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ローランとステラ

 原作を完遂するためには、激重タスクをこなせないことが明らかになった。

 ちょっと考えただけでも馬鹿大変だが、それをやらなきゃ原作は改変されてしまう。

 4月30日までに、スタンピードを抑えつつメインキャラクターが全員無事に済むようにできるだけの実力を身につけなければならない。


「俺が生き残る方法を探すより先に、俺自身が激速で成長することからだな。となると、やっぱり今やってるスキル習得を最速で終わらせないと」


 よし、速攻で傷を直して訓練再開だ!




 2日後退院した俺は、早速斥候学科の実技訓練を再開した。

 人形の弱点をつくあの訓練だ。

 日付が変わるまで訓練をやり続けた。病み上がりにはこたえるけど、時間がないからな。とにかく今はハードワークもやむなし。

 最初の壁の4月30日を乗り越えたら休めるんだから、それまでは頑張ろう。


 翌日の授業も斥候学科に参加する。

 やることは昨日と同じ、参加してる生徒は昨日より減ってるかも。

 ゼイナ先生の厳しさのせいだろうな。元々、戦士学科や魔術学科に比べて、戦闘に向かない学科だと思われて人気がないというのに。


 だがそんな中でも俺は斥候学科の訓練のみをひたすら続けた。

 せっかくこの世界に来たのだから色々やりたい気持ちはあるけれど、今はただこれだけをやる。それが、最速最効で強くなる方法だから。


 その翌日もその翌々日も三日目も四日目も五日目もそれを続けていく。

 週末でも訓練はできるので、朝から晩まで訓練訓練訓練に次ぐ訓練に次ぐ訓練。


 そして、瞬く間に4月20日になっていた。


 いつものように斥候学科の実技授業を終えた俺は、自習に備えてその場で食事をとっていた。


 すると。


「やっ、オード。こんなとこで飯食うの?」


 声をかけてきたのは、ローランだった。


 そういえば、今日はローランも斥候学科にいたな。


「ああ。教室に戻るより早く食えるから」

「マジかよどんだけせっかちなんだい! 現代っ子だねえ、オードは」


 大げさに腕を開いてリアクションをとるローランだが、お前も現代っ子だろ。


 しかし、こういう日常会話は気楽で良いな。

 これまでのローランとの絡みと違ってシナリオとは関係ないから、気を使わずに話ができるし。


「せっかちなわけじゃないんだけど。ところでローランが斥候学科に来るなんて珍しいね。初めて見た」

「せっかくだから俺も色々やってみようと思ってさ」

「それはいい心がけだ、せっかく冒険者学校に入ったんだもんな」

「それもあるけど、それだけじゃないんだよ。なんつったらいいかなあ。色んなことができる気がするんだよね、今の俺。変な話だけど、どの学科のスキルでも身に着けられるんじゃないかって。そんな気さえする、いや確信があるんだよ」


 ……なるほど、たしかにローランは主人公だ。


 普通の人間は学科ごとに適正がある。戦士学科は得意で8割のスキルを身に着けられるが、魔術師のスキルは4割しか無理などというように。


 しかしローランは全学科を100%の効率で、全てのスキルを身に着けられる。

 あの魔剣を体に取り込んだ時、その総べての力が宿ったんだ。


 それを本人も本能的に感じてるんだな。


 ところでオードの才能はどうなんだろう?

 父からの評価を見るに剣技の才能はなさそうだが。


 今日あたり『石板』に行ってみるか。ずっと倒れる寸前まで斥候だけやってるし、そろそろ狙いのスキルを習得できてもいい。


「それに俺、色々やってみたくなる性分なんだよね。わかる? 好奇心旺盛ってやつ? 実はさ……大きな声じゃ言えないけど、前も洞窟を探索してたら秘密のすげーもん見つけちゃったし」

