1-6|裂け目の初覚醒
雨は夜になっても止まず、納戸の屋根を打つ音が静けさを刻んでいた。璃空は古びた布に包まれていた夢見の石を掌に握り、薄い布団の上に身を沈めた。祖母の遺品のひとつ──滑らかな黒曜石に似たその石は、手の中で微かに熱を帯びているようだった。
目を閉じると、すぐに落ちた。沈むように。
闇の底、ざらついた空気の中に立っていた。地面は灰色の土で、辺りに境界線はない。無数の声が地中から響いてくる──言葉にならない、魂の震えのような音。
そして、突然、地面が「裂けた」。
ぴしりと音を立て、足元から深い断層が走る。黒く、底の見えないその裂け目は、ゆっくりと開きながら呻くように脈動していた。
璃空の足が動かない。視線は自然とその割れ目に引き込まれていく。断層の内側には、もうひとりの、自分がいた。
闇の向こうから現れたその影は、輪郭だけが異様に鮮明で、表情がないはずなのに、笑っているようだった。
「それは、君のものじゃないよ」
声は、璃空自身の声だった。だが、感情がなかった。音だけが空洞のように響き、魂の芯を冷やす。瞬間、左目に鋭い痛みが走る。掌の石が熱くなり、視界が弾けた。
璃空は納戸の畳の上で跳ね起きた。息は荒く、掌は汗で濡れていた。外はまだ夜で、雨音が続いている。夢だった。しかし、確かに魂の揺れを感じていた。自分の中にないはずのずれがある。どこかが噛み合っていない。
そして、鏡の代わりに使っていた窓ガラスに映る自分の左目に、あの印がはっきりと浮かび上がっていた。円環のような構造と、中心の裂け目。まるで、夢で見た地割れの断面そのものだった。
璃空はそっと目元に触れた。印はそこにある。視えないが、確かに在る。
「これが…魂の、裂け目?」
胸の奥が震えていた。これまで感じたことのない、自分の外側への不安。何かが侵入している。あるいは、すでに、すべてが“借り物”なのかもしれない。




