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OZ  作者: 門倉 閂
2/2

Prologue

 彼女は、言った。


「手を貸して欲しい。君の力が必要なんだ」


 差し出された右手には僅かな揺らぎも無く。


 向けられた眼差しは、確かな信頼を表していた。


「ずっと君を探していた。君こそ、私たちに必要な最後の仲間、最後のピースメーカーだ」


 彼女の言っている言葉は、まるで理解ができない。


 その、理解できない言葉の中から、単語が一つ、耳に引っかかった。


 ピースメーカー。


 昔観た映画に、同じ名前の銃が出てきたことがあったっけ。


「ピースメーカー」


 もう一度、彼女はその言葉を口にする。


「“空白を埋める者”って意味らしい。こじつけっぽいけど、私たちにはぴったりじゃないか?」


 笑いながら、彼女はその言葉をとても誇らしげに語った。


 だけど僕は、そう言われたところでさっぱり要領を得ない。


「とにかく、場所を移そう。他にも二人、仲間がいるんだ。あいつらに君を紹介しなくちゃ」


 そう言うと彼女は、未だ硬直し、ぶら下がったままの僕の右手を半ば強引に握ると、そのままどこかへと歩きだそうと する。


 手を握られた瞬間、心臓が跳ね上がる。


 柔らかくて、ほんのりと温かい、永く忘れていた人の手の平。


 それも、奇妙なことばかり口にするけど、とてつもなくかわいい女の子の、だ。


 緊張し、紅潮する頬が恥ずかしくて、一層に僕の体温は上昇して行く。「さあ、早く!」


 その言葉と共に、握られた右手を強く引っ張られたことで、茫然と茹だちかけていた僕の意識は、急速に自分を取り戻していく。


 踏み止まって、握られた手を無理矢理解いた。


「ま、待ってくれよ!」


 そう、どうか待って欲しい。


 こっちははっきり言って、パニック寸前もいいとこなんだ。


「いい加減にしてくれよ! いきなり現れて仲間だなんだって、意味分かんないよ! 大体……」


 仲間だとかピースメーカーだとか。


 そんな訳の分からないことを抜きにしても。


「大体あんた何者なんだ? あんたは僕のことを知ってるみたいだけど、あいにく僕はあんたのことなんか知らないし、会ったこともない。どこかへ連れてく前に、それくらい説明したらどうなんだ?」


 例え彼女自身が、馬鹿みたいに信頼の眼差しを僕に向けていたところで、僕は未だに、彼女に対する根本的な疑問を抱えたままなのだ。


 そんな人間に黙ってついて行く程、僕は“勇敢じゃない”。


「うん? あぁ――」


 そんな、僕の疑心に満ちた言葉を受け、立ち止まった彼女は。


「いや済まない。君をみつけられたことで、つい舞い上がってしまっていたよ」


 それは道理だと。


 納得するように、バツが悪そうに。


 けど


「遅ればせながら、名乗らせて貰おう」


 けど確かにどこか、楽しそうに。


「私は、“ドロシー”。空から落ちてきた少女、赤い靴の迷子。帰るべき場所を探す者、さ。改めてよろしく、雨宮怜央。君と会えて本当に嬉しいよ」


 そんな、まるでお伽話の主人公のような、自分の名前を告げたのだった。

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