「へえ~…………」


 この前のあの洞窟のことか。


「それに学校の中にも結構怪しげなものがあるんだよなあ。鍵穴のない開かずの扉もあったし、あれは絶対的に怪しい。秘蔵の剣でもあるんじゃないかな、見てみたいよなあ」


 ローラン、こいつやっぱり主人公だ。

 特に何も目的なくても色々探索するって完全にゲームの主人公だよ。普通の人間は意味なく校舎を隅々まで探索とかしないから。

 そんなことをするのは通路の行き止まりにアイテムがないとガッカリするゲームプレイヤーくらいだ。

 それをナチュラルにするとはたいした男だ……。


 ――と、主人公に感心していたら。


「開かずの扉? それはいったいなんですか?」


 第三者の声が突然聞こえてきた。

 この声は……。


「ステラ、何そんなに驚いてるんだい?」


 原作ヒロインのステラが黒く長い髪を揺らしながら、小走りで向かって来ている。


「この学校にそんなものがあるのですか?」

「ああ、第二校舎の地下一階の奥にね。何かありそうだと思わない?」

「そこに優れた武器があるかもしれないなら……詳しく話を聞きたいです」

「別にいいけど、そんなに秘密好きだったんだねステラって」

「もちろんです。一流の冒険者になるために、力はいくらあってもありすぎるということはありません」


 さすがステラ、ゲームで話しかけるとだいたい強くなることについて話してたもんな。

 まさにステラって感じのやりとりが見えて感無量だ。


 それにこの世界でも、俺を初日からダンジョンに誘ったし、この学校で俺の次にやる気に満ちている人かもな。


「君も私の仲間ですよね? オード」


 そうそう、君って呼んでくれるんだよね、それが好きだ。

 やっぱり君呼びってイイ。


「あの、聞いていますか? おーい!!」

「あ、ああ。うん、ごめんごめん」


 メインキャラ二人がいるからつい見入ってしまった。

 だけどしかたないよね、神ゲーのキャラが目の前にいるんだからさ。

 しかもこの前と違って影から見るだけじゃなく、俺も一緒に話せるんだから。


「で、仲間だっけ? クラスメイトだからね、もちろん俺たちは仲間だ」


 ステラは額に指を当てて小さく首を横に振った。


「そういうことじゃありません。いえ、そういう意味でももちろん仲間ですけど。……君も力をつけること好きでしょう? 見ましたよ、連日他の人達は帰ったりダンジョンに向かう中、ひたすら訓練を続けている姿を」


 なるほどそういうことか理解した。

 俺が遅くまで残って訓練している様子を見て、力を求めている仲間だと思ったわけか。

 俺の目的はかなり特殊だけど、たしかに力は求めている。


「せっかくこの学校に入学したんだしね。この環境、利用しつくしてやらないと」

「とても良い心がけだと思います……ですが、この手はよくありませんね」


 ステラが俺の手のひらを掴み、翠の瞳でじっと見つめてきた。

 そこにはダガーを降り続けて潰れた血豆があるし、擦れてできた傷もある。


「少し熱心にやりすぎですよ、怪我をしては元も子もありません。『キュアライト』」


 ステラの手に暖かい光が灯り、握っている俺の手も一緒に照らす。

 すると痛みが引き、炎症が治まっていく。


「これが治癒魔術……」


 こんな感触なんだ、暖かくて気持ちいい。

 温泉に手を付けてるみたいだ。


「ええ、私は神聖魔術を深く追求するためにここに来ました。まだ遠い目標ですが、今でもこれくらいのことならできます」

「よかったなオード! 俺もステラと演習林に行ったときに治癒魔術かけてもらったことあるけど面白い感覚だよねえ。まあ頑張ってるのはすげえと思うけど、あんま無理すんなよ、オード。ほら、前、演習林で大ケガしてただろ? それからまだそんなに経ってないし、やりすぎて潰れちゃ意味ないぞ」

「ああ、ありがとうローラン。しっかり休むよ」


 良い奴だなローラン。

 クラスメイトとは言え会話もまだほとんどしてない俺を気にかけてくれるなんて。


「そうです、自己管理も訓練の一環ですからね。ですが、もしまた怪我したらこのステラに遠慮せず言ってください。私にとっても神聖魔術の練習になりますので」


 ステラもだ。オードはクラスメイトに恵まれてるな、それなのに裏切るなんてふてぇ野郎だぜ。


 しかしこの二人は来たる4月30日のイベントで、どちらも強敵と対峙する運命。そして初見プレイではゲームオーバーになった難所。このままでは危険だ。


 必ず二人とも俺が守る。

 友人としても。


 決意を新たにすると、ステラがローランに目を向けた。


「それではローラン行きましょう、演習林に行き実践と未知の洞窟を探すのですよね?」

「ああ、そろそろ行くか。じゃあな、オード!」


 二人は演習林へと向かっていった。

 俺も飯を食い終わったら訓練を……。


「いや、そろそろいいか?」


 あの二人が言っていたとおり訓練に次ぐ訓練をした。

 そろそろあのスキルを覚えられるころかもしれない。


 行ってみよう、シェオル冒険者学校の目玉、『石板』のところに。

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