2-5|過去世映像の流出
夜の研究室。璃空は、PCモニターの前で微動だにせず画面を見つめていた。
そこには、どこか見覚えのある情景が映っていた。石畳の中央で、若い女がゆっくりと膝をつき、祭壇に両手を差し伸べる。周囲を囲む群衆。儀式服を着た男が手を掲げ、何かを宣言するように口を開く。
映像は古代劇のように見えるが、画質が不自然に鮮明だった。カメラワークには誰かの視点が滲んでいる。まるで──それを「見ていた」記憶そのもののように。
璃空は、背筋が凍る感覚を覚えた。
これ、俺の夢だ。
心の底で確信していた。昨夜、自分が夢見の石を通して接続したビジョン。それが、なぜか第三者のスマートデバイスから「映像」としてSNSに投稿されていたのだ。
投稿されたのは匿名アカウントから。だがコメント欄は異様な盛り上がりを見せていた
「これ、マジで記憶データじゃね?」
「前世体験したって人の記憶、流出したんだよ」
「#過去世ログ #輪廻リーク」
璃空は息を呑んだ。
再生数はすでに2万を超えていた。拡散は加速し、まとめサイトや掲示板にも「過去世映像のリーク事件」として取り上げられ始めていた。
なぜだ。俺は誰にも話していない。あの夢は、石に触れた自分だけのはずだった。手元のスマートデバイスに、不可解な履歴があった。「録画アプリ」が勝手に起動した痕跡。そして、映像がどこかのクラウド同期領域にバックアップされた記録。
誰かが仕掛けていたのか──いや、それとも。画面が揺れる。コメント欄にひときわ目を引く書き込みが浮かんだ。
「これは開いた印主の夢だ。次は誰の記憶が流れる?」
璃空の胸に走る疼き。左目の奥が、熱を持って脈打った。
魂の記憶が、個人のものではなくなる瞬間。
夢が「見るもの」から、「見られるもの」へと変貌する境界が、静かに──確かに、崩れ始めていた。




