので、取るのに躊躇するが、しかしうまくやると非常に強力なスキルだ。


 4月30日を乗り越えるために、このスキルが欲しかった。

 そのために寝る間も惜しんで手を潰れた血豆で赤く染めながら、ダガーを振るっていたんだ。


「こっちもなんとか間に合ったな。だがこれだけじゃまだ足りない。スキルの力を使いこなさなければ」


 これはちょっとコツがいるスキルなんだ。

 だがその分強力、使いこなせばきっと原作を遂行できる。


「そのためにはやっぱり、生徒らしく先生に教えを請おうじゃないか」





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