1-7|封印された夢見の技法
小雨が降る昼下がり、璃空は諏訪の町外れにある小さな郷土資料館を訪れていた。瓦屋根の低い建物は、観光客向けの陳列品よりも、村の古老たちの記憶を貼りつけたような、ひっそりとした空気を持っていた。
館内は薄暗く、受付の老婆が「昔の夢見渓の記録はもう非公開になってる」と言いながら、戸棚の奥から錆びた鍵を出してくれた。
「地下の保管庫に、開けてはならぬ資料がある。……だが、あんたの目を見たら、もう見てきたものだろうと思ったよ」
老婆の言葉に、璃空は無言で頭を下げると、地下へと続く階段を降りていった。
資料保管庫は、半ば封印されたような部屋だった。棚の多くは布で覆われていたが、ひとつだけ、鍵付きの木箱が剥き出しで置かれていた。
中には、古い8ミリフィルムと、手書きの記録帳が入っていた。フィルムを古い再生機で映すと、ぼやけたモノクロ映像が壁に映し出された。五芒星を模した円陣。中心に横たわる人物。その周囲を、白衣と和装の混じった人々が囲んでいた。
映像は断片的だったが、「夢見儀式」と書かれた付随記録にはこう記されていた。
本儀は、記憶契約との同調によって、宿主の過去世情報を一時的に内包する。術者はそれを読み取り、感情を祓い、魂を元の器へと返還する──貸魂の儀である。
璃空は、指で文字をなぞるように読みながら息を呑んだ。
「貸魂」とは、他人の記憶や魂の断片を一時的に借り、浄化し、返す儀式だった。
つまり、自身に残る誰かの声も、他者からの貸しである可能性がある。
記録の最後にはこうある。
八重により返還の儀は中断。正統印保持者不在のまま、輪廻の構造に不備生ず。以後、封印す。
正統印保持者
璃空の脳裏に、鏡台で見た左目の紋様が浮かぶ。
祖母八重は、魂を返さなかった。
それが、彼女の「失踪」の真相だったのか。そして今、その借りた魂の証明が、自分の左目に浮かびあがっている。
何かが、ずっと返されていないまま、宿り続けている。
璃空は静かに呟いた。
「俺は……誰の魂を、生きているんだ?」




