証言者:森下澪
証言台に立った女_森下澪はまるで蛇に睨まれた蛙のように、身体を強張らせていた。
俯いている彼女に、容赦なく質問が次々と飛んでくる。
事件当日の行動を、という問いに対して、彼女はぽつりぽつり、と口を開いた。
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森下澪はその日、友人である天野ひなたの家へ向かっていた。
彼女の証言によると、その日集まったのは小学校来の幼馴染だそうだ。
天野ひなた、森下澪に加え、その場には「コウ」「アイラ」「ナギ」という人物が居たらしい。
12時頃に集まり、皆で共に昼食をとり、夕方頃に解散した、と。
彼女によると、「コウ」と「ナギ」とともに17時頃に家を出たそう。
コンビニで買いたいものがあったため、「コウ」「ナギ」と別れ、コンビニから駅までの道中で被告と遭遇。
元カレだということを知っていたのと、彼の行先が天野ひなたの自宅の方角と一致していたため、彼女に連絡するか悩んだそうだ。
が、彼女がせっかく元カレの件から立ち直ったばかりだったため連絡することをやめたらしい。
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「では、森下さん。あなたは被告とすれ違った際、天野さんの身に危険が及ぶかもしれないため連絡しなければ、と思わなかったということでよろしいでしょうか。」
弁護人が冷たく彼女に言い放つ。この裁判において、被告の罪は軽くはならない。
となると、弁護人の狙いは非難対象を被告から森下澪に変えることだろう。
全く、意地汚い。
森下澪の背中が、小刻みに揺れる。
「……一度は頭によぎった…、と思います。……でもヒナちゃん、やっとあの人のことを忘れて、幸せそうだったから。……もう、思い出させたくなかったんです。」
そう言って、被告の方を一瞥する。被告に向けられた彼女の瞳には、怒りや憎しみが渦巻いていた。
「それでは森下さん、あなたの証言内に登場した“アイラ”さんについて、少しお聞きしたことがあります。アイラさん、とは一体誰のことでしょう。取り調べの際、“アイラ”という人物に関して、貴女は全く話したがらなかった、と聞きました。何かやましいことでもあるのではないのでしょうか。」
その次の瞬間、わたし……いや、わたし“たち”は耳を疑った。
「……決めつけないで……勝手に、決めつけないで!!!!!!」
先程まで蚊の鳴き声のような声量で話していた彼女が、声を荒げた。
「アイラはそんなことしない、しません、絶対に。だから、あの子まで巻き込まないで。だってあの子が1番…!」
「証人、静粛に。」
彼女の怒りは行き場を失い、森下澪はその場に座り込んだ。
見ていられなくなり、わたしは外に出た。
その晩、インターネットは彼女とその後の証言者の話題で持ちきりだった。
彼女は罪を背負わされた。
___「傍観者」で「共犯者」だ、と。




