2-2|記録されざる神
アーカイブの奥、埃の匂いが黙したように沈殿している。
階段を降りると、空気は微かに湿っていた。古い石壁に囲まれた狭い通路の突き当たり、小さな鉄の扉に「閲覧管理者同伴以外立入禁止」の文字。だがその警告はすでに色褪せ、何年も前から誰も近づいていないのだと教えてくれた。
璃空は手袋をはめ、瀬名から預かった鍵で扉を開ける。鉄の軋みとともに、中に冷えた空気が溢れた。並べられた古文書の木箱。その一つに、白墨で「YMM-第四次期-印契録」と書かれていた。
無言のまま、彼は蓋を開けた。中には羊皮紙が巻かれたまま数本、封蝋の一部が剥がれ、紙面には微かなシミが。
一本の巻物を取り出し、慎重に広げる。それは、縦書きの古文書体で記された契約文だった。
印主は、魂の複数運用を禁ず。一身一魂の原則を破りし者、その系譜に呪縛を遺す。
言葉の意味が、静かに彼の胸を貫いていく。魂の複数運用。それは、他者の魂を預かること、そして返さないこと。
その行為が、契約破りとされ、罰として血統へと刻まれる。
文書の末尾に、かすれた署名が見えた。
MZK/第四次印契期
震える指先で、璃空はその文字に触れた。
自分の姓と同じ頭文字──いや、これはもはや偶然ではない。
その瞬間、左目の奥が微かに疼いた。呼吸が浅くなる。まるで、書かれた言葉そのものが彼の内部で起動したかのように。
祖母八重は、これを知っていた。そして、破った。だから、返ってこない魂があるのだ。
呟きのように、夢の中の声が蘇る。
「それは君のものじゃない」
石板の文字は、ただそこにあるだけだった。だが璃空は理解してしまった。それは過去の記録ではない。彼の血はまだ、生きている。




