11.魔法使いと魔力解析(2/4)
その後、再測定、再々測定までが流れるように行われた。
再測定の結果もまたもやおかしく、さらに別の装置で再々測定まで実施したのだ。
「やはりおかしいですね……」
「あー……、これは本格的におかしいな……」
ツバキ先輩とミチル先生のしかめっ面に、私は気まずくなる。
私のせいで不具合が起きているのは間違いない。
でも、何が悪いのか分からない。
私はただツバキ先輩の指示通り、新型測定装置に手を置いているだけなのだから。
「シヅさんが悪いわけではないので、お気になさらないでください」
私の様子を察してか、ツバキ先輩が申し訳なさそうにそう言った。
ミチル先生は困り顔で前髪を掻き上げて、事情を説明してくれた。
「計測値が全部最高値なんだよ。新型測定装置で測れる魔力を超えているんだ」
「えっ!?」
パッと視界が明るくなる。
全部最高値。
つまり、私、めちゃくちゃ魔力が高い!?
私、強かったんだ! 嬉しい!
にやける私に、苦笑しながら口を開いたのはツバキ先輩だ。
「シヅさんは検査液での魔力測定は『紫』でしたか?」
「はい、『紫』でした!」
『紫』は、私の魔力量のランクだ。
従来式の魔力測定では、検査液に血を垂らし、検査液の色の変化を見る。
ランクは虹の七色に分かれていて、『赤』は魔力がほぼ皆無、『紫』は最高位だ。
「でしたら、やはり結果がおかしいと言わざるを得ません。この値になるなら『紫』はあり得ません」
私は首を捻る。
従来式の魔力測定は最高位の『紫』だった。
新型測定装置での計測値はすべて最高値だった。
矛盾はない、はず。
「実は『紫』の上に『黒』があるのです。……国内にも数えるほどしかいないのですが」
「そうだったんですか……!?」
「はい。新型測定装置の計測値がすべて最高値になるのであれば、検査液は確実に『黒』になります」
私、最高位じゃなかったんだ……。
その事実にがっくりと肩を落とした。同時に『紫』が最高位だと思って得意になっていた自分が恥ずかしくなる。
「ほら、気を落とすなよ。シヅの魔力が成長した、っていう可能性もあるだろ?」
「本当ですか!?」
ミチル先生の慰めの言葉に、私は前のめりになって縋る。
「……あくまで可能性、な」
ミチル先生は目を逸らした。
あからさまなその態度に、私は『黒』じゃないんだろうな……、と察した。
「まあ、でも、念のため検査液で測定するか。可能性がないわけじゃないしな」
「はい!」
そうして、私の前に検査液の入った小瓶が置かれた。
なんだか緊張する……!
私が外套の内側から短刀を引き抜くと、固唾を飲んで見守るツバキ先輩が映りこむ。
「では、お願いします」
短刀で指先を軽く切って、小瓶のなかに血を垂らした。
……痛いけれど、こういうのはさっさと終わらせるに限る。
「シヅさん、御手を触れてもよろしいでしょうか」
「え? は、はい」
私が返事をすると、怪我をした私の手が、ツバキ先輩の両手でそっと包まれる。
次の瞬間、ぽっと温かい魔力が灯るのを感じた。
ツバキ先輩が魔法で止血してくださったのだ。
わざわざ治さなくても、授業が始まるころには治ってしまうのに。
「ありがとうございます! 治癒魔法だなんて、ツバキ先輩はすごいですね!」
「とんでもないことです」
ツバキ先輩は何ということはない様子ですぐに私の手を解放すると、小瓶の蓋を閉め、上下にしっかりと振り始めた。
どうか、どうか『黒』になってますように!
目を瞑り、指を組んで祈る。
……けれど、そんなに都合良くはいかない。
目を開けて飛び込んできた色は、――薄い『紫』だった。
目の前が真っ暗になる。
「これは……『特性』だな」
「特性……?」
ミチル先生の言葉に、私は首を傾げた。
「じゃあツバキ、説明を頼む」
ツバキ先輩は頷き、身体ごと私に向き直る。
「魔法使いの魔力には、それぞれ固有の性質があります。
得意な魔法や苦手な魔法があるのは、その性質の違いによるもの――これは『個人差』です。
『特性』は、得手不得手ではなく、もっと独特な作用を指します」
「独特、ですか?」
「ええ。本人の意思に関わらず、『通常使えないはずの魔法が使える』あるいは『通常使えるはずの魔法が使えない』といった形で現れることが多いです」
「なるほど」
『みんなにできないことができる』のも、『みんなにできることができない』のも特性なんだ。
……きっと私の特性は『みんなにできることができない』特性なんだろうと思う。
だって、ほかの人は問題なく使えた魔装置を、私だけが使えなかったんだから。
『みんなにできないことができる』特性のほうがよかったなあ。
そっちのほうが強そうだもの。
「で、だ。今後の授業に差し障りがないよう、シヅの特性を特定する必要がある」
自分の力を把握しておくのは重要だ。
強くなるためなら、なおのこと。
それに、私の特性のせいでクラスのみんなに迷惑をかけてしまうのは避けたい。
「特性って、どうやって調べるんですか?」
私がそう問いかけると、ミチル先生はにっこりと笑った。……含みのある笑顔だった。
「シヅ、よかったな。たくさん魔法が使えるぞ」
ミチル先生はそう言うと、薄い冊子を一つ手渡してきた。
『魔力解析・測定項目一覧』と書かれたその表紙を一枚めくって仰天する。
「うわあ……!」
小さな文字がびっしりと並び、使うべき魔法が書かれている。次のページも、その次のページもだ。
単純計算で六百項目。想像を遥かに超えていた。
「こんなに魔法を使えるなんて、夢みたいです……!」
とても、とーっても嬉しい!
