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魔法使いと偽装婚約  作者: ぷうまみい


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2/19

02.魔法使いと偽装婚約 その始まり(2/3)

 まるで夢のよう。

 風景も、男性も、プロポーズの言葉も。

 今ここにあるすべてが、造り物みたいな、完璧な美しさ。


 びゅう、と強風に頬を叩かれ我に返る。


「夏炎侯爵令息、シロウ様」


 震える声で名前を呼ぶと、黄金色の眼差しが私を射抜くように仰ぎ見た。

 瞬間、ドキリと心臓が跳ねる。


 私はこの方をとてもよく知っている。

 でも、シロウ様と私、とても婚約をするような仲ではない。


 不仲ではない。

 嫌っているわけでもない。


 むしろ逆。


 私はシロウ様が大好きだ。


 幼いころからたくさん面倒をみてもらって、全力で遊んでもらって、容赦なく叱られた。


 実のお母さんが亡くなったとき、ずっと私に寄り添ってくれた。

 実のお父さんが亡くなったとき、薄情な私の代わりに涙を流してくれた。

 そして、魔法士官学校への進学に反対していた父を説得してくれた。


 ――要するに『家族愛』として大好き。

 その距離が近すぎて、とても婚約しようとは思えない、そんな関係なのだ。


 けれど、これは『偽装婚約』。

 私の縁談を躱すためだけの婚約だ。どうせ結婚しない。だから相手がシロウ様でも問題ないのだ。


「プロポーズのお言葉、ありがとうございます。不束者ですが、どうぞよろしくお願いします」


 私の言葉に、金色の目がきらりと輝き、細められる。


「ありがとう。私の生涯を懸けて、必ず、貴女を幸せにします」


 ――本当のプロポーズみたい。


 真に受けちゃいけないと分かっているのに、顔がじわじわと熱くなって、言葉がうまく出てこない。


「ふふっ、格式ばったことはここまでにしておこうか」


 そう言ってシロウ様は立ち上がり、優しく微笑んだ。


「こんにちは、シヅさん。困らせてごめんね」


 鋭い黄金の眼差しが、お日様みたいに温かなものになる。

 私は肩の力が抜け、いつも通り挨拶を返した。


「こんにちは、シロウ様」


 笑顔を交わし合ったあと、まずは懸念点の確認だ。


「これ、『偽装婚約』ですよね?」

「うん、『偽装婚約』だよ」


 間違いなく『偽装婚約』であることに対する安堵と、その相手が気心の知れた方である安心感、こんなにも手の込んだプロポーズを演出していただいた申し訳なさ、そして、改めて『偽装婚約』という言葉を口にして情けなさと後ろめたさ……。

 いろんな気持ちが押し寄せて、私は深いため息をついた。


「本当に、いつもいつも、いーっつも、ご迷惑をお掛けして申し訳ありません……」

「迷惑だなんてとんでもない。私が、私の意思で、子爵の話に乗ったんだから、ね?」


 そうだった。

 最終的にはシロウ様も『偽装婚約』を受け入れたんだ。

 シロウ様はイヤなことはイヤって言うし、父がしつこいからって折れるような方ではない。自分の意思で許諾したのは間違いない。


 シロウ様は一体、何を考えて『偽装婚約』に手を貸してくれたんだろう?


「いいかい、シヅさん。私との関係はあくまで『偽装婚約』。シヅさんに好きな人ができたら、いつでも婚約を破棄してくれていいからね」


 ……なんて私にばかり都合がいい条件だろう。

 ますますシロウ様の考えが分からない。


「シロウ様はどうして『偽装婚約』を承諾したんですか?」

「一番の理由は、シヅさんの学校生活を邪魔されたくないから、かな。

 縁談だか婚約だか結婚だかで縁ができただけの部外者が、大事な娘の進路に無粋なケチをつけるだなんて耐えられないんだよねえ……」


 最初は穏やかな語り口だったシロウ様が、次第に剣呑さを帯びてきて、今はちょっと怖いくらいの圧を漂わせている。

 なんだか、見えないはずの魔力が顕現して、めらめらと燃え盛っているよう。

 この感じ、既視感があるんだけれど、何だっけ?


 いやいやそれより、今、聞き捨てならないことを言われたような。


「あの、娘?」

「娘でしょう?」


 他に何があるの? とでも言いたげに、シロウ様はさも当然のように言い切った。


 シロウ様、おいくつなんだろう?


 私たち魔法使いは長命で、見た目と年齢に相関がない。

 シロウ様に至っては、魔法使いなのはもちろん、あまりにお綺麗でいらっしゃるから、余計に年齢が分からない。分からなさすぎて、二十歳だよって言われても、二百歳だよって言われても、信じてしまいそう。


「私は今年、三十二だよ? シヅさんは十六なんだし、さすがに娘でしょう?」


 私は今年で十六歳。シロウ様が三十二ってことは、……十六歳差。

 倍。

 魔法使いとしては若いけれど、私からみれば、なかなかオジサンである。

 まあ、ここ紅国での成人年齢は十六歳だから、ギリギリ父親と言えなくもない、かなあ?


 ここでさっきの既視感の正体が分かった。

 いつも私に向ける温かな眼差しも、私に降りかかる理不尽に静かに憤る様子も、それは父が私によく見せてくれた娘想いな、もとい、親バカな姿だった。


 ああ、本当にシロウ様は、私のこと娘だと思っているんだ。

 そんな方と、偽装とはいえ婚約するんだ。


 『お兄さん』だと思っていたときは気にならなかったのに、『父親』だと思った途端、そういう立場の方と婚約するのはまずいんじゃないかなあ……? という考えがむくむくと湧いてくる。

 そんな私の気持ちを察したのか、シロウ様が言った。


「だから、ね? 私はいつでも、シヅさんに婚約破棄されるのを待ってるから。ね?」

「は、はい……」


 シロウ様の笑顔から底知れない重圧を感じる。

 『早くふさわしい伴侶を見つけてきてね』と。


 ああ、シロウ様にとってこの『偽装婚約』は、私へ舞い込む縁談を心配した親心でしかないんだな……。


 ――こうして私は、人生初の『偽装婚約』を結ぶことになったのだ。

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