守れたから
地竜の黄色い瞳が俺を射すくめた。
咆吼をあげながら鋭く疾走し、前腕を突き出し鋭い爪で俺を引き裂かんとする。
「きゃああああああ!」
ともに行動している同級生達が俺の悲惨な末路を想像して悲鳴を上げる。
だが、地竜の突進の動き出しより先に、俺は全力の回避行動を取っていた。
なぜなら知っていたから。
このイベントで襲われ怪我をして、冒険者学校での生活は安寧なものじゃないと教えるのは『オード=ハイド』の役割だということを俺は知っていたから、反射的に命を守るための行動を俺の体はとっていた。
凶悪な地竜の爪は制服をかすめただけで、かわした俺のすぐ脇を通り過ぎていった。
『グルルル……』
地竜が不思議そうに足を止めた。
俺が爪を回避したことが予想外だったんだろう。
「ふぅぅぅぅ……」
クラスメイト達は安堵のため息を漏らしていた。
予想外に俺が無事だったことにほっとして。
だが、俺は。
(どうして……どうして俺は避けてしまったんだ!)
原作では俺はここで怪我をするはずだった。
それなのに、我が身可愛さで原作知識を悪用してモンスターの攻撃を回避してしまい、原作から展開を変えてしまった。
『ヴァイオレット・フェイト』を愛する者としてあるまじき振る舞い!
俺という男は、自分の体の方が原作より大事だっていうのか。俺のゲーム愛はその程度だったのか!?
ああ……なんてことを……俺は……。
俺が自分の行動にショックを受けて茫然自失となっている間も、俺達1-2の生徒が地竜に襲われている状況は進行し続けている。
地竜は回避した相手に固執するより、別の楽に狩れそうな相手を狙おうと切り替え、次の獲物を品定めするように目をぎょろつかせていた。
「どうしよう……プラチナ……」
その中には怯えた瞳のシキがいた。
プラチナの服をギュッと掴んで、動けば狙われるような気がして、その場に立ちすくんだまま動くこともできずにいる。
プラチナはそんなシキの瞳を見ると、他の生徒達より一歩前に出た。
「プラチナ!? 何を!?」
「怖がらないで。シキは私が守るから」
そう言ってプラチナは剣を構える。
地竜はそんなプラチナに目を向け、舌舐めずりをしてゆっくりと近づいて行く。
プラチナの剣も震えている。
だが、彼女の足はその場から動かず、シキの前に立ち塞がり続ける。
『グオオオオオオオ!』
地竜は太い脚で地面を蹴り、土煙を舞わせながらプラチナに跳びかかった。
(ここだ!)
俺は再び立ち上がる。
(チャンスはもう一度あった! まだ原作の通りに修正するチャンスは残ってる! 今度はもう恐れない!)
まだやり直せる、この恥を濯ぎ原作を歪めずに行くルートは残ってる。
その爪で裂かれるべきなのはプラチナじゃない!
オードなんだ!
俺なんだ!
「うおおおおおおおおおお!」
大声をあげて恐怖心を消し、俺はドラゴンとプラチナの間に飛び込んだ。
「えっ……」
「君は!?」
プラチナとシキの驚いた表情が一瞬見え、同時にドラゴンの爪が俺の胸に振り下ろされた。
強い衝撃が走り、骨が割れる痛みが全身に反響する。
コンマ一秒遅れて、赤い血が噴き出した。
地面に倒れる自分がゆっくりに感じられる。
その視界の端に、騒ぎを聞きつけた教官達が急いで向かってくる様子が見えた。
ああ、これで大丈夫だ。
イベントでは、オードがやられた後、教官がドラゴンを倒してくれる。先生達の強さがわかるシーンでもあるんだ。
ここがあるから、後に鍛えて教師陣を超えた時にテンション上がるんだよな。
ふふふ……こんな時まで原作の展開を思い出すとはさすがだな……俺。
どさりと倒れると、少し遅れて噴き出した血が自分の顔に降ってきた。気持ち悪い。
倒れて体を動かせず空を見上げることしかできない俺の耳には、喧噪が聞こえてくる。
多分、モンスターと教官との戦いと、生徒の騒ぐ声がごちゃまぜになっている。
…………歓声だ。
どうやら、無事に教官が倒したらしいな。
と、視界に二人の人間の顔が覗きこんできた。
「大丈夫!? ねえ、君! しっかりして!」
シキだ。
そしてプラチナも。
「どうして? 私なんかの前に?」
二人とも泣きそうな顔をしているが、怪我はない。
「よかった……」
これで全て原作通りにいった。
ドラゴンの襲撃で怪我をしたのは俺で、その後教官が倒した。
教官達の戦う姿をじっくり見られなかったのは残念だけど、原作至上主義者として原作は遂行した。
これでいい……原作を……。
「守れた……から……」
そして俺の視界はブラックアウトした。