だって、魔法を使えば使うほど強くなれるのだから!
「これで喜ぶ辺り、ホンモノだな……」
「向上心が高いのですね」
私の様子を見たミチル先生は呆れ、ツバキ先輩は目を細めた。
「じゃあ早速やるか。ツバキ、助手頼む」
「承知しました」
ツバキ先輩はそう言うと、『準備室』と書かれた隣の部屋に行ってしまった。
学生が、助手?
戸惑う私にミチル先生が言った。
「ツバキは卒業したら教職に就くことになっている。だから魔力解析を経験させておきたくてな」
目を見張る私に、戻ってきたツバキ先輩は控えめに頭を下げた。
ツバキ先輩はまだ三年生。卒業まであと二年もあるのに、もう進路が決まってるんだ。
相当優秀なんだなあ。
「さて、魔力解析を始める。ひとまず『火を出す』『風を起こす』『光を放つ』の三つをやってみるか」
ミチル先生がそう言い終えるが早いか、ツバキ先輩がすかさず魔法石を私の前に置いた。
爪の先ほどの小さな魔法石だ。
こんなに小さくても、摘まめば魔法が使える確信が心の中に湧き上がる。
――『火を出す』……。
人差し指の先に乗せた魔法石に火が灯るようなイメージを頭の中に思い描く。
すると「ボッ」と小さな破裂音がして、指先に赤い炎が揺らめいた。
更に次の瞬間には「ゴオオ」と音を立てて燃え盛る。
見上げるほど大きく吹き上げた火柱が嬉しくて、私はつい「わあっ」と感嘆の声を上げた。
やがて火はゆっくりと萎んで消えていった。
か細い煙の立ち昇る指先には、何も残っていなかった。
「次、『風を起こす』」
余韻に浸る間もなくミチル先生に催促され、ツバキ先輩からさっきより一回り小さい魔法石を手渡される。
――『風を起こす』……。
風の動きは目には見えないわけだから、風が起こったと認識してもらうためには、そよ風ではいけないと思った。
だからイメージするのはぐるぐる渦巻くつむじ風だ。「びゅう」と音を立てて私たちを巻き込んだ強風は、一捻りして消えてしまう。
そしてやっぱり、魔法石もなくなった。
「……それじゃあ最後、『光を放つ』」
乱れた前髪を掻き上げるミチル先生の言葉と同時に、ツバキ先輩が粟粒ほどの小さな小さな魔法石を、私の手のひらに置いた。
――『光を放つ』……。
想像するのは太陽みたいな目の眩むような白光だ。
けれど、さすがに魔法石の量が少なかったらしい。
魔法石がまるで蛍のように、じんわりと光ってゆっくりと消えていった。
手のひらの魔法石も消えていた。
「特に異常なし」とミチル先生が言うと、すかさずツバキ先輩が冊子に書き込んでいた。
魔法、普通に使えてるなあ。
もっと躓いてしまうかと思っていたので拍子抜けだった。
ふう、と一つ、ミチル先生が小さなため息をついた。
「一つ、分かったことがある」
ミチル先生はそう言うと、にっこりと笑った。何度か見たことのある、もの言いたげな表情に、私は固まる。
「シヅ、お前、魔法石の魔力をあるだけ使ってしまうタイプだな」
「まさか……私、『魔法石を全部使っちゃう』特性なんですか!?」
「あっはっは! いや、これは特性じゃなくて、ただ魔力の制御不足だよ」
朗らかに笑ったミチル先生が、ふと思い出したかのように言った。
「そういえば、兄貴もそうだったなあ。やっぱり兄弟って似るもんだな!」
「似てません!」
兄に似てるだなんて、冗談じゃない!
早く魔力を制御できるようにならないと!




