2-6|裂け目と記憶の暴走
深夜、東京の空が無音に沈む頃。
璃空は、暗い自室のベッドに横たわったまま、再び石の夢に引きずり込まれていた。冷たく沈む黒曜石の脈動。その奥から、あの裂け目が再び開いていた。
前回と違う──それは、直感だった。
亀裂はより深く、より広く、まるで網膜の内側に焼き付くようにして向こう側を覗かせていた。白い光の縁。その中から、誰かの記憶が──否、記憶群が、流れ込んでくる。
まず、少女の悲鳴。夜の河原。濡れた石の感触。
次に、男の背中。震える拳。復讐を誓うような強烈な怒り。
誰だ、お前は。
声にならない問いを発した瞬間、裂け目がさらに開いた。そこからは、名もなき者たちの断片──嘆き、切望、絶望、そして殺意が、一気に押し寄せてきた。
「ッ──!」
呻き声とともに、璃空は身体を起こした。自室の空気が重い。額から冷や汗が流れていた。呼吸が浅い。心臓が、まるで誰かのものになったように、打ち方を変えていた。
鏡台に目をやると、そこに映る自分の顔が歪んで見えた。
左目
その中心に、印が浮かんでいた。燃えたように、紅い。その赤は、夢の裂け目の縁と同じ色をしていた。
「……暴走してる」
自分の中に、他人の記憶が侵入してくる。
その混濁は、自我という器を揺さぶり、誰の声が誰のものかを曖昧にしていた。
璃空は、震える手で自分の胸元に触れた。
そこにあるはずのないもの──誰かの未返還の魂が、確かに、宿っていた。




