1-5|祖母の若き姿と印の符合
雨上がりの薄明かりのなか、璃空は旧宅の一室、押入れの最奥から一冊の古びたアルバムを取り出した。畳の匂いと微かな樟脳の残り香が、封じられていた時間をじわじわと解いていく。
ページをめくる指先が止まったのは、セピアに色褪せた一枚の写真だった。まだ二十歳前後に見える若き日の祖母・八重が、神社の石段を背にして微笑んでいる。その顔立ちは、まるで鏡写しのように自分に似ていた。ぞっとするほどに。
そして、写真の左上に微かに滲んだ光。八重の左目のあたりに、うっすらと青紫の模様が浮かんでいるように見えた。
「これは…」
璃空は息を呑んだ。印の形は、数日前に鏡台の前で見た自身の左目の紋と、まったく同じだった。幾何学的な線が円環のように折り重なり、その中心に小さな断裂のような歪みがある。
写真の裏をめくると、そこには震えるような筆跡でこう記されていた
契約解除には、夢の深部へ行くしかない──Yae
璃空の喉奥が乾いた。契約という言葉に、何かが反応する。過去に八重が触れ、そして隠したはずの何かが、いま静かに目を覚まそうとしている。
いや、違う。それはすでに動き始めていた。
あの左目に、あの印が浮かび上がったときから。
そして璃空は、ふと気づいた。この写真の八重の目線が、自分を見ているような気がした。
鏡ではなく、写真越しに。時間ではなく、夢の奥で。璃空は胸元にアルバムを抱えたまま、静かに呟いた。
「…八重は、まだ夢の中にいる」




