表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法使いと偽装婚約  作者: ぷうまみい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/19

10.魔法使いと魔力解析(1/4)

 私とマリカが登校すると、教室の前でミチル先生が待ち構えていた。


「昨日は災難だったらしいな」


 私もマリカも目を丸くして顔を見合わせた。


 ミチル先生は昨日の誘拐未遂事件のことを父から聞いたらしい。

 白陰領への帰り支度で慌ただしい父にも手間取らせてしまったな、と申し訳なくなる。


「怖かっただろう。辛かったら授業中も無理をするなよ」


 ミチル先生は気遣わしげにそう言った。

 

 担任の先生がミチル先生で良かったな。

 筋骨隆々で大きくて、見た目こそ豪胆な印象だけれど、こういうふうに私たちのことを慮ってくださる。

 だからこそ、ミチル先生にまで心配をかけてしまったことを後悔していた。


 観光に行こう、なんて呑気なこと、言い出さなければ良かった。


 そんな考えが頭をよぎり、私がわずかに目を伏せたのを、ミチル先生は見逃さなかった。


「あいつらは、まだ魔法を使えない若者を狙う姑息な連中だ。お前たちは何も悪くない」


 ミチル先生はきっぱりと言い切った。

 声音は優しい。けれど、どこか沸々とした憤りもあって、その矛先は私たちではない、というのも分かる。


「それにしても『魔狩り』か。困ったな、まだ活動期じゃないと思っていたんだが」


 『魔狩り』。


 魔法使いを誘拐する組織だ。

 本当は『なんとかな魔法使いをどうにかするなんたらかんたらな狩人の会』みたいな名前だったと思うけれど、名前が長いので大体みんな『魔狩り』と呼ぶ。


「確かに、少し早いですよね」と、マリカが頷く。

「ああ、俺たちも完全に油断していた」


 理由は分からないけれど、『魔狩り』は五年周期で活動する。

 でも、前回の活動期は三年くらい前だったはず。

 だからこそ私たちも『魔狩り』は出ないだろうと高を括っていたし、警備隊だって厳戒態勢というわけではなかったのだ。


「とにかく、生きて帰ってきてくれて良かった」


 ミチル先生のしみじみとしたその一言が、なんだか、ひどく私の胸に刺さった。


 『魔狩り』の本拠地から逃げおおせた魔法使いの数は、片手の指で足りる。


 もし、父や母が私たちを見つけてくれなかったら。

 もし、シロウ様が助けにきてくれなかったら。


 私たちは今日、この場にいなかっただろう。

 今、学校にいることが奇跡なんだと、ミチル先生の言葉で痛感する。


 ミチル先生は微笑んでくれた。

 けれど、その笑顔は溌剌(はつらつ)としたものではなく、焦燥感を含んでどこかくたびれた印象を受ける。


 本当に、すごく心配してくださったんだ。

 私は悪くないと言われても、予測できないことであったにしても、やっぱり心が痛む。


「ミチル先生、ご迷惑をおかけしてすみません」

「いや、迷惑だなんて――」

「私、強くなって、今度は『魔狩り』を捕まえてみせます!」


 ミチル先生は目を丸くしたあと、プッと吹き出した。


「あっはっは! 頼もしいな! ああ、楽しみにしてるよ」


 ミチル先生の笑い声はカラッと晴れやかで、表情も明るさを取り戻していた。


 こう宣言した手前、絶対に強くならないと!


「それはそうと……。シヅ、お前、敵に突っ込もうとしたんだって?

 この前の授業でも火に突っ込もうとしてたし、そういうとこは親父さんや兄貴にそっくりだよなあ」


「えっ? 兄?」


「『むやみに突っ込むな』って兄貴にも説教した覚えがある。

 親父さんも危険を省みないところ、あるだろう? 血は繋がってなくても、似るもんだなあ」


 ミチル先生は悪意の欠片もなく、感心したように、ただ純粋な感想を言っているようなのだけれど……冗談じゃない!


 私の兄は――兄といっても当然血は繋がっていないのだけれど、見た目はすごく格好良い。

 兄のいる空間はなぜかキラキラと輝いて見えるし、兄の周囲はなんとなくいい匂いがする。


 けれど、性格に難があるのだ。


 やかましくって空気は読まず、他人を驚かせるのが大好きで、やっちゃダメだと言ったことを率先してやる。

 その上、怒られたってへらへらしている。


 ――要するに駄犬のような性格なのだ。


 そんな兄を、私はいわゆる反面教師みたいにしてきた。

 それなのに……、似てる!?


「似てません!」


 しまった、ムキになったような言い方になってしまった。

 ミチル先生が軽快に吹き出す。


「あはは! そうか、悪かったな! じゃあ、今後はむやみに突っ込まないでくれよ?」

「……はい」


 バツが悪くなって小さく返事をすると、ミチル先生はまた笑い飛ばした。

 そして、隣にいるマリカも、笑いを堪えて肩を震わせている。


 ……もしかして、私、そんなに兄に似ているのかな……。いやだな……。


 とにかく、もう絶対に、むやみに突っ込まない!

 そう心に刻み込んだ。




 * * *




 『魔狩り』の話のあと、私はミチル先生と一緒に『第五実習室』と書かれた部屋の前に来ていた。


 私の魔力測定の結果がおかしかったので、再測定をしたいと言われたのだ。

 ……魔力測定のとき、私だけやり直した時点で嫌な予感はしていたけれど……。


「すまないな。測定自体はすぐ終わるから」


 そうしてミチル先生が扉に向き直ったところで、内側からがらりと扉が開けられる。


「おはようございます」


 その声と、出てきた人物に覚えがあった。

 魔力測定のとき、私にやり直しを指示した先輩だ。


 ――それ以上に、とても印象的だったのだ。


 物腰が柔らかで、それを映し出すかのように翡翠の眼差しも穏やか。こんな方が魔法士官を目指しているなんて、と思ってしまうくらい、春の陽気を思わせるような、うららかな雰囲気を纏っていた。


 先輩の丁寧な一礼に、濃緑色の後れ毛がさらりと揺れる。


「お待ちしておりました。散らかっておりますが、どうぞお入りください」


 促されるまま第五実習室の中に入れば、新型測定装置がたくさん並べてあって、さらに工具が散乱していて、少々……いや、なかなか散らかっている。

 でも「お、ちょっと片付けたか?」「ええ、まあ、心ばかりですが」と話していたので、元はもっと凄惨だったらしい。


 奥の椅子まで案内されて腰を下ろすと、工学科の先輩はまたも丁寧に頭を下げてきた。


「早朝から申し訳ございません。三年工学科のツバキと申します。

 魔力測定の結果に不備がありましたので、装置を変えて再度実施したくお呼びしました」


 ツバキ先輩の驚くほど丁寧なご挨拶に、私も思わず背筋が伸びる。


「い、一年魔法特科のシヅです。この度はご迷惑をお掛けし申し訳ありません。再測定、よろしくお願いします」


 堅苦しい雰囲気に、ミチル先生だけがくつくつと笑っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