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魔法使いと偽装婚約  作者: ぷうまみい


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13/19

13.魔法使いと魔力解析(4/4)

 目を覚ますと、見慣れた天井が見えた。

 匂いと感触にも覚えがある。

 女子寮の私の部屋の、ベッドの上だ。


「……倒れたんだった」


 思わず呟いて、声が出せることに感動を覚える。


 布団から起き、伸びをする。

 いつもと変わりない。

 昨日の倦怠感は嘘のように消えていた。 


「にゃあ」


 枕元にいた黒猫もぐーんと伸びをして、隣にあった()()()()()()に飛び乗った。


「ぎゃっ!」という悲鳴と共に、もじゃもじゃが顔を上げる。


「マリカ!」

「シヅ!」


 そう叫んで、マリカはぎゅうっと私を抱き締めてくれた。


「……もう大丈夫なの?」

「うん、平気」


 私もマリカをぎゅうっと抱き締め返した。


 ガラガラ、とぎこちない音とともに部屋が少し明るくなった。

 黒猫が爪でカーテンを引っかけ、開けてくれていた。

 外を見ると、空はやっと白み始めたところ。


 いつもなら二度寝する時間だけれど、私たちは起き上がった。

 お風呂に入り、身支度を整えながら、マリカが昨日のことを振り返って教えてくれた。


 ――マリカ曰く。


 倒れた私は、ミチル先生に抱えられて女子寮まで運ばれたらしい。


 ミチル先生が私の部屋で応急処置するのをマリカと寮母さんが見届け、そのあとマリカと、寮母さんの使役するこの黒猫がずっと付き添ってくれていたそうだ。


「昨日のシヅは顔が真っ青で、手も冷たくて、私、とても怖くて……」


 小刻みに震えるマリカの手に気付く。

 私がその手を包み込もうとしたら、反対にマリカに手を取られてしまった。

 ぎゅっと手指が締め付けられて、じんじんと痺れてくる。


 その強さがそのままマリカの胸の内を代弁しているかのようで、私は改めて申し訳ない気持ちでいっぱいになった。


「ごめんね、心配かけて」

「ううん。治って良かった」


 その後、寮母さんの計らいで、食堂で早めの朝食をいただいた。

 食べながら、私は魔力解析のことをマリカに説明していた。


「『特性』ねえ……?」


 マリカは首を傾げて呟いた。


「授業では普通に魔法を使えているのに、不思議ね」


 マリカがこう言うのも無理はない。

 私自身、実感がないんだもの。


「ねえ、シヅ。魔力測定って、具体的にはどんなことをするの?」

「えっと、火を起こしたり、風を吹かせたり、光らせたり! あと水を氷にもしたし、それを解かしたよ! それから、魔法の威力を測るみたいなのもやった!」

「よっぽど楽しかったのねえ?」


 マリカが呆れ顔でため息をついた。


「え!? あ、うん、ごめん……」


 そう言われて初めて、私が笑顔で語っていたことに気付く。


 仕方ない。

 小さいころから、魔法を使うのに憧れていたんだもの!


 それに魔法を使うと、しがらみから解き放たれたかのような感覚が全身を駆け巡って、清々しい気持ちになるのだ。


「楽しいのはいいけど、でも、あんまり無理はしないでちょうだい?」

「気を付けます……」


「ふふっ」と笑うマリカは、子どもの悪戯を許すときのような、慈悲深い笑顔をしていた。




 * * *




 マリカと一緒に登校すると、教室の前でミチル先生とツバキ先輩が待っていた。


「昨日は申し訳なかった」


 私を見るなり、ミチル先生とツバキ先輩が同時に頭を下げてきた。

 それがあまりにも丁寧な礼だったものだから、私は恐縮してしまう。


「あ、あの! 頭を上げてください!」


 頭を上げると、二人とも、深刻な顔をしていた。

 かける言葉を探していると、ツバキ先輩が先に口を開いた。


「私からも謝罪いたします。誠に申し訳ございません。お側にいながら、シヅさんの体調の変化に気付くことができず……」

「ツバキは悪くない。俺がちゃんと見ていなかったからだ。本当に申し訳なかった」


 こんなに謝罪されるということは……、もしかして、私が思っているより大ごとだったのかも!?


 もちろん、本来監督するはずのミチル先生が不在だったのは良くないことだと思う。


 でも私はたくさん魔法を使うことができて楽しかったし、なんならツバキ先輩に『もっと魔法を使いたい』とせがんだ身だし、謝罪されると内心複雑だ。


「私はこの通り、元気になりましたから! ね? お二人とも、お気になさらないでください。

 あ、そうだ! ミチル先生、部屋まで運んでくださったんですよね? ありがとうございました!」


「それこそ俺の仕事だ。礼を言われるほどのことじゃない」


 なんとか場を明るくしようと必死に言葉を紡いだ甲斐あって、ミチル先生の表情がふっと柔らかくなった。


「それからツバキ先輩も、ずっとそばにいてくださってありがとうございました」


 意識が遠のいていくなかでも、ツバキ先輩が私の名前を呼ぶ声が聞こえていた。とても心強かった。


「とんでもないことでございます」


 ミチル先生もツバキ先輩も、戸惑いを滲ませつつも笑顔になってくださった。

 よかった。私のせいで気落ちしてほしくないもの。


「それで、今日も朝から、魔力解析とやらをやるのですか?」


 マリカが目を吊り上げ、厳しい口調で言った。


「いや、倒れると魔力の制御が乱れやすくなるから、今日は魔法を使わないほうがいい。魔力解析は休みにするから、しっかり休むように」

「はい……」


 今日、魔法を使っちゃダメなんだ……。


 私が体調にもっと気を配っていたら、魔力解析の進捗が遅れることも、迷惑をかけることもなかったのに。

 思わず肩を落とすと、ミチル先生が言った。


「魔力疲労で倒れるのはよくあることだ。シヅが気に病むことじゃないからな」

「……はい、お気遣いありがとうございます」


 これ以上、みんなに迷惑をかけるわけにもいかないもの。

 今日は焦らず、しっかり休もう、と自分に言い聞かせた。



 そうして今日は、魔法を一切使わない授業に変更され、座学と、魔法士官学校に入って初めて体育の授業を行った。


 ……いや、体育というにはあまりにも過酷な時間だった。


 魔法士官学校のだだっ広い敷地を何周も走らされ、筋トレも柔軟もうんざりするほどやらされて、私もマリカも、それからハクト君やトウマ君だって動けなくなってしまった。


 ああ、でも、袖を捲り上げたミチル先生の上腕はとてもとても筋骨隆々で逞しく、眼福だった。

 それだけは良かった。

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