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原作厨は――

 空が消えたと思った次の瞬間、俺の視界は白い天井に切り替わった。


「……そうか、ここは」


 ゆっくりと首を動かして、シェオル冒険者学校の医務室に自分がいることに気付いた。

 気を失った俺は、ここに運ばれたらしい。


「痛っ!」


 体を起こそうとすると胸の奥が鋭く痛む。

 見ると胸が包帯でぐるぐる巻きにされていた。


 さすがにすぐ治る怪我じゃなかったか。

 しばらくここでゆっくりしよう。


「ねえ! ねえねえ、声聞こえなかった?」

「うん。聞こえた、オードの声」


 ん? カーテンの外から聞き覚えのある声が。


 シャッ!


「やっぱりっ! 目覚ましてる!」

「…………」


 カーテンを開いたのはシキとプラチナだった。


「良かったあ」くしゃっと笑うシキ「心配したんだよオード君。ね、プラチナ」


 プラチナは俺の顔の側に来て、顔を近づけてのぞき込む。

 長い銀髪が首にあたって、く、くすぐったい。


「痛くない?」

「痛いよ、結構」

「………………」


 あ、しゅんとしちゃった。


「いや、痛いは痛いけど、まあ普通に怪我したくらいの痛さだから大丈夫」

「ごめん。私のせい」

「いや、プラチナのせいじゃないよ」

「……私の名前、覚えててくれたんだ。私たちも覚えた、オードのこと」


 あ、ちょっと元気出た顔になった……って、待てよ名前で呼ばれてるじゃないか。ついに覚えてもらえたのか! 道具屋でのときとは違う!

 ああ……俺がヴァイオレット・フェイトのプラチナとシキに名前を呼んでもらえた……。


 と感極まっていると、なぜかシキが俺に対して深く腰を折った。


「本当にありがとね、オード君」

「シキには何もしてないけど」

「プラチナを守ってくれたってことは、私を守ってくれたようなもんなの。だからなんでも言ってね、やってあげるから。あ、お腹空いてない?」

「言われてみれば……ぺこぺこかも」

「だよね、丸二日眠ってたんだから」

「……丸二日!?」

「あはは、驚いてる。そうだよ、魔術のフェリオン先生が回復魔法で治療してくれて応急処置をしてくれて、それから医務室に運んで、定期的に治癒魔法かけてたの」


 そうだったのか、結構重傷だったんだな俺。

 だがまあ、それほどの怪我の割には、治りが早い。動こうとしなければ痛まないし。さすが治癒魔法がある世界は違うぜ。 


「でも足は動くし、飯くらい自分で……」

「だめ。寝てて」


 体を起こした俺の肩を、プラチナが押して強制的に寝かせてきた。

 それならまあ、お言葉に甘えるとしますか。


「何買ってきてあげよう」

「コロッケパンとかでいいんじゃない? 何かある?」

「肉。肉を食べさせる」

「それプラチナが好きなものでしょ」

「きっとオードも好き」


 二人が話しながら俺のために差し入れをなににするか笑顔で盛り上がっている。

 いいねえ、良すぎる景色だねえ。

 やっぱりこの二人のいちゃいちゃ見るのが一番癒やしなんだよな。


 この素晴らしい光景を0距離で見られるなんて、やっぱり原作を守ってよかった。

 原作だけじゃなくこの花園も守れたんだから。

 



「口開けて、オード」


 食べ物を買ってきたプラチナは、俺に食べさせようとフォークに刺したウィンナーを口の前に突き出していた。


「いや、なぜ?」

「私の代わりに怪我した。だから私が代わりに食べさせる」


 なるほどたしかに理屈は通っている……のか?本当に?


 疑問を覚えていると、プラチナの手を押さえる別の手が。


「ダメダメ、それはやりすぎよプラチナ! 私以外にあーんはダメ!」


 シキがプラチナを阻止していた。


「でも、オードは私の代わりに。それに安静にしてた方がいい」

「だったら私がやってあげるから! ほらオード君口開けて」

「……だめ。シキが人にそれするの見たくない」


 二人がお互いに俺に買ってきたコロッケパンやウィンナーを食べさせるのを阻止し合っている。ふふ、嫉妬してるの尊いね。


 でも、そもそもさ。


「俺手は怪我してないから食べられるのだが」




「はぁ……はぁ……苦しい……」


 食べすぎてお腹が苦しい。


 あの後、コロッケパンとステーキとウィンナー盛り合わせと山森のカリカリベーコンを食堂から二人は持ってきて、俺は食べなきゃ傷が回復しないよと監視されていたので頑張ってたらふく食べた。


 肉を食べたら回復するってアクションゲームの世界観じゃないんだから。いくらゲームと同じ異世界だからって、それは無理だ。


 だが味はおいしかったし、栄養を取るにこしたことはない。


「怪我が治るのはさらに二日くらいか」


 治癒の魔法やポーションがあるので元の世界よりは遥かに早く完治するが、しかし魔法を使った瞬間回復とはいかないようだ。

 少し休むしかないな。

 だがちょうどいいか、転生してからというもの激動だったし。


 一人になった医務室で、俺は息をふーっと吐いた。


「原作通りに進めるためとはいえ、怪我をするのはやっぱり痛いな」


 しかも自分から進んで怪我をしに行くのは尚更だが、この先もこういうことはきっとある。イベントで直接的に怪我が確定している場合もあれば、原作通りに物語を薦めるために無茶をしなきゃいけなくなり、結果的に怪我をしてしまう場合も。


「そのためには、しっかり鍛えていかなきゃいけないな」


 俺は原作至上主義だが、しかし俺だって人間だ。痛い目にはあいたくない。原作を歪めない範囲でできる限り安全に無事にやっていきたい。


 だから……………………え?


「え? ちょっと……いや、まじでちょっと待て。この先もこういうイベント……おい! そうだよあるじゃないか! やばいのが!」


 10月、『ヴァイオレット・フェイト』の物語では、セントラードの二大勢力の闘争が始まりこの冒険者学校をも巻き込むことになる。

 そこでオードは主人公達と敵対する勢力につくと以前に言った。


 その血みどろの戦いの中で――オード=ハイドは――死ぬ。


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