2-8|社会のざわめき
夜のネットは、ざわついていた。璃空の目の前のスクリーンには、いくつものブラウザウィンドウが重なり、次々と更新されるニュースヘッドラインが踊っている。
《夢見技術の倫理的限界に国会が言及》
《映像化された過去世? 匿名掲示板に拡散する「記憶の動画」》
《前世は他人のもの?夢見の外部漏洩に懸念の声》
璃空の指が震えていた。数日前、自身が夢で見た「死の記憶」が、どこかの端末から映像化され、SNSで拡散された。顔は映っていない。音声も不鮮明。だが──夢の中で感じた皮膚感覚までが、映像に焼き付いている。
匿名掲示板のスレッドには、観察者たちの投稿が相次いでいた。
「これ夢で見た。俺と同じだ」
「女の子が崖から落ちる映像、3秒前に聞こえる『マナ』って声、あれ、俺の妹の名前だ」
「これは……過去世映像だよな? おい、誰がこんなもんアップしたんだ」
議会の質疑映像に切り替える。大型モニターの中、官僚たちが顔を強張らせながら答弁している。
「……したがって現時点では、夢見の記憶が第三者に転送された経路は確認できておりません。ただし、個人の意識帯域が漏洩可能な状態であるならば、今後の法整備は」
璃空の耳にはもう、音が入ってこなかった。
彼の中で、何かが変わっていた。社会が、静かに彼を知り始めたことへの恐怖。だが、その一方で、奇妙な覚悟のようなものが、胸の底で目を覚まし始めていた。
(もう、戻れない)
次に夢に入る時。それは逃避ではない。自分という存在が、社会に晒されたことを受け入れた上での参加だった。
璃空は、ゆっくりと深呼吸し、夢見の石を手に取った。覚悟とは、拒絶でも、受容でもない。進むことを選ぶことだった。




